日々の恐怖 7月3日 チャルメラ(3)
すると夫は、
「 そんなはずないんだけど・・・・?」
と首を傾げた。
「 だってあのラーメン屋、俺が高校入った年に、事故してやめたはずだよ。
山の方に稼ぎに行って、帰りにカーブ曲がりきれずに谷に落ちたんだ、たしか。
おっちゃんは即死、車は廃車。」
「 え~!?」
しかし、話せば話すほど二人が見たラーメン屋台の特徴は一致しており、違うラーメン屋だったとは思えない。
そこで彼女は、彼女の母親に確認の電話を入れた。
ラーメンを食べたことこそなかったが、何度もおねだりしたし、母親もあの哀愁漂うチャルメラを当然聞いているはずだった。
ところが、
「 ラーメン屋台・・・・?
そんなの見たことないわよ。」
と、またもや一蹴された。
「 子供の頃のあのアパートに、時々来てたじゃん!
何度か私、食べたいって言ったでしょ?」
「 夜にラーメン食べたいなんてとんでもない、って断ったことは覚えてるけど?
生協の車と間違えたんじゃないの?」
「 生協はチャルメラ鳴らさないでしょ!」
埒があかないと夫婦揃ってお互いの友人に確認したが、夫側は、
「 あのトラックは事故ってやめた。」
彼女側は、
「 ラーメン屋台なんて見たことない。」
とそれぞれ口を揃えた。
結局、何も分からなかったそうだ。
「 でもね、旦那に言われました。
そんな得体の知れないラーメン屋台で食べなくてよかったなって。
たしかにそうかなって思ったんですけど・・・・・。」
「 けど・・・・?」
彼女は、プクッと左頬だけ膨らませ、鼻息荒く言った。
「 だってね、
『 俺は本物食べたけどな、うまかったよ。』
ですって!
いい歳して、大人気ないと思いません?」
私は愛想笑いを返しながら、内心、
“ ごちそうさま・・・・。”
と呟いた。
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