【現代思想とジャーナリスト精神】

価値判断の基軸は自らが判断し思考し実践することの主体であるか否かであると考えております。

【孫崎享のつぶやき】2023-10-15 08:40

2023-10-16 15:55:24 | 転載・政治社会と思想報道
北京での発言:10月26日 『日中平和友好条約』発効45周年に際し、日中関係を考える、1:世界の潮流の中における日中関係。2日米関係と日中関係の相関性3:中国の台頭と、米国の政策、4;米国には軍事的に直接対峙するという選択肢はない等



講演:中国との対話:10月26日    30分、10月1日に発言原稿を提出
『日中平和友好条約』発効45周年に際し、日中関係を考える


1:世界の潮流の中における日中関係


(1)日中共同宣言と日中平和友好条約の意義<

1972年の日中共同宣言、及び1978年の『日中平和友好条約』は両国の発展と、東アジア地域の安定をもたらす貴重な礎である。この基礎の上に両国関係が発展すれば、東アジア地域は世界の中で最も繫栄し、平和な地域となっていたであろう。
だが今はそうではない。東アジアは緊張をはらむ地域となっている。こうした緊張は純粋な二国間計だけでは発生していない。今日の最大の超大国である米国の動向に大きく左右されている。

(2)日米関係と日中関係の相関性

日本は米国と「同盟関係」にある。今日日本はこの枠内で動く。日中関係は日本や中国独自のイニシアティブで動くのではなく、米国の戦略の範囲内で動く。
 そして、「米国の中国への認識、関与の仕方が変わると、それは日中関係にも影響する」ことを十分に認識しておく必要がある。
 確かに、日本が独自に日中関係を構築出来た時代がある。ニクソン大統領がベトナムからの撤兵を考えた頃だ。ニクソン大統領は1969年7月「ニクソン・ドクトリン」を発表した。その骨子は、「侵略が問題となる場合には軍事・経済援助を与えるが,自衛の第一義的責任は脅威を受けた国が負う」というもの。つまり、「米国はアジア人のために血を流すのは止めた、お前らは適当に外交をやれ」ということであった。1970年代、日本と中国は各々の国益を調整することが出来た。1972年田中角栄首相が訪中し、日中国交正常化がなされ1972年 9月に日中共同声明が発表された。1978年8月12日に北京で、外相園田直と中国外相黄華の間で日中平和友好条約が署名された。米国の介入なしに、日中関係が築けた。
 ここで、日米関係の本質を見ておきたい。
 しばしば「日米同盟」という言葉が使用される。あたかも対等の関係のような印象がマスコミによって作られる。だが実態は異なる。「従属関係」「隷属関係」と述べた方が正確だ。
 こう言述べると、「言い過ぎではないか」との反論もあろう。米国の外交・安全保障分野で最も影響力のある学者にアチソン教授がいる。第一期クリントン政権の政策担当国防次官補で、ハーバード大学ケネディ行政大学院の初代院長である。彼が2020年「新しい勢力圏と大国間競争― 同盟関係の再編と中ロとの関係―」という重要な論文を発表する。ここで米ソが対立していた時からソ連の崩壊によって一極支配になった時をこう記している。
「全世界が事実上のアメリカ圏となった。強者(米国)は依然として自分たちの意志を弱者に押し付けた。世界の他の国々は主にアメリカの規則に従って行動することを強いられ、さもなければ壊滅的な制裁から完全な政権交代に至るまで、莫大な代償に直面することになった。」
 「米国の規則に従って行動することを強いられ、さもなければ壊滅的な制裁から完全な政権交代に至るまで、莫大な代償に直面することになった」のが日米関係であり、それが今、ますます強化されている。日本はこの範囲で今中国に対峙している。
 2000年以降を見てみよう。細川政権、福田政権、鳩山政権が米国の意向に沿わないということで潰された。この際重要なのは、米国が直接政権を潰すのではなく日本の政治家、官僚、検察、マスコミが一体として動く。米国の意向に全面的に従わなかったとして、政権末期、ないしは政権後米国との関係が緊張状態にあった政治家に、意外なことに、小泉、安倍(政権後―ウクライナ問題、北朝鮮問題、中国問題―)も含まれる。総理候補になりうる人では小沢一郎、野中広務、武村正義、金丸信氏らが含まれる。

(3)岸田首相と米国

岸田首相は過去の政治家の運命を十分に承知しているのであろう、完全に米国の意向を踏まえ政治を行っている。

3:中国の台頭と、米国の政策


 冷戦崩壊後、中国は経済力を強めた。CIAは世界最強の情報機関である。ここが世界情勢を開設する{World Fact Book}というサイトを持っている。ここで{真のGDP}というタイトルで各国のGDPを比較し、購買力平価ベースで米国21.1兆ドル、中国24.9兆ドルとしている。経済規模では今や中国が世界一である。
 文部科学省の科学技術・学術政策研究所は8月8日、各国の2019~21年の平均論文発表数などを分析した「科学技術指標2023」を公表したが、科学論文の数上位10%の論文数連キングは1位中国5万4405件、2位米国3万6208件となっている。これは中国が将来に向けての発展で米国よりより可能性が高いことを意味する。
 この中で米国の選択はどうなるか。協調の下、共に発展する道か、敵として対立するか。
 先に紹介したグレアム・アリソンは「トゥキディデスの罠」―従来NO1であった覇権国はNO1の坐をうかがう新興国が出てきた場合戦争になる可能性があるーを指摘しつつ。
「現在の軌道では、数十年以内に米中戦争が起こりうる可能性は、ただ“ある”というだけでなく、現在考えられているよりも非常に高い。過去500年の例をみると、戦争になる確率は50%以上だ」としている。
 こうした雰囲気は米国国民にも持たれている。 世論調査機関ギャラップ社は「世界における米国の位置という報告を発表し。その中に「アメリカの最大の敵国はどこかの問に対する米国民の回答を%で示している。
 中国50%、ロシア32%、北朝鮮7%、イラン2%。
 2023年はまだウクライナでロシアが戦争を行っている時にもかかわらず、中国の脅威の方が大きい。如何に今中国に対する敵愾心が強いかが判ろう。
 勿論米国にとって、経済的発展を遂げる中国と協調を図り利益を得ようという考え方、勢力は存在する。しかし、中国の脅威と対抗したいという勢力が今日極めて強力である。

4;米国には軍事的に直接対峙するという選択肢はない

 まず、米国は核戦争の選択は行わない。現在のウクライナ戦争においても、ウクライナを支援しつつ、ロシアを追い詰め、核戦争に通じる手段は排除している。
では通常戦ではどうなるか。台湾正面を見てみよう。
台湾海峡で米中が戦えばどうなるか。
「米国が勝つ」という考え方を、明確な論理で覆したのは、ランド研究所であり、二〇一五年、論評「アジアにおける米軍基地に対する中国の攻撃」を発表した。
「○中国は自国本土周辺で効果的な軍事行動を行う際には、全面的に米国に追いつく必要はない。
○特に着目すべきは、米空軍基地を攻撃することによって米国の空軍作戦を阻止、低下できる。
○中国は日本における米軍基地を攻撃しうる一二〇〇の短距離弾道ミサイルと中距離弾道ミサイル、巡航ミサイルを保有する。
○台湾のケースは嘉手納空軍基地への攻撃に焦点を当てた。台湾周辺を考慮した場合、嘉手納基地は燃料補給を必要としない距離での唯一の空軍基地である。
○ミサイル攻撃は米中の空軍優位性に重要な影響を与える。それは他戦闘分野にも影響を与える。
○米中の軍事バランス:台湾周辺
一九九六年   米軍圧倒的優位
二〇〇三年 米軍圧倒的優位
二〇一〇年 ほぼ均衡
二〇一七年 中国優位
ている。だが台湾に向けて飛び立つ米軍基地の滑走路を破壊すれば最早戦闘に参加できなくなる。中国が制空権を確保することになる。
アリソンは『フォーリン・アフェアーズ』誌2020年3月号で「台湾海峡有事を想定した、18のウォーゲームの全てでアメリカは破れている」と記述した。
ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、クリストフはニューヨーク・タイムズ紙で「如何に中国との戦争が始まるか(2019年9月4日))を発表し「中国は空母を攻撃能力など、軍事力を大幅に増強してきた。ペンタゴンが行なった、台湾海峡における米中の戦争ゲームで、米国は18戦中18敗したと聞いている」と記載した。
さらに、マストロ研究員は同じくフォーリン・アフェアーズ誌2021年7・8月号に「最近ランド研究所とペンタゴンとで行われたウォー・ゲーム(複数)で、台湾を巡る米中軍事衝突は米国が敗北するだろうということを示した」と記載した。

5:米国は反中同盟を画策、その中心が台湾問題

 米国の狙いは何か。
 台湾、日本と軍事紛争を起こさせ、中国が武力行使をしているとして、経済制裁を行い、中国の経済発展を阻止することにある。そして今、日米韓の三国同盟を作り、軍事的包囲網と、経済の結びつきを切り離そうとしている。
 そしてその核が台湾問題である。

5:台湾問題は米中、日中が過去の合意を順守すれば危機は生じない


  私達は過去、台湾問題に関し過去中国とどの様な約束をしてきたか。
 日中共同宣言(1972年)では、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」とした。
日中友好条約(1978年)では前文において「前記の共同声明に示された諸原則が厳格に遵守されるべきことを確認し」とし、さらに第一条「両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉」としている。
日本は台湾を独立国として扱ってはいない。日本の世論はしばしば「中国は国際約束を守らない」と批判するが、日中関係の基本的合意を破っているのは麻生氏の如く日本の方である。
 同様なことは米中間合意にも言える。
ここで台湾の人々の意思を見てみよう。

6;台湾国民の意思

日中共同宣言や日中友好条約に言及するとしばしば、「では台湾の意思をどうするのだ」という問いがなされる。この点を見てみよう。
2022年台湾の国立政治大学選挙研究中心が実施した世論調査は次の通りである。
 「即時独立                4.6&
  即時統一                1.2%
  現状維持、後決定           28.7%
  現状維持、永遠に           28.5%
  現状維持、後統一へ           6.0%
  現状維持、後独立へ           4.9%
  無回答                 5.6%」
 上記の世論調査は、68.1%が少なくとも当面現状維持である。
 台湾が現状維持であれば、中国が武力行使を行う可能性は極めて低い。
 「台湾有事」と騒ぐ人々は「台湾有事」を避けようとする方ではなく、「台湾有事」作り出そうとする人々である。

6:対米従属から脱する時期

今日の日本外交は米国の支持に従うことにある。だが世界の流れを見ると、対米従属から脱する時期に来ている。先にCIAの「真のGDP」に言及したが、今一度この数字を利用して作成した表を見て戴きたい。
 G7・7か国       ・非G7上位7か国
  米国 21.1      中国      24.9
  日本  5.1      インド      9.3
  独   4.4      ロシア      4.1
  仏   3.0      インドネシア   3.2
  英   3.0      ブラジル     3.1 
  伊   2.5      メキシコ     2.4
  加   1.8      韓国       2.3
  小計 40.9      小計      49.3
 つまり、GDAは①中国が米国より大きい」だけではなくて、G7・7か国の合計が非G7上位7か国より少ないのである。
 こうした経済状況は先のG20首脳会議にも反映され、宣言では、G7が主張するロシアの名指し批判が避けられた。
 今世界は大きい潮流の変化を見せている。
日本外交は今転換すべき時にある。

7:日中双方は今、どう対応すべきか

 日中双方にとって、日中共同宣言、『日中平和友好条約』を基礎に発展をさせることが、日中両国、東アジア全体にプラスである。
 だが今の日本はそうではない。米国の指示のもと、対立を作る方向に動いている。
 今日の日本の政治状況、及び国民感情からしてこの流れを変えられない。
 では我々はどうすべきなのか。
 対立の機運は長期的に継続するものではない。中国が米国の優位に立つのは歴史的に最早阻止できる現象ではない。今はそれを阻止しようと米国が画策している時期である。そして阻止する手段として、東アジアでの武力紛争を望んでいる。
 如何に挑発を避け、長期的繁栄と安定への道の阻害を避けるかが我々に求められる英知である。日本においては、特に中国の脅威を煽る活動が展開されるものとみられる。
だからこそ、日中双方の識者が共同して①中国の発展には世界の平和が不可欠であり、その点を中国の指導者は十分に理解している、②日本が、日中共同宣言と日中平和友好条約を、そして米国が米中共同宣言を守れば台湾問題は生じない、③東アジアを不安定にしたいとする勢力が存在し、これに対抗する力を形成すべきである等について日本国内で適切な説明を行っていくことが求められている。


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