【現代思想とジャーナリスト精神】

価値判断の基軸は自らが判断し思考し実践することの主体であるか否かであると考えております。

【転載】 場当たり的な対策ばかり。「新型肺炎」で露呈した安倍官邸の無能

2020-03-03 07:59:00 | 転載
国内2020.03.03 37 by 高野孟『高野孟のTHE JOURNAL』

プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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(*小生は高野孟氏を前から間接的に知っている。必ずしも全面的に支持してはいない。けれどこの評論は小生の認識の至らなさを上回る認識を明快に示している。ここに転載するのもそれゆえである。)
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安倍首相独断で「全国一斉休校」に突き進んだ政権末期症状――その場限りの「やってるフリ」戦術のなれの果て
中村時広愛媛県知事「場当たり的だ」(29日付東京)
熊谷俊人千葉市長「いくらなんでも…。社会が崩壊しかねません」
都立高校校長「急すぎる。期末試験をしなきゃ成績もつけられないし、卒業式もある」
都内市立小学校の女性養護教諭「学校なら経済に影響が少ないからと、パフォーマンス的に休校にしている気がする。……学校の方が、検温、手洗い、うがいなど管理しやすいのに」
小田嶋隆(コラムニスト)「『やっている感』を出さないといけないという首相の焦りを感じる。政府の対策に批判的な世論を気にして唐突に政治決断をしたように見える」(以上、28日付朝日)
与党関係者「政権末期を見ているかのようだ」(29日付毎日)
自民党幹事長経験者「今回の対応が安倍さんから人心が離れるきっかけになるかもしれない」
自民党中堅議員「冷静な対応を呼びかけている首相自身が冷静さを失っている」(以上、29日付朝日)
――というように、今井尚哉補佐官が脚本を書いて安倍晋三首相が独演した小中高など学校の「全国一斉休校」要請が猿芝居にすぎないことは、最初から全国民的に見抜かれていた。それで慌てて29日、土曜日であるにもかかわらず異例の首相記者会見を6時から設営して弁解に努めたが、中身は薄っぺらで、例えば上記女性教諭の「なぜ学校が先なのか」というごく自然な疑問にも答えることも出来ていなかった。

子どもたちの間に特に感染が広がっているのであればともかく、感染者の中心は30歳代から60歳代の中高年で、しかも死亡者は既往症を抱えている高齢者が多い。逆に、子どもたちには感染者は極めて少なく、死亡者も出ていない。なのに、なぜ企業でも官庁でもなく学校が先なのか。

女性教諭が言うとおり「学校なら経済に影響が少ない」ので、断固たる決意を示すにちょうどいいだろうと見たのが、今井=安倍の軽薄コンビの浅知恵で、そうすると例えば小学校低学年の子どもを持つ働き手が出勤出来なくなったり、その中には医師や看護士や介護士も含まれているので、それでなくとも人手が足りない医療・福祉の現場をはじめ感染症対応の最前線がたちまち立ち行かなくなったりすることなど、官邸からの上から目線では想像すらできなかったのだろう。

反響の大きさにびっくり仰天した安倍首相は、これによって仕事に行けなくなった人には休業補償を出すとか言ったけれども、それは本末転倒で、それでなくとも人手が足りない医療現場の窮状はカネを出したからと言って解消されるものではない。他方、この補償なるものが、一体どれだけの厚みの書類を役所に提出し、窓口で突き返されてさんざん修正して出し直したりした挙げ句、満額認められるかどうか分からず、仮に認められたとしても何カ月たったら支給されるのかも分からないような代物であることは、庶民は皆知っているけれども、今井補佐官や安倍首相は知らない。

そのことを含め、会見場に詰めかけた記者たちには訊きたいことがたくさんあっただろうし、現に「まだ質問があります」と叫んでいる者もいたのに、安倍首相は17分間だけ質問に答えただけで、司会の「予定の時間をだいぶ超過したので」という声に促されて6時45分に出て行った。その後によほど大事な用事でも控えていたのかと思って翌日の「官邸日誌」を見ると、7時12分私邸着となっている。な~んだ、予定にない質問をされるのが嫌で家に帰ってしまったのだ。

世界のどの国の指導者も、会見では質問が出尽くして手が上がらなくなるまで答え続けるのが基本ルール。ましてやこのような緊急時に国民の納得を得て一致協力、疫病に立ち向かおうという呼びかけるために会見を開いているというのに、質問を振り切って出て行って、しかも自宅に帰ってしまうというのは幼児性の行為である。

政権内部がズタズタになってしまった
安倍首相周辺では当初、新型肺炎を「神風邪(カミカゼ)」と呼ぶ不謹慎極まりないジョークが囁かれていた。お花見疑惑、検察人事介入、カジノ汚職、政府高官の不倫出張旅行、消費増税によるマイナス成長転落……と、政権にとって悪い話ばかりが折り重なって、そのどれに対しても嘘と誤魔化しと言い逃れを連射するしかない劣勢に苦しむ中で、「あ、これで世間の目を逸らせられる」と安堵したのも束の間、「ダイヤモンド・プリンセス号」の扱いでの大失敗に内外から批判が噴出し、たちまち瀬戸際に追い詰められてしまった。

とりわけショックだったのは内閣支持率の急落による不支持率との逆転で、政権寄りと言われる産経新聞・FNNの調査でも支持率が前回に比べ8.4ポイント減の36.2%と、一気に30%台に突入。不支持率は7.8ポイント増の46.7%で、1年7カ月ぶりに不支持率が支持率を大きく上回った。これを見て永田町の空気はガラリと変わり、話題の中心が「安倍政権はどこまで続くか」から「安倍政権はいつ終わるか」に移った。ある自民党ベテラン議員はこう解説する。

▼つい先日までは、安倍首相4選もあるかもしれないという観測が流れたりもしたが、もはや完全に消えた。4選というのは、安倍首相が自らの手による改憲を何としても実現したいという執念を保持し、自民党全体がそれを支えて行こうと覚悟する態勢を作るということだ。そして21年10月までに行われる衆院選で改憲勢力3分の2を再確保し、22年夏の参院選で同じく3分の2を回復しなければならない。ところが今や安倍総裁と並んだポスターを刷って選挙に勝てると思う脳天気な議員はほとんどいないだろう。

▼4選がなく、従って改憲もないとなると、安倍首相が総理・総裁に居座っている理由もない。だから東京五輪後に退陣するのが順当なところだろう。ところが安倍首相は、石破茂にあとを襲われるのだけは嫌なので地方票も含めた正規の総裁選にしたくない。任期途中の退陣ということで両院議員総会による国会議員票だけの投票で何とか岸田文雄に持って行って、自分の影響力を残したい。しかし、菅義偉官房長官、二階俊博幹事長がこの安倍シナリオを許すかどうか。

▼以上は、東京五輪が中止にならなかった場合の話。新型肺炎が4月までに終息せず、3月26日から始まる聖火リレーに支障が出たり、5月からの選手キャンプが中止になったり、有力なチームや選手の参加辞退があったりすると、IOCが動いて開催の延期もしくは中止もあり得る。そうなれば、安倍首相の対策が後手後手に回ったからだということになって、責任をとって辞任だろう……。

このように、安倍首相にとって最も惨めなケースは五輪中止で5月か6月にも辞任という可能性が見えてきたために、安倍首相と今井補佐官は「冷静さを失って」暴走した。そのためこの軽薄コンビの、小賢しい思いつきで口先ばかりの「やってるフリ」でその場さえ切り抜ければよしとする悪癖が余計に酷くなって、「全国一斉休校」という重大な社会的影響のある決断を、閣議も開かず、盟友のはずの麻生太郎副総理にも、内閣の支柱である菅官房長官にも相談せず、側近の萩生田光一文科相や文科省の担当部署にも通告せず、感染症対策専門家会議の意見も聞かず、従って何の準備もないまま、いきなり対策本部の会議の場に持ち出した。それを安倍首相は会見で「判断に時間をかけているいとまはなかった。……それは責任ある立場として判断をしなければなかったということで、どうかご理解を。……これにともなう様々な課題に対しては、私の責任において万全の対応を行っていく」と、さも強力なリーダーシップを発揮したかに言い立てたが、それこそ「やってるフリ」で、功を急ぐ余りの独善に過ぎなかった。

自民党幹事長経験者がこれを「安倍さんから人心が離れるきっかけになるかもしれない」と見ているのはその通りだろう。まず何よりも昨秋来、著しくギスギスが目立つ菅との関係はますます悪化し、菅が二階と組んで小泉進次郎をも引き込み、岸田の芽を潰して石破に付くのを助長するのは確実である。そこに裂け目が入ると、もはや政権はズタズタで、五輪が中止にならない場合でも安倍政権の崩壊は早いだろう。

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