藤井聡太四冠は1/9より渡辺明王将との王将戦に臨みます。2人あわせて8大タイトルのうち、7つが出そろう、この対決はまさに将棋
界の頂上決戦と言えます。タイトル戦での対戦成績では藤井四冠が6勝1敗と渡辺三冠を寄せ付けていません。取材した記者が渡辺三冠
に藤井と対戦する時にどうするのかを尋ねても「特に策はないです」。お手上げのように映った。タイトル戦で2回戦った現在、次はど
ういう方針で戦うのだろうか。渡辺はいう。「取り立てて策はないです。奇策が通じる相手でもないし。自分はもう、将棋を一から作り
変える年齢ではありません。自分がトッププロとしてやるのもあと5年くらいでしょう。もっと若かったら、藤井さんに勝つために将棋
の型を作り替えることも考えるかもしれませんけどね。だから今までやってきた対策の延長上になります」(渡辺明名人)そうは言って
も何も手を打っていないわけではない。昨年の棋聖戦の後、渡辺は100万円以上するデスクトップパソコンを購入し、新しいAI(人工知
能)を導入した。当然、藤井対策の一環である。「まだ試行錯誤中で、具体的な成果が出るのはしばらく先ですね」と渡辺は言う。性能
がよければAIに探索させる時間が短くて済むので、効率アップは疑いない。論理的思考に秀でている渡辺はAIを使って戦略を構築するの
が得意で、「いま自分がキャリア最後のピークを迎えているのは、3年くらい前から始めたAI研究が自分の特性に合っていたからなんで
す」と明かす。藤井にタイトル戦で唯一の勝利を挙げた昨年の棋聖戦第3局では、渡辺の長所が全開になった。なんと渡辺は90手目まで
を事前に調べており、自分が優勢だとわかっていたのだ。とてつもなく深い研究が奏功し、待望の1勝をもぎ取った。
では同じことをやればいいじゃないかと思われるかもしれないが、「ああいう感じで研究がドンピシャで当たることはほぼないです。
あの将棋は自分の長所が出ましたよね。だけど今後もバンバンできるかといったら無理です。相手も警戒してくるし、将棋の局面は広
い。お互いに思惑があるので、途中で一手外れてしまったら、もうその研究はパーになるので」と渡辺は言う。そもそもAIの研究など
で策を練ろうというのは「基本的に弱者側がやることです」と渡辺は言い切った。記者への達観している語り口から推測すると今年の
王将戦の勝者は既に決まっているのかもしれません。
藤井聡太四冠は厳冬期仕様の戦闘服(和服)が必要とし「一式、新しく取りそろえました」と明らかにした。昨年10月から始まった竜
王戦7番勝負は4連勝。11月半ばに決着した。これが対渡辺戦の研究、体力面で幸いしたかもしれない。「12月は対局が少なく、王将
戦に向けての時間があった」との言葉が物語る。