高橋敏夫の講演「時代小説と戦争」の射程~第19回平和のためのコンサート~
2018.6.15
櫻井 智志
Ⅰ
牛込箪笥区民ホールのステージ。19回目のゲストは、パワーポストを駆使してわかりやすく藤沢周平文学の「市井もの」の意味を展開された。山本周五郎の「柳橋物語」と藤沢周平の「橋ものがたり」を子弟としても説き明かした。
ただ残念ながら、壇上のスクリーンを読み続け、平易に講演し続けるのを聞いていて、例年のようなメモを開始まもなく取りやめたことが、後からふりかえる上で私の致命的な失敗となっていることに気づいた。
ただ、高橋敏夫氏が、司馬遼太郎と藤沢周平とを対比しながら、戦争と「時代小説」との構図を聴衆に示されたことは、強く印象に残った。会場で高橋敏夫氏の最新刊『松本清張「隠蔽と暴露」の作家』(集英社新書2018年)を入場の際に購入。コンサート開演まで読み続けていた。この新刊については、この拙稿の後半Ⅲにて触れる。
Ⅱ
第二部のコンサートは~平和への祈り~と銘打つ三部構成。最初の「おこりじぞう」は、山口勇子原作の児童文学である。教科書にも広く採択されて長く子どもたちの胸に響いてきた。金野実加枝さんの語りは、耳を通して聴くもののこころに伝わってきた。伴奏した児玉さや佳さんのピアノは、語り手のことばをよりメロデイとしてハーモニ-としてことばを多彩に膨らませて効果的だった。
二番目のヴァイオリンの信田恭子さんの独奏は、末廣和史さんのピアノの伴奏を得て、クライスラーの作品を見事な技術と訴えかける演奏によって、名手としての品格を感じさせた。
最後のアンサンブル・ローゼの重唱は、末廣さん・信田さんの楽器によって重厚な存在感を見せた。芝田貞子さんたち7人の歌手が、5曲「マリアの子守歌」「カッチーニ作曲アヴェ・マリア」「グノー作曲アヴェ・マリア」「花のまわりで」「花は咲く」を歌のこころをこめて歌唱された。ソプラノの池田孝子さん、斎藤みどりさん、高橋順子さん、渡辺裕子さん。メゾ・ソプラノの芝田貞子さん、高崎邦子さん、山田恵子さん。7人のハーモニーの重唱。ことしは例年にも増して、コンサートテーマの「平和への祈り」がしみじみと伝わってくるうたごえだった。
Ⅲ
高橋敏夫著『松本清張「隠蔽と暴露」の作家』を読む
(視点:コンサートとの関連性において)
8つの章と「はじめに 松本清張がよみがえる」「おわりに 松本清張とともに」によって構成されている。私は読みながら、この本は何だったっけ?と思いタイトルを見返すことがあった。それは、本書が単なる文芸評論にとどまってはいないからだ。各章ごとにぴったり3冊の作品が配置され、それぞれの書評は丹念な作品世界を読解している。書評は単発にとどまらず、社会的乃至は政治的な大局の課題とかかわり、見事な構造化を形成している。「戦争」「明るい戦後」「政界、官界、経済界」「普通の日常、勝者の歴史」「暗い恋愛」「オキュパイドジャパン」「神々」「原水爆、原子力発電所」。これらのテーマは松本清張作品に則して、すべて叙述されている。
さらに、著者が創造的に探究された松本清張の「隠蔽と暴露」という小説方法がしだいに章を追うごとに見事に壮大な姿を読者の前に現れてくるのだ。
コンサートの第一部講演は「時代小説と戦争」がテーマだった。高橋氏は最新刊で、巨大な現代作家と向き合い、「現代および現代小説と戦争」を解き明かしている。第6章「オキュパイドジャパン」も、戦後占領や米軍占領が終わったはずの現代日本が占領されている現実を読み直す勧めとして、あえて外国語で概念の活性化を図っている。
第19回「平和のためのコンサート」は、文学から入り現代日本の平和を研究し平和構築の営みに極めて有益な文学者を,私たちに邂逅させてくれた。
2018.6.15
櫻井 智志
Ⅰ
牛込箪笥区民ホールのステージ。19回目のゲストは、パワーポストを駆使してわかりやすく藤沢周平文学の「市井もの」の意味を展開された。山本周五郎の「柳橋物語」と藤沢周平の「橋ものがたり」を子弟としても説き明かした。
ただ残念ながら、壇上のスクリーンを読み続け、平易に講演し続けるのを聞いていて、例年のようなメモを開始まもなく取りやめたことが、後からふりかえる上で私の致命的な失敗となっていることに気づいた。
ただ、高橋敏夫氏が、司馬遼太郎と藤沢周平とを対比しながら、戦争と「時代小説」との構図を聴衆に示されたことは、強く印象に残った。会場で高橋敏夫氏の最新刊『松本清張「隠蔽と暴露」の作家』(集英社新書2018年)を入場の際に購入。コンサート開演まで読み続けていた。この新刊については、この拙稿の後半Ⅲにて触れる。
Ⅱ
第二部のコンサートは~平和への祈り~と銘打つ三部構成。最初の「おこりじぞう」は、山口勇子原作の児童文学である。教科書にも広く採択されて長く子どもたちの胸に響いてきた。金野実加枝さんの語りは、耳を通して聴くもののこころに伝わってきた。伴奏した児玉さや佳さんのピアノは、語り手のことばをよりメロデイとしてハーモニ-としてことばを多彩に膨らませて効果的だった。
二番目のヴァイオリンの信田恭子さんの独奏は、末廣和史さんのピアノの伴奏を得て、クライスラーの作品を見事な技術と訴えかける演奏によって、名手としての品格を感じさせた。
最後のアンサンブル・ローゼの重唱は、末廣さん・信田さんの楽器によって重厚な存在感を見せた。芝田貞子さんたち7人の歌手が、5曲「マリアの子守歌」「カッチーニ作曲アヴェ・マリア」「グノー作曲アヴェ・マリア」「花のまわりで」「花は咲く」を歌のこころをこめて歌唱された。ソプラノの池田孝子さん、斎藤みどりさん、高橋順子さん、渡辺裕子さん。メゾ・ソプラノの芝田貞子さん、高崎邦子さん、山田恵子さん。7人のハーモニーの重唱。ことしは例年にも増して、コンサートテーマの「平和への祈り」がしみじみと伝わってくるうたごえだった。
Ⅲ
高橋敏夫著『松本清張「隠蔽と暴露」の作家』を読む
(視点:コンサートとの関連性において)
8つの章と「はじめに 松本清張がよみがえる」「おわりに 松本清張とともに」によって構成されている。私は読みながら、この本は何だったっけ?と思いタイトルを見返すことがあった。それは、本書が単なる文芸評論にとどまってはいないからだ。各章ごとにぴったり3冊の作品が配置され、それぞれの書評は丹念な作品世界を読解している。書評は単発にとどまらず、社会的乃至は政治的な大局の課題とかかわり、見事な構造化を形成している。「戦争」「明るい戦後」「政界、官界、経済界」「普通の日常、勝者の歴史」「暗い恋愛」「オキュパイドジャパン」「神々」「原水爆、原子力発電所」。これらのテーマは松本清張作品に則して、すべて叙述されている。
さらに、著者が創造的に探究された松本清張の「隠蔽と暴露」という小説方法がしだいに章を追うごとに見事に壮大な姿を読者の前に現れてくるのだ。
コンサートの第一部講演は「時代小説と戦争」がテーマだった。高橋氏は最新刊で、巨大な現代作家と向き合い、「現代および現代小説と戦争」を解き明かしている。第6章「オキュパイドジャパン」も、戦後占領や米軍占領が終わったはずの現代日本が占領されている現実を読み直す勧めとして、あえて外国語で概念の活性化を図っている。
第19回「平和のためのコンサート」は、文学から入り現代日本の平和を研究し平和構築の営みに極めて有益な文学者を,私たちに邂逅させてくれた。