今日の記事は、実際に二段階方式を業務で使用している保健師さんのために書いています。
脳機能検査をするときには、できない項目こそ、被検者の生活を知る手掛かりになることを肝に銘じてください。
「そうそう。できましたね」と声掛けをしたい保健師さんたちが多くて困ってしまいます。なるべく「できた」といってあげたくなるんですよね。だいいち、正答になるとテスターが安心できる。
MMSEは、脳の老化が早まっていくときにはできなくなる下位項目の順番があることは、世界で誰も言っていませんが、大切な事実です。
(勉強ばかりでは左脳に偏りますから、我が家に一本だけあるカワヅサクラを追ってみました。咲きはじめは2/2)
当然できるはずの下位項目ができないときには、以下の三つの確認をしなくてはいけません。
1.テスターに原因がある。声が小さい。ラポールを無視して機械的に質問をしてしまった。途中で邪魔が入った。このような場合は再試行すれば嘘のように正答になります。
2.被検者の前頭葉機能に問題がある。前頭葉機能が年齢を超えて働きが落ちてしまうと、注意を集中させることが難しくなります。つまり、テスト状況にあるにもかかわらず「うわの空」の状態になってしまうことがよく起きてしまいます。
この時も、きちんと集中してもらって再試行すれば正答になるものです。
3.被検者の、脳機能に問題がある。この場合は繰り返し質問してもできません。「やろうとする気持ちは十分にあるのに、脳機能に問題があるために、どうしてもできない」。確かにテスターとしたら「できない」ということを確認することは、多大なエネルギーがいります。
咲きはじめ桜花には青空がよく似あいます。
さて、珍しいケースの相談がきました。
「話せることは話せるのですが、何か変。失語症かなあ…と思ったのですが…」
二段階方式で認知症を理解するときには
1.脳機能検査
2.生活実態
3.生活歴
この三つは、まったく同等に大切な情報です。今回の相談事例では、残念ながらどれも少しずつ情報不足。ですからあくまでも推測の域ではありますが、結論をまず明らかにしておきましょう。
非常に珍しいタイプの失語症「原発性進行性失語」の可能性が、一番高いと思います。
変性疾患といいますが、脳内病変(脳梗塞や脳出血や脳腫瘍など)や事故などで脳が傷ついていないにもかかわらず、ことばに関する機能に支障が起きてきます。それも少しずつ少しずつひどくなっていくのです。
当初「痴呆なき緩徐進行性失語(slowly progressive aphasia without generalized dementia)」Mesulam1982年といわれて、一症例で学会発表されるくらい珍しいとされていました。
ところが、二段階方式で認知症を理解しようとする市町村の保健師さんから、時々「原発性進行性失語」の相談が来るのです。もちろん例外的ではあるのですよ。
1.脳機能検査から見ていきましょう。
側頭葉性健忘症でない限り、前頭葉機能の低下はまずあると思った方がいいでしょう。今回もまあ予想通り。
特筆すべきは語想起の際の反応「タヌキ…イール イル…」思った単語が言えない。ちょうど感覚性失語症でキーワードが出ない状態によく似ています。
MMSEは、CTなどの画像診断ができない場合でも、機能低下を起こしている場所を類推できる優れたテストです。
MMSEの特徴は「アルツハイマ型認知症のように単に老化が進んだ場合だと、できるはずの下位項目ができない」
三単語の復唱や文の復唱、計算能力も問題がある(時間がかかる。一桁の加減算はできるが、繰上りや繰り下がりが入ると全然できない)ようです。
さらに「字が書けない」症状もあります。
「字」が書けません。右の例だと文法的にも問題があります。
この人の名前は「明子」ですが「朋子」と書いてしまう、自分の名前を間違えるなんてありえない間違いです。
「れいわ」といいながら、「令」の字が間違い。「わ」が「ヤ」になっています。
細かく見ていくと、たった15分くらいの時間でできるMMSEから大きな情報が得られてることがわかりますが?
原発性進行性失語症は、運動性(しゃべりにくい)といわれるのですが、私の持っている症例でも、保健師さんからの症例でも、当初は感覚性(入力障害、聞き取りにくい。キーワードがなかなか出てこない)の場合の方が多いようです。
私たちは、診断をする必要はありません。
脳機能検査の結果をそのままに理解してあげることから始まります。
「単語を三つ続けて言うと、復唱できない」
「三つの文章の指示には従える」
「文章をそのままに復唱することが非常に難しい」
「書字に関しては、思ったように書けない」
この脳機能で生活していることを理解してあげてください。そのために検査したのです。
昨日友人宅の寒緋桜を見に行きました。
私たちの業務は、脳機能検査をして、生活指導をすることです。何らかのきっかけから「生きがいなく、趣味なく、交遊も楽しまない。そして運動もしない」ナイナイ尽くしの生活を続けるうちに、脳の老化がどんどん進んで、生活に支障をきたすようなタイプのアルツハイマー型認知症。そのタイプに対して生活改善指導を行って改善を図ることです。
そのためには、1.脳機能検査。2.生活実態。3.生活歴の指し示す内容が、老化が加速した結果であることが大切です。今回はもう少し突き詰めておかなければいけなかったですね。特に脳卒中やけがの既往があるかないかは、必須の情報です。
今回のようにアルツハイマー型認知症といえない場合は、ドクターの診察を仰ぐことになります。
その時病名を伝えるのではなく、今起きている「症状」を具体的に説明することが重要です(くれぐれも診断はしないように気を付けてください)。
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