九月のつごもりに、女車紅葉の散るなかをすぎたり
もみぢばの ぬさともちるか あきはつる たつたひめこそ かへるべらなれ
もみぢ葉の 幣とも散るか 秋はつる 龍田姫こそ 帰るべらなれ
九月の末日に、女の乗る車が紅葉が散るなかを走って去って行く。
紅葉がまるで幣となって散って行くように見える。秋が終わって、龍田姫ももう山奥へ帰って行ってしまうのであろうか。
「龍田姫」は、紅葉の名所である龍田山を神格化した秋の女神で、龍田姫が染めたとされる紅葉を、神に手向ける幣と見立てる発想。同じモチーフの兼覧王(かねみのおほきみ)の歌が、古今集0298 (巻第五「秋歌下」)にも採録されています。
たつたひめ たむくるかみの あればこそ あきのこのはの ぬさとちるらめ
竜田姫 たむくる神の あればこそ 秋の木の葉の ぬさと散るらめ