だがいまや、忽然と消えてしまったのだ。少なくとも統一戦線部長は、最高人民会議が開かれた4月中旬以降、それまで無名だった張金哲朝鮮アジア太平洋平和委員会委員に代わっている。

 私は、2月28日の昼前、トランプ・金正恩会談が「決裂」した会議室から出てきた金英哲副委員長の呆然自失とした表情が、忘れられない。テレビ画面に映った金副委員長は、首から上はすでに死人のような状態だったのだ。

 だがそれでも、ベトナムから帰国後の金英哲が、同じナンバー2であっても、かつての李英浩総参謀長(2012年7月に処刑)や、張成沢党行政部長(2013年12月に処刑)のように辱められたとは思わない。1946年生まれの金英哲は、朝鮮人民軍が輩出した最大のエリート軍人の1人であり、彼を処刑することによる朝鮮人民軍の動揺は、計り知れないからだ。だから、そっと引退させたのではないか。 2人目は、金革哲国務委員会アメリカ担当特別代表である。ハノイの米朝首脳会談で実務責任者を務めてきたエリート外務官僚だ。

こちらは、すでに処刑されていると推測している。「ハノイの決裂」の責任は、朝鮮労働党で「総括」した後、幹部の誰かが負わねばならない。それが金英哲副委員長でないとすると、残りの「候補者」は3人しかいない。

 だがそのうち、李容浩外相と崔善姫第一外務次官は、その後も公の場に姿を見せている。また、この2人が金正恩委員長の「好み」であることは、これまでの様々な状況から感じ取れる。となると、消えた金革哲代表は、悲惨なことになっているに違いないのだ。 消えた幹部の3人目は、金与正党宣伝扇動部副部長である。金正恩委員長の唯一の妹で、これまで主要な金委員長の首脳会談に同行し、「秘書役」を務めてきた。