近隣(ちかどなり)なる人のときどきとかういふを、ほかにうつろふと聞きて
ちかくても あはぬうつつに こよひより とほきゆめみむ われぞわびしき
近くても 逢はぬうつつに 今宵より 遠き夢見む われぞわびしき
近隣に住む愛しい人が「ときどきは逢いましょう」などと言っていたのが、他に移り住むと聞いて
近くにいても現実に逢うこともないのに、あなたが去ってしまう今宵からは、更に逢瀬を遠く夢見ることになるのであろう。そんな自身がわびしい。
貫之集第五「恋」で詞書が付された歌はこの 618 と 650、674 の三首だけです。860 から始まる、「近隣なる」異性との一連の贈答歌と関連があるのかもしれません。
また、732 には類歌といって良い、同じモチーフの歌も登場します。
わかれゆく ひとををしむと こよひより とほきゆめぢに われやまどはん
別れ行く 人を惜しむと 今宵より 遠き夢路に われやまどはん
(732)