シャネル、ルイ・ヴィトン、C・ディオール、カルティエ。名立たるブランド店がずらり立ち並ぶ、銀座並木通り。
ショーウィンドウの明かりが消え、シャッターの降りる午後八時になると、ネオンが灯り、銀座はにわかにもう一つの夜の顔を呈し始める。
道なりに次々横付けされるベンツの数々。ビルの正面口で表通りと腕時計とを身比べる、黒いスーツの男。タクシーから出迎えられる、夜会巻きのホステス。着物姿のマダムが楚々として急ぐ道の向い側で、色とりどりのスーツ姿で携帯電話片手に呼び込みをかけつつ道行く女たち。
座っただけで五、六万。酒に美女と語らえば、数十万は下らない、銀座は花の高級クラブ街。
その一方で、この街は今、新たな時代の局面を迎えつつある。
街角の随所に目立つ、ビラを配って客寄せするキャバクラ嬢。腿の付け根まで切れ上がったスリットを強調させて歩く、フィリピーノの立ちんぼ。ニ、三十代のサラリーマンが、重役と言われる五、六十代と数を半分にして歩く通りで、「一時間六千円。いい娘揃ってますよ」と狙い定めて声をかける、長髪にスーツの男たち。
並木通り以前にメインストリートと言われた外堀通りに目を向ければ、今やカラオケボックスができ、吉野屋、和民など表通りは飲食店が山と占める。
「クラブになど簡単に土地を貸すような街ではなかった。そこを我々は堂々と借りて商売している、という誇りをもってやってきた」とは、クラブ「ロイヤルサルート」の会長。
世界有数の高地価地だけに、体裁を重んじる街並みは規制も厳しく、かつてはかのマクドナルドをもってしても表通りに軒を並べることは叶わなかった。
「それが今やなんにでも貸す」との生っ粋の銀座紳士殿の嘆きも否めない。
ショーウィンドウの明かりが消え、シャッターの降りる午後八時になると、ネオンが灯り、銀座はにわかにもう一つの夜の顔を呈し始める。
道なりに次々横付けされるベンツの数々。ビルの正面口で表通りと腕時計とを身比べる、黒いスーツの男。タクシーから出迎えられる、夜会巻きのホステス。着物姿のマダムが楚々として急ぐ道の向い側で、色とりどりのスーツ姿で携帯電話片手に呼び込みをかけつつ道行く女たち。
座っただけで五、六万。酒に美女と語らえば、数十万は下らない、銀座は花の高級クラブ街。
その一方で、この街は今、新たな時代の局面を迎えつつある。
街角の随所に目立つ、ビラを配って客寄せするキャバクラ嬢。腿の付け根まで切れ上がったスリットを強調させて歩く、フィリピーノの立ちんぼ。ニ、三十代のサラリーマンが、重役と言われる五、六十代と数を半分にして歩く通りで、「一時間六千円。いい娘揃ってますよ」と狙い定めて声をかける、長髪にスーツの男たち。
並木通り以前にメインストリートと言われた外堀通りに目を向ければ、今やカラオケボックスができ、吉野屋、和民など表通りは飲食店が山と占める。
「クラブになど簡単に土地を貸すような街ではなかった。そこを我々は堂々と借りて商売している、という誇りをもってやってきた」とは、クラブ「ロイヤルサルート」の会長。
世界有数の高地価地だけに、体裁を重んじる街並みは規制も厳しく、かつてはかのマクドナルドをもってしても表通りに軒を並べることは叶わなかった。
「それが今やなんにでも貸す」との生っ粋の銀座紳士殿の嘆きも否めない。
バブル期に隆盛を極めた当時のクラブ地価は、ピーク時で坪一億。売買契約で店を始めるとなると、土地代のみならず内装費、什器・備品代から保険料となにからなにまで丸抱えせねばならず、これに女の子の支度金から男性スタッフの雇用金が上乗せという、目を剥くような資金が必要であった。
そこに「お酒さえ持ち込めば、明日からでもできる」をキャッチフレーズに、リースシステムで頭角を表わしたのが丸源ビルディングであった。40年位前から平均十二〜十五坪単位でワンフロアーを細切れに区切り、上から下まで三十〜七十もの内装完備した店鋪を、坪百万単価という破格の値で貸し出したのである。
時は好景気。銀座で店を持ちたいと願うものは日々増加の一途を辿るのに対し、店鋪数の比率が圧倒的に追い付かなかった時代である。我も我もとみな殺到した。
時は流れ、バブル崩壊後の今日。雑居ビルのネオンは約半分以上がその姿を消した。内装完備分を倍額の家賃で採算都合していた丸源ビルも、今や坪単価三十五万という地価三分の一に引き下げざるを得ない状況に、バブル崩壊前後の住居者にかかってくる家賃差が歴然となった。地場の不動産業者は
「今は家賃が安くなった分、顧客は入りやすいのに、クラブ側の集客がなく、お店自体の維持が難しいというのが現状のようです」。ここ五年の契約率もキャバクラの方が高いという。バブル崩壊から長引く不況が街に刻んだ影は色濃い。
ホステスを演出するのに欠かせない、華美なドレスやスーツを専門に売る店。某店主の表情も厳しい。
バブル期に単価三〜五万のきらびやかなドレスを買うのが主流だったホステスも、現在は九千八百円から三万にまで単価を下げた、シンプルなスーツをメインに、月二、三着のペースで買っていくという。
集客率もかつて七十%を占めたホステスが今や四十%。代わって主婦、音大生、各サークルの学生が、カラオケ教室からそれぞれの発表会用途に、一般客が上回っている。
一般企業も接待費を削減し、クラブに足を運ぶのは、景気に左右されない著名人や、個人単位で資産家と言われる一握りの客層に限られるものとなった。
果たしてクラブは維持の時代へ突入したのである。
いま不況の打撃を最も受けているのは、バブル期に増加した、十二〜十五坪の少数経営店である。カラオケをおいたスナック的なミニクラブだ。
昔ながらの酒屋が潰れ、代わって10位年前から銀座に軒を並べるディスカウント・リカーショップ。配達の主流はこうしたミニクラブが占め、十時、十一時台になると、不足分を買いに走る女の子の姿も多く見かける。経費削減に走り、採算合わせに懸命な内情が伺える。
「高いはもう古い」と考えるママの声さえ聞こえる。体裁になど構っていられぬ様相だ。
では今だ世に聞こえる、華美なる銀座の高級クラブ。果たしてその値はどれほどのものか?
そこに「お酒さえ持ち込めば、明日からでもできる」をキャッチフレーズに、リースシステムで頭角を表わしたのが丸源ビルディングであった。40年位前から平均十二〜十五坪単位でワンフロアーを細切れに区切り、上から下まで三十〜七十もの内装完備した店鋪を、坪百万単価という破格の値で貸し出したのである。
時は好景気。銀座で店を持ちたいと願うものは日々増加の一途を辿るのに対し、店鋪数の比率が圧倒的に追い付かなかった時代である。我も我もとみな殺到した。
時は流れ、バブル崩壊後の今日。雑居ビルのネオンは約半分以上がその姿を消した。内装完備分を倍額の家賃で採算都合していた丸源ビルも、今や坪単価三十五万という地価三分の一に引き下げざるを得ない状況に、バブル崩壊前後の住居者にかかってくる家賃差が歴然となった。地場の不動産業者は
「今は家賃が安くなった分、顧客は入りやすいのに、クラブ側の集客がなく、お店自体の維持が難しいというのが現状のようです」。ここ五年の契約率もキャバクラの方が高いという。バブル崩壊から長引く不況が街に刻んだ影は色濃い。
ホステスを演出するのに欠かせない、華美なドレスやスーツを専門に売る店。某店主の表情も厳しい。
バブル期に単価三〜五万のきらびやかなドレスを買うのが主流だったホステスも、現在は九千八百円から三万にまで単価を下げた、シンプルなスーツをメインに、月二、三着のペースで買っていくという。
集客率もかつて七十%を占めたホステスが今や四十%。代わって主婦、音大生、各サークルの学生が、カラオケ教室からそれぞれの発表会用途に、一般客が上回っている。
一般企業も接待費を削減し、クラブに足を運ぶのは、景気に左右されない著名人や、個人単位で資産家と言われる一握りの客層に限られるものとなった。
果たしてクラブは維持の時代へ突入したのである。
いま不況の打撃を最も受けているのは、バブル期に増加した、十二〜十五坪の少数経営店である。カラオケをおいたスナック的なミニクラブだ。
昔ながらの酒屋が潰れ、代わって10位年前から銀座に軒を並べるディスカウント・リカーショップ。配達の主流はこうしたミニクラブが占め、十時、十一時台になると、不足分を買いに走る女の子の姿も多く見かける。経費削減に走り、採算合わせに懸命な内情が伺える。
「高いはもう古い」と考えるママの声さえ聞こえる。体裁になど構っていられぬ様相だ。
では今だ世に聞こえる、華美なる銀座の高級クラブ。果たしてその値はどれほどのものか?
😍 銀座高級クラブの金銭感覚
クラブは「箱」と呼ばれるビルの一室を借りて営業する。
坪数三十以上〜八十坪前後の大箱が、いわゆる高級クラブである。
一日二百五十万以上、月五千万の売り上げが店を維持する上での最低必要ライン。
ボトル代は平均三、四万。現在の主流はVSOPヘネシー、シーバスリーガル十二年熟成、オールドパーが名を列ねる。
ひと度席に座ってボトルを入れれば、自動的についてくるオードブル(調理品)、スティック(ポッキー類)、チャーム(乾きもの)と呼ばれるおつまみがひと皿、ニ、三千円。ミネラルウォーターが二千円に化ける世界。これにテーブルチャージ オールチャージ ボーイチャージ ホステスチャージ サービスチャージTC、AC、BC、HC、SCとついてたちまち十万、二十万を越える。
店は舞台。「係り」と呼ばれる女性が主役で、蝶ネクタイに黒スーツ姿の、「黒服」と呼ばれる男たちが黒子となってサポートする。
ホステスは大きく分けて「売り上げ」と「ヘルプ」の二種類。
「売り上げ」と呼ばれる女性は指名制の顧客を持ち、一卓を借りてどれだけ商売ができるか、ノルマで稼ぐ自営業の女性である。
「ヘルプ」は店側で決められた時給制。一日平均三万の保証額で「売り上げ」の女性をサポートする女性を指す。
月一千万近く売り上げ、五割の五百万をその取り分とする女性は、チーママ、ママクラスと言われる。
三十坪前後の中箱、少数経営のミニクラブと冠する箱は、オール制と呼ばれる。売り上げのホステスや雇われママを入れない限り、一日平均一万弱の保証金で、アルバイトを主力とし、高級クラブとは桁を異にする。
「グレ」「麻衣子」「ベルベ」「ドルフィン」。現在の銀座を代表する大箱、高級クラブ。ここでは不況などどこ吹く風。弾き語りのピアノ演奏をバックに、夜毎抜かれるドン・ぺリニョン、ロマネコンティの栓の数々に、一獲千金を獲得した強者や、一流紳士たちが酔いしれる。
坪数三十以上〜八十坪前後の大箱が、いわゆる高級クラブである。
一日二百五十万以上、月五千万の売り上げが店を維持する上での最低必要ライン。
ボトル代は平均三、四万。現在の主流はVSOPヘネシー、シーバスリーガル十二年熟成、オールドパーが名を列ねる。
ひと度席に座ってボトルを入れれば、自動的についてくるオードブル(調理品)、スティック(ポッキー類)、チャーム(乾きもの)と呼ばれるおつまみがひと皿、ニ、三千円。ミネラルウォーターが二千円に化ける世界。これにテーブルチャージ オールチャージ ボーイチャージ ホステスチャージ サービスチャージTC、AC、BC、HC、SCとついてたちまち十万、二十万を越える。
店は舞台。「係り」と呼ばれる女性が主役で、蝶ネクタイに黒スーツ姿の、「黒服」と呼ばれる男たちが黒子となってサポートする。
ホステスは大きく分けて「売り上げ」と「ヘルプ」の二種類。
「売り上げ」と呼ばれる女性は指名制の顧客を持ち、一卓を借りてどれだけ商売ができるか、ノルマで稼ぐ自営業の女性である。
「ヘルプ」は店側で決められた時給制。一日平均三万の保証額で「売り上げ」の女性をサポートする女性を指す。
月一千万近く売り上げ、五割の五百万をその取り分とする女性は、チーママ、ママクラスと言われる。
三十坪前後の中箱、少数経営のミニクラブと冠する箱は、オール制と呼ばれる。売り上げのホステスや雇われママを入れない限り、一日平均一万弱の保証金で、アルバイトを主力とし、高級クラブとは桁を異にする。
「グレ」「麻衣子」「ベルベ」「ドルフィン」。現在の銀座を代表する大箱、高級クラブ。ここでは不況などどこ吹く風。弾き語りのピアノ演奏をバックに、夜毎抜かれるドン・ぺリニョン、ロマネコンティの栓の数々に、一獲千金を獲得した強者や、一流紳士たちが酔いしれる。
銀座のクラブはなにを売るか?
夜に限らず、銀座はあらゆる一級品がその価値を再認する地である。銀座とつけば、どの店であろうと確かな品をお届けできます、そういう誇りと信頼にこそ、「銀座」と冠する価値がある。
某クラブ経営者は、クラブは「夢」を売る場、だという。だがそれはあくまで店側の大義名分にすぎない。
「千疋屋ではなにを売る?憧れを売るわけじゃないだろう?」とは銀座界隈を遊び人で鳴らす某社長。
お客側の求めるものは、やはり「女」と「酒」なのだ。
自らの地位を確認する場所。銀座で飲むということは、人生の成功者たる証であり、銀座の顔になることにこそ本来のステータスがある。
銀座で一流と賞されるクラブのオーナーは「無駄なお金を使うところが銀座。本音が言えればいい、見返りを求める所じゃないのよね」と語る。
夜に限らず、銀座はあらゆる一級品がその価値を再認する地である。銀座とつけば、どの店であろうと確かな品をお届けできます、そういう誇りと信頼にこそ、「銀座」と冠する価値がある。
某クラブ経営者は、クラブは「夢」を売る場、だという。だがそれはあくまで店側の大義名分にすぎない。
「千疋屋ではなにを売る?憧れを売るわけじゃないだろう?」とは銀座界隈を遊び人で鳴らす某社長。
お客側の求めるものは、やはり「女」と「酒」なのだ。
自らの地位を確認する場所。銀座で飲むということは、人生の成功者たる証であり、銀座の顔になることにこそ本来のステータスがある。
銀座で一流と賞されるクラブのオーナーは「無駄なお金を使うところが銀座。本音が言えればいい、見返りを求める所じゃないのよね」と語る。
世界でも類を見ないクラブという商売形態に、中途半端だ、フーゾクの方がマシだ、と陰口を叩く声もあるが、本音が言える。ギブ&テイクの規範に外れた、付加価値を求められる場所が銀座の高級クラブであったのだ。