またまた防衛局が辺野古新基地建設事業でおかしなことを始めた。大浦湾の軟弱地盤の改良工事に向け、土木工学の大学教授ら、専門家による有識者会議を立ち上げるというのだ。
8月23日(金)の読売新聞が1面で大きく報道し、私のところにも報道各社からコメントを求める電話が相次いだ。この有識者会議の詳細はまだ不明だが、10人前後からなり、9月6日にはもう初会合が開かれるという。
大浦湾の軟弱地盤は、海面下90mまで続いている深刻な実態が明らかになり、世界でも前例のない地盤改良工事が行われる。すでに7月末には、地盤改良工事の詳細設計や沖縄県への設計概要変更申請の取りまとめ、さらに環境への影響を検討する2件の委託業務が発注された。その工期は来年3月末なので、普通なら県への設計概要変更申請は来年4月以後になるはずだ。
ところが報道では、年内に地盤改良工事の設計を終了し、年明けには県に設計概要変更申請を提出するという。7月末から始めた検討作業が年内に終了するとは普通では考えられないが、日本工営や「いであ」等、従来から辺野古新基地建設事業を推し進めてきたコンサルや調査会社は、受注する前から作業を進めているのだろう。
問題は地盤改良工事が技術的に可能かどうかということだけではない。最も重要な問題は、あの豊かな自然が残されている大浦湾の環境に致命的な影響を与える、こんな大規模な地盤改良工事が許されるのかどうかということである。報道によれば、有識者会議は土木工学の専門家だけで構成される。せめて形だけでも環境面の専門家を入れるのならともかく、もう結論は目に見えている。全くの茶番劇としか言えない。
(8月23日 読売新聞) (8月24日 沖縄タイムス)
埋立承認の際の留意事項として設置された学者らによる環境監視等委員会は、もう無残な「御用機関」としての役割しか果たしていない。今回、設置される有識者会議は、さらに露骨な事業推進のための「お墨付き」を与える組織でしかない。地盤改良工事の設計概要変更申請に対して、知事が不承認しにくい環境づくりを狙ったものである。
それにしても、政府は学者らを都合よく使うのもいいかげんにすべきだろう。今年1月、政府は軟弱地盤問題に関して『地盤に係る設計・施工の検討結果 報告書』を公表した。そして、日下部治東工大名誉教授にこの報告書の鑑定を依頼し、3月にその鑑定書が出された。日下部名誉教授は、「概略検討としては適切」としたものの、「詳細設計では、より密度の高い地盤調査や土質試験を実施するのが有益」、「必要に応じ、追加の地盤調査・土質試験が計画・実施されることも想定される」等と指摘した。しかし政府は、「学者の鑑定書で適切とされた」というだけで、追加の地盤調査の必要を指摘されたことについては全く無視を決め込んでしまった。有識者会議で学者の意見を求めたところで、自分たちに都合のいいところだけを抜き取って利用することは目に見えている。
また、活断層の存在を学者らが指摘したとき、防衛省は、「研究者の発言一つひとつについてコメントすることは差し控えます」と答えていたのだ(3.28 防衛省からの文書回答)。
私も大学で土木工学を専攻したからよく分かるのだが、特に土木工学の学者や技術者は、どうしても狭い技術面の世界に閉じこもり、社会的な問題が考えられない人が多い。工学部の中でも土木工学科が特にひどいのだ。私が在籍した大学でも、国の審議会の委員等に抜擢されることが、自らの社会的な名声だと考えている教官連中がほとんどだった。私の学生当時、各地で公害反対運動が盛り上がったが、現地を訪ねると、私の大学の教官たちが政府側・企業側で立ちまわっているので唖然としたものだ(大学院の研究室には、現職の自衛官が研究生として在籍していた)。
今回の有識者会議の学者らも、個人的には、技術的な課題を克服し、困難な工事を成功させることにやりがいを感じている人たちが多いかもしれない。しかし、そんなことが「技術者としての誇り」ではない。狭い技術面だけではなく、辺野古新基地建設事業が持つ社会的な意味を踏まえて問題を考えてほしいものだ。