【現代思想とジャーナリスト精神】

価値判断の基軸は自らが判断し思考し実践することの主体であるか否かであると考えております。

『平和のための第16回コンサート』と「国立感染研の安全性を考える会」

2015-05-21 11:36:46 | 社会・政治思想・歴史
『平和のための第16回コンサート』と「国立感染研の安全性を考える会」
櫻井智志


 「平和のためのコンサート」も、「国立感染研の安全性を考える会」も、哲学者芝田進午氏とゆかりの深い営みである。
「平和のためのコンサート実行委員会の起草されたコンサートの呼び掛けを紹介しよう。


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 第16回目となる「平和のためのコンサート」を今年も開催することとなりました。
2015年は戦後70年、核時代70年です。しかし、現在は「新しい戦前」とも言える状況になってしまいました。解釈改憲、集 団的自衛権行使、武器輸出解禁、沖縄県辺野古での新基地建設、原発再稼働、原発輸出。この国はどこに行こうとしているのでしょうか。私たちは平和を求めてこのコンサートを開催してきましたが、ますます平和が遠のくように思えて仕方ありません。




 今年の講演は新井秀雄さんに「バイオ時代の感染症」と題してお話していただきます。本コンサートは予研=感染研裁判支援コンサートとして出発しました。同裁判を引っ張ってこられた故芝田進午先生の遺稿集「バイオ時代と安全性の哲学」も出版され、エボラウィルスの脅威が伝えられた昨今、国立感染症研究所主任研究官であった新井秀雄さんから有意義なお話が聞けるものと思います。




 私たちは今年も平和を求めてコンサートを開催します。ぜひ、周りの方々にコンサートに足を運んでいただけるよう、声をかけて頂ければ幸いです。とりわけ、平和を継承する若い世代のかたたちにも来ていただきたいと存じます。戦争立法が不気味な現実のものとなって暴走している現在、戦争に行かされるのは若い人たちからなのです。絶対に若者たちを戦場へ行かせてはなりません。

2015年(核時代70年)
平和のためのコンサート実行委員会

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 今回の第1部講演者新井秀雄さんは、誠実な人格の持ち主であり、敬虔なクリスチャンでもある。コンサートパンフでは以下のような紹介がなされている。

新井秀雄さん

1942年静岡県生まれ。北海道大学獣医学部卒。獣医学博士。

国立感染症研究所主任研究官として百日咳、溶血連鎖球菌などの研究に従事する。長年、所内からバイオハザードの危険性を指摘し

、予研=感染研裁判では、住民側証人として法廷で証言を行う。
ドキュメンタリービデオ『科学者として』(本田孝義監督、1999年)に出演。同作は東中野BOXなど映画館で公開された。
2000年、自らの心情を綴った『科学者として』(幻冬舎刊)を出版。同書などの記述について、所内で厳重注意処分を受ける。
2001年3月、処分撤回を求めた民事訴訟を提訴、2007年敗訴確定。2003年3月末日、定年退官。
バイオハザード予防市民センター幹事。共著に『教えて!バイオハザード』(2003年、緑風出版刊)がある。



「平和のための第16回コンサート」の概要を示すと以下のようである。

日時:2015年6月2日(土)14:00開演(13:30開場)
料金:¥2,200(全席自由)
会場;牛込箪笥区民(うしごめたんすくみん)ホール
都営地下鉄大江戸線 牛込神楽坂駅A1出口 徒歩0分
東京メトロ東西線 神楽坂駅2番出口 徒歩10分


第一部〜講演〜

新井秀雄さん  バイオ時代の感染症




第二部〜コンサート〜

重唱       アンサンブル・ローゼ(ピアノ:末廣和史)
         ♪マリアの子もり歌/レーガー作曲
         ♪サンタ・ルチア/ナポリ民謡
         ♪セレナーデ/トスティ 作曲         他
          ソプラノ   :高橋順子  渡辺裕子
          メゾ・ソプラノ:高橋邦子  芝田貞子
          アルト    :嶋田美佐子

チェロ独奏    佐藤智孝(ピアノ:八木宏子)
         ♪白鳥/サンサーンス作曲           他

ビアノ独奏    児玉さや佳
         ♪ノクターン 変ホ長調Op.9 No.2/ショパン 作曲
         ♪ピアノ即興演奏

マリンバ独奏   水野与旨久(ピアノ:水野喜子)
         ♪組曲「グランド・キャニオン」より 山道を行く/グローフェ作曲
         ♪オペラ「タンホイザー」より 夕星の歌/ワーグナー作曲
         ♪タンゴ エルチョクロ/ビジョン作曲

会場の皆様とご一緒に
         ♪「青い空は」/小森香子作詞・大西進作曲

司会  長岡幸子さん

主催 平和のためのコンサート実行委員会

お問い合わせ  TEL&FAX 03−3209−9666 芝田様方


後援  アンサンブル・ローゼ/ノーモア・ヒロシマ・コンサート
    ストップ・ザ・バイオハザード国立感染症研究所の安全性を考える会
    バイオハザード予防市民センター

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◆芝田進午遺稿集『バイオ時代と安全性の哲学〜予研=感染研裁判と再移転要求運動〜』について



 このコンサートを後援する「国立感染研の安全性を考える会」は、同時に芝田進午遺稿集『バイオ時代と安全性の哲学〜予研=感染研裁判と再移転要求運動〜』を出版した実質的な編集主体でもある。



 芝田進午遺稿集『バイオ時代と安全性の哲学〜予研=感染研裁判と再移転要求運動〜』。この本は復刻版や再版ではない。2015年3月14日に桐書房から刊行された新刊である。(定価は、本体価格1850円+税)2001年3月14日に、予研=感染研裁判の原告団代表として、理論的実践的に文字通り先頭になって闘われた芝田進午氏は、胆管がんのためにご逝去された。本書によると、この3月14日はマルクスの命日でもあるのだそうだ。

 

 3月14日に出版されたこの本を、芝田進午氏の奥様芝田貞子さんから贈呈していただいて、私はとてもうれしくとても驚いた。
この本は、芝田進午氏の、公開されていないが、感染研裁判闘争の過程で折々に執筆された重要論文をよく整理して構成された遺稿集となっている。なによりも、予研=感染研裁判が最高裁まで闘われて、その後も「国立感染研裁判所の安全性を考える会」として再スタートした集団的主体について、私は全く認識を新たにした。会長の鈴木武仁氏は、本書の「はじめに」に以下の丁寧で理解しやすいそれ自体が問題提起の論文とも言える文章を執筆されている。なおそれまで会の事務局長として重責を担われた田頭盛生さんが都心から西東京市に転居なさり実務処理上に一定の不便をきたすため、この会を芝田進午氏の生前から運動に同伴しつづけた芝田貞子さんが、「国立感染研の安全性を考える会」の事務局長を引き受けられている。田頭氏自身は法政大学の芝田ゼミ以来一貫して芝田先生の学問と実践を継承し、今も一員として活躍なされていることにはなんら変わりない。


======芝田進午遺稿集『バイオ時代と安全性の哲学〜予研=感染研裁判と再移転要求運動〜』


「はじめに」引用 *原文の通り掲載==============


 予研=感染研再移転の裁判闘争を推進した芝田進午(一九三〇〜二〇〇一年)は、「人類生存の哲学」を体験的に構築し主張した社会科学者であった。それはアメリカ独立宣言に結集する民主主義思想を一つの柱として、東欧社会主義の限界を克服する思索の構築であった。思索はそれだけにとどまらずさらに視野を広げ、原爆による大量殺戮の現実を直視した「人類生存の哲学」へと発展していった。


 彼は若き日、『人間性と人格の理論』を執筆し、労働の技術的過程と組織過程において人間の発達過程から疎外化された人権をいかに回復するのかに関心をもった。その後、文通を続けていたクエーカー派のキリスト者アリス・ハーズのベトナム戦争への焼身抗議を通し 、知行合一の重大性に目覚め実践者として生きる覚悟をもった。それは『われ炎となりて−ベトナム戦争に焼身自殺したアリス・ハーズ夫人の感動書簡集』(編訳)となって六六年に上梓。翌年、法政大学社会学部教授になり、ベトナムへ戦争犯罪の実態調査に行き、『ベトナムと思想の課題』、ジョン・サマヴイル『現代の哲学と政治』(編訳)を出版し、三九歳で『ベトナム日記−アメリカの戦争犯罪を追って』、アリス・ハーズ『ある平和主義者の思想』(編訳)を出版した。一九七六年に広島大学総合科学部教授になり、六二歳で退職するまで「ノーモア・ヒロシマ・コンサート」運動を立ち上げ反核芸術を主張した。



 一九八七年、五六歳から予研=感染研裁判闘争に関わり、一九八八年『生命を守る方法−バイオ時代の人間の権利』、一九九〇年『論争 生物災害を防ぐ方法−バイオ時代の人間の権利Ⅱ』、一九九三年『バイオ裁判−バイオ時代の人権と予研裁判』(編著)を出版し、裁判闘争を組織する中心となって活躍した。



 彼は常に物事を深く洞察し、その本質を鋭く見抜く目をもっていた。ただ単に観察するだけではなく、人間に付与された本質が永遠の平和と生命の復権の闘いへと彼自身を導いていった。それは必然的に「安全性の哲学」の構築へと発展した。同氏の理論的実践的展望から、その諸著作や発言は、〈未来〉のためになすべき課題を投げかけていた。いつか襲来すべき感染症の猛威のバイオテロの攻撃は今や現実化し、想定外の話ではなくなっている。



 バイオハザード(生物災害)は、病原体微生物の存在、それに呼応し、感受する個体および集団の存在、および感染経路の存在が複合的に関連し合って発生するものだが、そのどれかを根絶または遮断・制圧する技術により安全が維持される。西アフリカで発生したエボラ出血熱の脅威は間もなく終息するであろうが、さらなる微生物の脅威が襲ってくることは想定できる。しかし課題はそれだけではない。このバイオハザード対策が生物兵器開発の研究へと転化することへの危険である。国立感染症研究所はその創設期には旧陸軍の七三一部隊と密接な関係を維持し、彼らは生物兵器の開発と使用に積極的であった。そのときの人脈的・思想的流れが今でも断ち切れているとは言いがたい。このような意味で、芝田のめざした「安全性の哲学」には二つの意義があった。


 第一は公衆衛生上の問題であり、第二には世界平和を守るためにも戦争のための兵器の開発を許さないという問題である。このような観点から、芝田進午に率いられた予研=感染研との裁判闘争は最高裁まで進展した。


 ここに芝田の課題とした思想を論じたものを収録できることはうれしい限りである。この二つの課題を私たちもまた追究し、共有していきたいと願うものである。

   国立感染症研究所の安全性を考える会・会長
                   鈴木武仁

===============引用終了=====================

 本著の構成は以下のとおりである。

はじめに (国立感染症研究所の安全性を考える会・会長  鈴木武仁さん)

序文  「安全性の哲学」をめざして
第Ⅰ部  生命の哲学的考察と人権論
第Ⅱ部  予研=感染研裁判を闘う
第Ⅲ部  バイオハザード防止に向けて
第Ⅳ部  近代市民社会の二つの法的原理

あとがき    (編集責任者  長島功さん)

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 私は芝田先生の論文自体にも強く惹かれるが、同時に戸坂潤が提起した「集団的主体」として有機的な理論的実践的な「国立感染症研究所の安全性を考える会」に今回遅まきながら、深く感銘を受けた。この会では、年三回、『ストップ・ザ・バイオハザード/国立感染研の安全性を考える会ニュース』も、「予研=感染研再移転要求ニュース」から引き続きなんと通算100号をA4版八ページ立てのタブロイド版の冊子として今日を迎えている。

 「一粒の麦もし地に落ちて、死なずば唯一にてあらん。死なば多くの実を結ぶべし。」
吉野源三郎氏は、「一粒の麦」(『世界』一九七三年五月号初出/『同時代のこと』岩波新書一九七四年初版所収)で訴えている。

この言葉は、芝田進午氏がご逝去されても止むことのない実践的主体「国立感染症研究所の安全性を考える会」が実現しさらに継承を現実化している事実にも実に相応しい言葉である。




 「国立感染症の安全性を考える会」は、生前の芝田進午さんとともに闘い、芝田進午さんの死後は、芝田進午・貞子夫妻が開催しつづけた「ノーモア・ヒロシマ・コンサート」「平和のためのコンサート」を後援し支え続けた。さらに、芝田進午さんの遺稿集を出版することで、名実ともに芝田進午さんの遺志を継承して実践しつづけている芝田貞子さんの闘争をともに担う団体である。

 歴史修正主義・軍事大国主義を暴走する政府のもとで、日本社会は閉塞した情勢にあるが、安倍=橋下改憲連合を、沖縄の「オール沖縄」という先駆者と同様に日本共産党から自民党大阪府連まで「オール大阪」とそれを支持する日本国民は、見事に打破し、「大阪市解体」投票は頓挫した。

 引き続き続く危険な社会情勢に、「国立感染症の安全性を考える会」は、バイオハザードを専門的に研究し運動する主体として、見事な抵抗主体として実践しつづけている。

 戦前に、戸坂潤が創設した唯物論研究会は、見事な集団的主体として、過酷な侵略戦争国内での言論弾圧と闘い続けた。
1945年に侵略戦争が終わり、2015年は戦後70年に及ぶ。唯物論研究会は唯物論研究協会(全国唯研)として唯物論の哲学的研究に取り組み続けている。けれども、戸坂潤はまず反動政治との闘いから離れた訓詁学にとどまってはいなかった。芝田進午さんも、「現実という書物」「世間という書物」を読解することを重視した。芝田さんの遺志をつぐ「国立感染症の安全性を考える会」は、集団的主体として、コンサートや出版事業などもこなしつつ、クラシックの声楽家である芝田貞子さんとともに、「人類生存思想の哲学者にして平和運動家」であられた芝田進午先生の最も的確で最も重要な継承者として、実践されている。