誰もが憧れる夢のマイホームしかし、夢を見られる時代は過去のものになったようです。40歳までに自己資金を貯め、5000万円もの借金を背負いマイホームを手に入れても、夢を見られるのは場所選定を間違わなかった幸運な人だけ。大多数の人たちは残債返済の為、虎の子の退職金が消えてなくなります。その後も、マイホームにしがみつけば、維持費が肩に襲い掛かります。巨額の住宅ローンを組める夫婦はお互いに安定した収入がある人や親から相続資産のある人などに限られるでしょう。今後、AIなどの発達も絡み、不動産仲介ブローカーの数は大きく減少するでしょう。かつては、学歴や職歴に捉われず、一発逆転のあった職業ですが、10年後、仕事が無くならないためには敬遠される職業です。
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人生でもっとも高い買い物といえば、昔も今もマイホームだろう。購入者のほとんどは最長35年という長期返済型の住宅ローンを組み、万が一ローンが返せなくなったら「売ればいいだけ」と安易に考えている人も多いのではないか。しかし、長きにわたり住宅の資産価値が保てる“土地神話”はとっくに通用しない時代だ。
住宅ジャーナリストの榊淳司氏が、35年ローン廃止論を唱える。
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まもなく、「平成」の世が終わるという。もはや「昭和」は遠くなってしまった。昭和の半ばに生まれた身としては、何とも寂しいものがある。
昭和を記憶や思い出として大切に扱うのは悪くないだろう。しかし、あの時代に生み出された住宅購入に関する時代遅れなシステムは、なるべく早く改めるべきだ。もはや、昭和のように日本経済は成長しない。人口も雇用も、ましてや給料さえ増えない。
早急に改めるべき筆頭は、「35年返済の住宅ローン」(以下、35年ローン)だ。これはいち早く禁止にすべきだ。なぜなら今の時代に35年ローンを組む、ということはかなりの確率で自己破産へと導かれるからだ。
この35年ローンは、そもそも「35年の間、継続して今以上の収入がある」ということを前提にしている。なんという危うい前提だろう。
今の時代、35年間もの安定収入を見通せる職業が、公務員以外にどれほどあるというのか。東芝のような大企業でも、倒産の危機にさらされているのである。民間企業で35年の雇用が盤石と言えるようなところは、数えるほどしかないはずだ。
それなのに、多くの人が35年返済で住宅ローンの融資を受けている。これは、ある意味で狂気の沙汰と言っていい。しかし、誰もそのことに異を唱えない。どう考えてもおかしいではないか!
仮に40歳の時に5000万円の住宅ローンを35年返済で組んだとする。定年になった60歳の時の残高は約2300万円と推定される。毎月の支払いは14万5000円ほど。退職金で一括返済しないと、あと15年はその額を払い続けなければならない。さて、定年になって2300万円以上の退職金がもらえる企業はどれくらいあるのだろう。
経団連の調査によれば退職金の平均額は、60歳の大卒者が卒業後38年間勤務した場合で「2357万円」となっている。今時22歳で大学を出てから同じ会社に38年間勤務する人は、全体の何%いるのだろう。
今は昭和の時代のように終身雇用制度は機能していない。大卒の3割以上が3年以内に転職する時代だ。さらに同じ会社に38年も勤めるケースは極めて稀。また「2357万円」は経団連の会員企業の社員という、全体の中でもかなり恵まれたサラリーマンのケース。
つまり、昭和も遠くなった今、60歳の退職時に2300万円の退職金をもらえる方はほとんどいないはずだ。なのに、40歳で5000万円を35年ローンで借りていれば、定年時のローン残高は2300万円。このあと、激減した収入で返済が続けられるのか。
昭和の時代は、こういうことになっても大きな問題はなかった。なぜなら「じゃあ、このマンションを売ってしまおう」という選択肢があったからである。
あの時代なら、20年前に5500万円で購入したマンションは軽く6000万円くらいでは売れた。うまくいけば1億円になっていたかもしれない。少なくとも買値を下回ることは、あまり想像をしなくてもよかった。「土地神話」という、とうに崩壊した経済の法則があって「不動産は決して値下がりしない」時代が続いていたのだ。
35年ローンが「発明」されたのは1960年代だと言われている。おそらく高度経済成長に沸いた昭和40年頃だろう。住宅の価格もうなぎ上りに上昇していた。「これでは誰も家が買えないじゃないか」という絶望感が庶民の間に広がっていた。
そこへ救世主のように登場したのが35年ローンだ。35年という長期にならせば、毎月の返済額は家賃程度に抑えられる。これによって、多くのサラリーマンはマイホームの夢を諦めずに済んだわけだ。実際に、35年ローンによって家を買った人は多かった。
しかし、もはや35年ローンの役割は完全に終わった。というよりも、サラリーマンを破滅に追い込むシステムに変貌しつつある。その理由は、ここまで申し上げてきたとおり。
(1)35年の安定収入を見込める者はごく少数
(2)住宅価格は今後右肩下がりで下落していく
この二つに尽きる。そして、この二つの条件が今後覆る見通しは少ない。
2015年の労働者派遣法改悪に見られるように、今後正規雇用の割合が増えるとは思えない。人手不足と逆行するように、企業は派遣社員などの非正規雇用への労働力シフトを強めるはずだ。
日本全体の人口が減る中、都心エリアなど一部を除き住宅への需要は萎みつつある。その証拠に5年ごとに調査される空家率は徐々に高まっている。それでも新築住宅は一定数供給されるので需給関係はますます悪化する。今の局地バブルが終了したのちは、住宅価格の下落傾向は都心近辺にまで及ぶはずだ。したがって35年ローンで住宅を購入した場合、支払いが不能となれば最終的には自己破産に追い込まれてしまう。
35年ローンというシステムは直ちに廃止すべきだろう。それにはまず、銀行が「最終返済時75歳」という根拠不明のルールを改めるべきだ。サラリーマンに融資する場合は「最終返済時60歳」とすべきだ。40歳の人なら「20年返済」が限度となる。自営業者なら定年がないので「最終返済時65歳」でも構わない。
次に、日本もノンリコースを取り入れるべきだ。返済ができなくなれば、担保の住宅を差し出せば返済義務をすべて免除、というのがノンリコース。アメリカなどで多く採用されている。その代わり、金利負担は重くなる。当然だ。
そもそも、何千万円ものお金を1%未満の低金利で借りられることが異常なのだ。それを35年もの長きにわたって「返せる」という幻想を抱く消費者も、抱かせる不動産業者や銀行も異状だ。今は高度成長期の昭和ではない。
日本は平成の世から次の時代へと変わると同時に、この時代遅れも甚だしい35年ローンという無責任な住宅購入システムを破棄すべきだ。
破棄できないのなら、せめて個々人が利用を避ければよいと思う。そして、自分の定年にあわせた返済期間でローンを組むべきだ。「家賃くらいの返済額になるから」などという理由で、安易に35年ローンを組んではいけない。そんなことをすれば、人生のどこかで自己破産の危機を迎えることになる