先週、関西に拠点を置く企業の人事担当者(多くは部長・課長クラス)と某イベントの企画委員会議があった。30人ほどの集まりで、女性はうち2人。
去年のイベントでは「ダイバーシティ」という言葉にまだ馴染みがなかったものの、女性社員の活用や非正規雇用の人々(嘱託社員、パート労働者、派遣社員、契約社員、請負労働者など)の活用、定年後の再雇用社員の活用といったテーマをあわせて「ダイバーシティ」というキーワードを打ち出し、好評だった。
今年の企画テーマでは、30人ほどの委員のほとんどが主要テーマのひとつに「ダイバーシティ」「女性社員の活用」を挙げた。2007年問題もあるが、団塊世代がごっそり抜け、一方では少子化が進行して優秀な若年労働者を確保することが難しくなっている現状で、女性の活用は現実問題となっている、という感触だった。
その懇親会の席で何人かの委員やファシリテーターとなっている神戸大の奥林名誉教授と話をする機会があったのだが、女性を活用しようとすると、今以上に個々の個人や家庭の事情に合わせた柔軟な待遇が必要になってくる、ということを持論として話した。
独身・扶養家族なしのワーキングウーマンと結婚して子供を育てているワーキングウーマンとでは、仕事とプライベートとのバランスも違うし、何が働き続けることの障害になるかも違う。夫婦共働きであれば、本人の転勤の可否もあれば、配偶者の転勤や転職によって転居しなければならなくなることもある。子供を育てていれば、子供を見てくれる両親が近所にいるかいないかで保育所に対するニーズも違ってくる。
今まで男性社員に対しては個別事情をあまり考慮せずに(家族の介護の必要性とか、多少は考慮しているケースもあるだろうが、一般的に)転勤を命じ、家族を置いて単身赴任で働くことを当然としてきた(手当てなどで生活費補填はしているが、単身赴任はその家族が個別事情で選択したものだからという理屈を持ってきた)会社がどの程度考慮するだろうか。しかし、女性を本気で自社で活用しようと思ったら、そこまで踏み込まないと、女性は同じ会社で長く勤められないのだ。
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働きながらMBA取得…自らキャリアパスを切り拓く女性たち
社会人向けビジネススクールの講師として、働きながら学ぶ男女と遣り取りする環境にある。MBAという学位を取得することを目標にするかどうかは人によっての選択になるが、自費で勉強に来る人々はとてもエネルギッシュ。特に女性は(笑)。
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団塊消費動向研究所
団塊女性の意欲が市場に反映されるとき
この記事がさらに面白かった。
団塊市場でヒットした商品について講演などで話をするとき、例の一つとして、カネボウ化粧品の「エビータ」を挙げることがある。私が知る限り「エビータ」は、初めて堂々と「50歳以上の女性のための」と表示してヒットした商品だ。普通なら、「50代」とか「シニア向け」などと表示した商品は、絶対に売れない。では、なぜ、「エビータ」はヒットしたのだろうか。以下は、私の勝手な解釈だが…。
第1のポイントは、「エビータ」というネーミングだ。エビータと言えば、貧しい踊り子から、美貌を武器にアルゼンチン大統領の妻になった女性。夫を助け、夫と共に政治・社会活動を行い、才色兼備な女性として国民の圧倒的人気を得た。その生涯はミュージカルにもなっているほど。
これまで日本では、年齢を重ねた女性のイメージは「おだやかな母」というものが主流だった。ところが、現代の女性たちは、そういうところには納まりきれない自分を感じている。エビータという名称は、その気分に合ったのかもしれない。
もう一つ、エビータのCMキャラクターには風吹じゅんが起用された。ご存じのように、この女優は52歳とは思えないほど若々しく、アグレッシブだ。CMにも、「50歳で初挑戦」、「家でじっとしていられない」などというアクティブなコピーが並んだ。
女性たちは安心したのだ。50代って、まだ若くてエネルギッシュなんだと。人はいろいろ言うけど、そういうふうに生きてもいいのだと。50代のイメージが変われば、そのように表示された商品を買うのも怖くない。同じ「50代」という言葉であっても、そのイメージを変えてしまうことでエビータはヒットしたのだ。
そりゃ、一昔ふた昔前の50代とは違いますからね。でも「50代」をターゲットにしていると明言しつつも、ポジティブなイメージを示して共感を得たという点ですごいマーケティングだと思う。
ところで、私は団塊女性向け商品のヒットの秘訣を語りたくて、「エビータ」を例に出したのではない。言いたいのは、女性たちは自らのイメージを変え、これからの人生で何かを始めたい、社会とつながりたいという意欲を持っているということだ。
2005年の平均寿命は男性78.36歳、女性85.33歳。その差は7歳だから、3歳年下の妻なら、夫が亡くなってから10年も独りで生きていかなければならない。夫は定年後の人生を設計する際、およそ20年を視野に入れて立てるだろう。しかし、妻は、さらにその先の10年をプラスして、30年の生き方を考えている。残り十分ある時間を自分らしく生きてみたいと願うのは当然だ。
そして、さらに興味深い展開に。
残念なのは、50代の女性たちには、これまで培った能力や経験を発揮する機会がほとんどないということだ。高齢者の就労対策は男性の問題と思われている。団塊女性を生かすすべについて語る人はいない。「専業主婦だった人の使い道などない」という意見が大勢だ。
ところが、最近、状況が少し変わってきた。50代以上の女性を使ってみようかという会社が現れたのである。
シニア女性の雇用に積極的な会社の事例は、なかなか面白い。
私にも心当たりがある。私の20年来の友人(といっても歳は離れているが)は現在60代だが、50代で子育てから解放されたとボランティア団体の経営チームで辣腕を発揮し、60代でイギリスに単身で語学留学1年、さらに日本語講師の資格を取って外国人に日本語を教えている。一方で趣味で始めたアルゼンチンタンゴのダンスは、関西の女性アマチュアダンサーとしてはちょっと知れた存在だ。
平日や休日の朝の電車に乗り込んでくるハイカーのシニア女性たちの元気っぷりを見ても、シニア女性が活力あふれた層だというのはよくわかるだろう。
日本の労働力は不足している。これから、もっと不足する。コンビニやファーストフード店に行って、片言の日本語で応対されることには驚かなくなった。しかし、「労働力不足を補う」というと、リタイア男性や外国人ばかりが注目されるのはなぜだろう。身近に、使える人材はたくさんいるのに。
忘れてはならないことは、この女性たちは、市場の動向を握っている重要な顧客でもあることだ。「売らんかな」という姿勢ばかり見せ付けて、それを開発し、提供する側の戦力とは考えもしない。目の前の顧客が、どんな状況にいるかを考えもしない。そんな提供者は、たぶんそっぽを向かれるだろう。
女性の意欲や感性が反映されれば、市場はもっと活性化するかもしれない。シニア市場に進出したいと思っているなら、そろそろ、そういうことに気づいてもいいのではないだろうか。
シニア女性の活用、面白いテーマだと思う。