学問空間

「『増鏡』を読む会」、第9回は2月22日(土)、テーマは「上西門院とその周辺」です。

謎の発言者

2015-01-22 | 網野善彦の父とその周辺

投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2015年 1月22日(木)16時05分23秒

討議「網野善彦は歴史学をどう書きかえたか」の中で、一箇所だけ身元不詳の人物の発言がありますね。
成田龍一氏がハリー・ハルトゥーニアン氏に言及した直後の部分です。(p87以下)

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保立 最初に話題にされた、先日成田さんがアメリカで参加してきた学会のもう一人の主催者のことですが・・・・・。
成田 ハルトゥーニアンさんのことですか。
保立 ええ、韓国で梨花女子大の咸東珠(ハン・ドンジュ)先生に会ったら、ハルトゥーニアンさんの教え子だと言っておられた。
成田 ハルトゥーニアンさんがナラティブの歴史研究を日本研究に持ち込んだパイオニアです。彼が「日本」を自明としない日本研究というものがあるんだとうことを最初に言い出して、その元にいっぱい人が集まってきました。ハルトゥーニアンさんがシカゴ大学にいたのでシカゴ学派というのですが、そのとき大学院生だったのが酒井直樹さんやフジタニ・タカシさんたちです。
 ハルトゥーニアンさんのアウトプットの仕方は歴史像というよりも歴史理論を出すというやり方ですので、フジタニさんなどは歴史像を描くなかで、「日本」の自明性を壊し、あらたな日本研究のありようを探っています。
── 今回成田さんのご紹介でこの特集号に文章を寄せてくださったウィリアム・ジョンストンさんは、そのへんの人脈とは違いますか?
成田 少し違います。(後略)
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36ページに渡る討議の記録の全文を再確認してみましたが、実にここ一箇所だけ、発言者の名前がない謎のコメントが記録されています。
事情は知りませんが、おそらくこれは(Mz)として「編集後記」を書き、奥付に「編集人 水木康文」と出ている人物の発言なんでしょうね。
成田龍一氏が紹介したというウィリアム・ジョンストン氏の「封建漁民から列島の人々へ 網野善彦の歴史叙述の旅路」(p232以下)は、前にも少し書いたように事実関係が間違いだらけですが、まあ、アメリカの研究者だから仕方ありません。
私が丁寧に添削してあげたら多少は感謝してもらえそうですが。

久しぶりに網野善右衛門氏について
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/ae3a13aa850fef5f5f521e511cc01377

>筆綾丸さん
>時頼の遺偈は浅ましいコピペ
日本有数の巨刹である建長寺には、その権力と財力で集めた最強の弁護団が数百年間存在していますから、いくらブチブチ言っても蟷螂の斧ですが、それだけに細々と文句を言う楽しみは格別ですね。

>佐藤優氏
図書館で基督教関係の本棚を眺めていて気づいたのですが、佐藤優氏は新教出版社からけっこう本を出していますね。
私には神学関係の内容の適否を判断する能力は全くありませんが、佐藤氏の文章には同志社大学大学院神学研究科修了という経歴はダテではないな、と思わせる迫力がありました。
インテリジェンス関係で社会から受け入れられなくなっても、宗教関係で生きてゆくこともできそうで、なかなか生命力の強い人ですね。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

軽業師の Sein と Sollen 2015/01/22(木) 12:31:18
小太郎さん
『東アジアのなかの建長寺』が開山に多くの頁を割きながらも遺偈については何も語らない、という不自然さは、いつにかかって遺偈の奇怪さにある、ということなんでしょうね。時頼の遺偈は浅ましいコピペで、道隆の遺偈は忍者もどきの曲芸で、こんなものが鎌倉期の禅思想の到達点だとすると、大文明国の本物の知識人は南宋に殉じてみんな死に絶え、東アジアの果ての辺鄙な国に亡命してきたのは傍流の変人ばかりだったのではあるまいか、という気もしてきますね。それでは中世の研究者として身も蓋もないので、鎌倉期の禅僧たちをなにがなんでも持ち上げねばならぬ、それは禅的哲学者云うところの絶対矛盾的自己同一としてのアクロバティック・ゾレン(軽業師的な当為)であって・・・。

『捏造の科学者』の著者(須田桃子氏)は優秀な方で、早大時代の専攻が物理学というのも頷けます。しかし、読了後も、小保方晴子という女は何者だったのか、という謎は残りました。女教祖のような存在・・・。

http://www.shinchosha.co.jp/book/610600/
『賢者の戦略』で、佐藤優氏が次のように述べています。
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佐藤 理研の小保方さんの問題が起きたとき、僕がまず心配になったのは、彼女がイランや北朝鮮などにリクルートされたら、とても面倒なことになる、ということでした。彼女には研究者としての一定の能力がある、理系の能も持っている、恐らく日本に対して恨みも持っている。三条件が揃っています。そんな彼女に、「あなたは研究が好きでしょう。わが国の新しい研究施設で生物兵器の研究をやりませんか。恨みも晴らせるんじゃないですか」などと声をかけてこないこと限らないのです。荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが、世界ではそんなことが日常茶飯で起きているんですよ。「情報屋」も同じことです。それなりの能力のある人間が、海外から引きぬかれたらどうするか。これを一番に心配するわけです。(263頁~)
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これが自称「インテリジェンスの専門家」の心配なんだそうですが、こんなバカなことを考える能力には吃驚しました。「イランや北朝鮮」はそれほどバカではあるまい。理研のCDBを解体に導いたという華々しい実績からすれば、敵国に潜入して「破壊工作」をする「コツ」「や「レシピ」は持っているかもしれませんが、ただそれも、日本国内だからできたのであって、臨戦態勢にある「イランや北朝鮮」では難しいだろうなあ、とは思います。
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"East Asian Historical Thought in Comparative Perspective"

2015-01-22 | 網野善彦の父とその周辺
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2015年 1月22日(木)13時09分53秒

コロンビア大学のウェブサイトによれば、成田龍一氏がアメリカで参加したという「シンポジウム」は、正確には"East Asian Historical Thought in Comparative Perspective: What History Is, Knows, Does" という"Lecture Series"(連続講義)だそうですね。
「比較を通しての東アジアの歴史的思考 歴史とは何であり、何を知り、何をなすのか」とでも訳せばよいのでしょうか。

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Lecture Series

"East Asian Historical Thought in Comparative Perspective: What History Is, Knows, Does"
October 2014 - December 2014

October 14
(Tuesday)
"Japan"
Narita Ryuichi, Professor, Japan Women's University
Harry Harootunian, Adjunct Senior Research Scholar, Weatherhead East Asian Institute, Columbia University
Carol Gluck, George Sansom Professor of History, Columbia University
6:00 PM - 8:00 PM
International Affairs Building Room 918
No registration required.
Co-sponsored by the Department of History

http://www.columbia.edu/cu/weai/events/brownbags/east_asian_historical_thoughts.html

2014年10月14日、11月18日、12月3日の3回、各2時間開催されて、テーマはそれぞれ「日本」「中国」「西洋」。
一回目はJapan Women's University教授の成田龍一氏とHarry Harootunian、Carol Gluck氏の三人が議論したらしいので、まあ、小なりといえども「シンポジウム」なのでしょうが、2回目はウィスコンシン大学歴史学部助教授のViren Murthy氏、3回目は"Moved by the Past"という本の著者Eelco Runia氏の名前しか出ていないので、単なる講演じゃないですかね。
検索してみたところ、Viren Murthy氏は東アジアの知識人、章炳麟や竹内好などを研究対象としている人だそうですね。

Viren Murthy
http://history.wisc.edu/people/faculty/murthy.htm

Eelco Runia氏は、ご本人のサイトによればオランダの小説家兼歴史哲学者だそうです。

Moved by the Past Discontinuity and Historical Mutation
http://cup.columbia.edu/book/moved-by-the-past/9780231168205
Eelco Runia
http://www.eelcorunia.nl/biography/

まあ、経歴・著作等をネットでざっと見ただけで判断するのは失礼かもしれませんが、両氏とも歴史学の主流を歩むというよりは、周辺のマイナーな分野にいる人のような感じがします。
この「シンポジウム」から「世界的に歴史学のあり方を見直そうという機運が出てきている」とまで言うのは、些かハッタリも度を過ぎているのではないですかね。

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