・私の仕事は、「国際ネゴシエーター」
ひとことでいえば、「国際交渉・国際調停の請負人」ということになるでしょうか。
・シビアな交渉の現場では、広汎な知識と洞察力、各国の動向を探る取材力、相手のガードを解くコミュニケーション力、時間内にまとめるマネジメント力やバランス感覚、そしてここ一番で大勝負を張れる決断力と胆力など、さまざまな能力が要求されます。有用な情報を効率的に入手する質の高いネットワークも必要です。
・交渉の極意は「戦わない」こと
・さまざまな合意のなかでも、結局長続きするのは、当事者同士が納得している合意だけです。いくら力で押さえつけても、その下に不満がくすぶっていれば、争いはいつか必ず再燃します。
・大事なことは、互いに「一緒に結果を導き出した」という達成感を共有することです。
・大学時代に、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争に関して、「僕だったらこうやって解決するのに」というアイデアを英文でまとめたものを国連に送ったことでした。それが国連事務局の政治問題局のボスニア。ヘルツェゴビナ問題担当ディレクターの目に触れ、関心を持ってもらえたようです。ちょうど渡米が決まっていたこともあり、一度会ってみようということになり、結果的にお仕事をさせていただけることになりました。
そこからほどなくして、私は運命の人間と出会うことになります。それが、のちに私のメンターとなる
セルジオ・デメロ氏です。
・私の人生のロールモデルはセルジオになりました。
・セルジオが突然私のところにやってきました。
「お前は熱い男だ。これから俺とお前は、お互いにとても気に入って好きになるか、もうすごく嫌いになるか、そのどちらかになると思う。俺と一緒に人道支援や紛争調停の仕事をしないか」
・セルジオのもとで、私は実地で紛争調停のイロハを学んでいきました。
・会議のなかで、ミロシェヴィッチ大統領は平気な顔でこう言ったのです。
「自分の国民を生かそうが殺そうが俺の勝手だ。俺は100%の支持で選ばれている大統領だ」
・・・その言葉にカッとなって、思わず「何を言ってるんですか、あんた! 調査によると、あなたの支持率は70%にも満たない。信頼するに足らない、大噓つきだ」と怒鳴ってしまったのです。
場が一瞬にして凍りついたことはいうまでもありません。・・・
セルジオは会談を一時中断して「ちょっと出ろ」と私を外へ出してこう言いました。
「お前の言っていることは100%正しい。それは認める。ただ、”場”を考えろ。とにかく頭を冷やせ」
でも、セルジオは私を見捨てませんでした。
その日の夜、意気消沈していた私に、セルジオはこう言いました。
「熱いのはいいが、やり方をちょっと覚えなさい。お前にいくつか案件を任せてみよう。自分で考えてやってみなさい」
どうやらこの一件で、セルジオは私に見込みがあると思ってくれたようです。
・プロフェッショナルはためらわず頭を下げる。
セルジオに「一つだけアドバイスがある」と言われました。
「『ごめんなさい』『お願いします』と人に頭を下げるのは、どっちもタダだ。それその場をしのげたり、得たい情報が得られたりするのなら、これほどいいことはないじゃないか。だから、無駄なプライドは捨てなさい」
・私は以前、発信元のメールアドレスによって相手の反応がどう違うかを実験してみたことがあります。例えば、私の個人アドレスからメールを発信したときには何の音沙汰もなかった相手でも、「@un.org」(国連)や「@worldbank.org」(世界銀行)なとという機関名が入っているアドレスから送信すると、ほぼ百発百中で返事がくることがわかりました。
・セルジオから直に仕込まれたさまざまなスキルは、いまでも重宝しています。
代表的なものは二つあって、その一つが「エレベーター・プレゼンテーション」(1~2分)、もう一つが「紙一枚にまとめる技術」です。
・エレベーター・プレゼンテーションの際にセルジオが言ったのは、「俺を真っ白な紙だと思って説明しろ」ということでした。つまり、予備知識ゼロの人間だと思って、そんな人間にもわかるように説明しろ、ということです。
・「アイスブレイク」と呼ばれる手法
「今日飲んだコーヒーは酸っぱかった」とか、「この国の女性は美しいですね。車でここに来るまでに、見とれてしまいましたよ」とか、そういう世間話をしながら頃合いを見計らって、「さて、今日の案件なのですが・・・」と切り出していくのです。
アナン氏はそんなふうに話を切り出すのもうまかったですが、話しのとりゅうでとぼけるのもうまかったように思います。
・セルジオは、リーダーシップを育てる術を心得ていました。上に立つ人間は、部下に渡すような仕事は自分でやろうと思えばおそらくすべてできるでしょう。でも、それを自らやってしまうと、人は育ちません。
セルジオが実践していたのは「人にセンス・オブ・オーナーシップを持たせる」ということだったのだと、いまにして思います。センス。オブ・オーナーシップとは、「担当した仕事が自分自身の仕事であるという自覚」のこと。言い換えれば、「全力で自分の仕事をして、結果に責任を持つ」ということになるでしょうか。
具体的には、部下に仕事を任せ、その成果が素晴らしければまず本人を褒めちぎる、さらに上の立場の人間に報告するときには、「このプレゼンテーションは彼女が作ってくれました」「これは彼が分析してくれた数字です。私としてはこの数字は100%信頼できるものだと思っています」などという形で、仕事をした本人を人前で評価する。そうすることによって、褒められた部下は自分の仕事に誇りと同時に、責任を感じるようになります。それが「センス・オブ・オーナーシップを持たせる」ということです。
私のセンス・オブ・オーナーシップを育てるために、セルジオは「自分のやりたいようにやってみろ」「何かあったら俺が謝る。俺が責任をとる」と繰り返し言い、また実際その通りにしました。
・ニコニコしていると人は集まり、不機嫌な顔をいsていると人は遠ざかっていく。これはセルジオから学んだことです。
・私の交渉・調停スタイルでまず特徴的なのは、「ひたすら相手の話を聞く」ということです。
ビジネスの世界でもよく、「トップ・セールスマンは聞き上手」というれますがそれは本当で、交渉や調停の世界でも、いかに相手に話をさせるかということが決定的に重要です。知らず知らずのうちにこちらに有用な情報をどんどん与えてくれますし、何より「自分の主張を聞いてくれた」という気持ちになってもらうことで、合意への道のりがスムーズになるからです。・・・
交渉や調停のプロはこのとき、相手の主張を自分の言葉を使って整理して再提示します。「自分の言葉で」というのがポイントで、相手の意見を確認しながら、徐々に自分の意見も交ぜていくのです。相手が気付かないくらい少しずつこちらの主張も反映していくことで、こちらが想定する落としどころに誘導することができます。
・最終の地図は自分たちで描かせる。
難関を乗り終えるポイントは「自分(たち)の意思で合意案にたどりついた」と相手に思わせることです。
・合意案が長持ちするかどうかは、相手の真情を汲み取ったうえで、相手の納得いく暗に落とし込まれているか否かで決まります。そのためには「What?」(何が欲しいのですか? 何が目的ですか? 何が問題ですか?)だけでなく、「Why?」(どうして提案を呑めないのですか? どうしてこのようなことになってしまったのですか? どうしてそのような主張をされるのですか?)についても、相手の話をじっくりと聞かなければなりません。
私の調停の特徴は、「なぜ?」と何度も相手に踏み込み、本当に望んでいることは何かをつかみ、そこから解決策を考えるところにあります。
・交渉を有利に進めるには、まず一にも二にも情報がものをいいます。
・交渉というものは、対話や駆け引きのなかで、つねに動き続けるものです。
・ポジションでも信念でもなく、全体の利益にこだわる。
・交渉官、調停官にとって大事な資質は、バランス感覚だと私は考えています。
・安全保障の調停においても同じでした。どこの国に行ったとしても、その国に特に思い入れを持って調停することはしません。どのようにすれば、利害関係者に多くの利益をもたらすことができるかという一点で交渉を進める。そしてどちらにも負けを作らないと同時に、明らかな勝ちもつくらない。
・これからの課題はまず、国際舞台でのプレゼン力の向上にあると思います。
・交渉相手をその気にさせる秘訣を披露しましょう。それは、「最初に完全無欠な案を提出しない」ということです。・・・
・「関わる人たちが改善にコミットできる余地を残しておきなさい」
・「相手にコミットさせよ」ということは、分野にかかわらず、交渉そして調停の大原則です。
・私は、交渉の場で嘘をつくことは決してしません。嘘や間違った情報を意図的に交渉に織り交ぜてしまうと、必ず破綻するからです。
・「優しい嘘」をついたことは何度もあります。
・「すべての子どもに笑顔をもたらす世界、いつも子どもが笑顔でいられるような世界をつくりたい」と言ったことがあります。その思いはいまだに変わっていません。
・最後に、私が仲間とともに「見えない外交」(縁の下の力持ち/陰で支える)を実践するにあたり、心の糧にしている言葉を紹介して締めくくりたいと思います。
「ひとが何事言おうとも、神が見ている気を鎮め」
感想;
交渉は難しいです。お互いが少しでも利益を得ようとしていますから。ただ、交渉とは相手に勝とうとしないことはなるほどと思いました。
交渉に参加してもらって納得してもらうことが合意が続くとのこと。
医薬品製造所でもSOP違反が多く見つかっていますが、SOP作成に関わると自分たちが作ったSOPなので守るということを伝えていますが、そのことは正しかったと思いました。