漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 122

2023-08-16 05:26:54 | 貫之集

女の家に男いたりて、籬の尾花のもとに立てり

ふくかぜに なびくをばなを うちつけに まねくそでかと たのみけるかな

吹く風に なびく尾花を うちつけに 招く袖かと たのみけるかな

 

女の家に男がいて、籬の尾花のもとに立っている。

吹く風になびく尾花を、とっさに女が自分を招いている袖かと思って、頼もしく感じたことよ。

 

 尾花が風になびいて揺れているのが、まるで女性が手招きしているように見える、ということですね。言われてみればわからないでもない気もしますが、歌人の感性というところでしょうか。

 


貫之集 121

2023-08-15 05:12:01 | 貫之集

女ども群れゐて秋の花の散るを見たり

はなのいろは あまたみゆれど ひとしれず はぎのしたばぞ ながめられける

花の色は あまた見ゆれど 人しれず 萩の下葉ぞ ながめられける

 

女たち集まって秋の花の散るのを見た

秋の花は色とりどりだけれども、人知れず秋の下葉の紅葉の美しさに魅了されることよ。

 

 109 と同じく、色とりどりの花は多くの美しい女性を象徴していますね。その中で特定の一人に思いを寄せる心を詠んでいます。

 

 


貫之集 120

2023-08-14 04:14:35 | 貫之集

人の家の池のほとりの松のしたにゐて、風の音聞ける

あめふると ふくまつかぜは きこゆれど いけのみぎはは まさらざりけり

雨降ると 吹く松風は 聞こゆれど 池のみぎはは まさらざりけり

 

人の家の池のほとりにある松の下にいて、風の音を聞く

松籟の音は雨が降っているかのように聞こえるけれども、池の水量は増えてはこない。

 

 耳に聞こえる松籟に、雨が降っているのかと錯覚するけれども、目に見える池の水は増してこない、その視覚と聴覚の矛盾する感覚に面白みを感じての詠歌。屏風歌ですから、松籟も水が増えないのも実像ではなくすべて想像の世界です。歌人の感受性と言うか、創造性の高さを感じさせますね。
 この歌は拾遺和歌集(巻第八「雑上」 第454番)にも入集しています。


貫之集 119

2023-08-13 06:18:18 | 貫之集

やなみれば かはかぜいたく ふくときぞ なみのはなさへ おちまさりける

簗見れば 川風いたく 吹くときぞ 波の花さへ 落ちまさりける

 

簗を見ると、川風が強く吹く時は、波までがしぶきを上げて、まるで花が風を受けて舞い散っているようだ。

 

 「波の花」は川面が波立ってあがるしぶきを花に見立てた表現。107 にも出てきましたね。
 この歌は拾遺和歌集(巻第十六「雑春」 第1061番)にも入集しています。


貫之集 118

2023-08-12 05:05:33 | 貫之集

川のほとりの松

まつをのみ ときはとおもへば よとともに ながるるみづも みどりなりけり

松をのみ 常盤と思えば 世とともに 流るる水も 緑なりけり

 

川のほとりの松

松だけが常緑で変わらないのかと思っていたけれども、世とともに絶えず流れて行く川の水もまた、松の影を映して緑色に染まっていた。

 

 常なるもの(常緑の松)と絶えず変わりゆくもの(川の流れ)とを対比しつつ、後者の中に常なるものを発見した興奮というところでしょうか。
 この歌は拾遺和歌集(巻第五「賀」 第291番)にも入集しています。