「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

「明日の記憶」

2006年05月27日 18時17分04秒 | 映画
 
 渡辺謙が主役を演じる、若年性アルツハイマー病の映画です。

 原作は荻原浩の同名小説。

 監督は、あの「トリック」「ケイゾク」の堤幸彦です。

 主人公の佐伯雅行は、働き盛りで大プロジェクトを担当し、娘も結婚を控えて充実した日々を送っています。

 ところがある時、記憶の減退などの症状が現れ、仕事に支障をきたすようになってしまいます。

 そして「若年性アルツハイマー」の診断。

 決して誰しも人ごととは言えない、明日の我が身に降りかかってもおかしくはないことなのです。

 人間の人格は記憶の上にこそ成り立っているとも言えます。

 その記憶が次第に失われていき、新しい明日の記憶は積み重ねられていくことがない。

 しかも若い時期に発症する認知症は、社会の第一線で活躍している最中に起きるため、

 仕事や人間関係・生き甲斐の喪失,一家の経済的な問題,長い将来への不安など、切実な問題があります。

 僕は自分にも病気や事故などの不幸は、不平等に訪れるものだと思ってはいるのですが、

 実際そんな現実に襲われたら……?

 その恐怖は果たしてどんなものでしょう? 

 そのとき、家族やパートナーはどうしていけば……? 

 人が生きる意味とは……?

 作品はそんな問いかけをしますが、樋口加南子が演じる妻は、いつまでも夫と一緒にいて、夫を支え続けていくのです。

 そんな愛情の存在が横にあったら……独り身の僕としてはとても羨ましい限りです。

 人は独りでは生きていけませんよね。

 そして、人は「生きている」ことが大切なのだと、作品は訴えてくるようです。

 幾つかのシーンでぐっと来て涙を覚えました。
 

 心子も、自分が自分で分からなくなったり、記憶を失ったりという症状に苦しみました。

 彼女の生と死も、僕に生きることの意味を問いかけています。

 そして、愛情の大切さというものを教えてくれたのでした。
 
 

 トリッキーな映画やドラマ作りをしてきた監督・堤幸彦が、

 人間精神の重厚なテーマに真正面から向き合い、本格的な作品を作り上げました。

 オーソドックスな構図やアングルで映像を語っていきますが、

 ここぞという場面では、不安定なカメラワークで観る者の神経を揺さぶり、面目躍如というところです。

 主人公が自分の居場所が分からなくなるシーンなどでは、

 混乱する精神状態と襲いかかる恐怖を、見事な演出で表現していました。

 堤幸彦の新たな境地の開拓でしょうか。
 
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする