日々の恐怖 5月24日 沈丁花(1)
沈丁花の香りがすると思い出す、幼い頃に遊んだ、不思議な友達の話です。
私が中学生の頃のことです。
私は小学生の頃から、通学路を守らない子どもでした。
いつも、あちこちの道を探検がてら歩いて帰るのが常だったのです。
お気に入りだったのは、山裾の小道を通る帰り方でした。
人気も街灯もなく通学路には不適な道でしたが、そこを通ると正規の通学路の半分の時間で帰ることができたのです。
ですが、春になると野いちご、秋になるとアケビの実る場所があり、近道のつもりで通っても結局はいつもと同じ時間になってしまう、楽しい道でした。
両側を藪に挟まれた小道を抜けると、ポツポツと民家の姿が見えてきます。
この辺りは、偶然なのか誰かが広めたのか、沈丁花があちこちに植えられていました。
庭先や門扉の傍、塀の隙間。
そんな風にあちこちから、少し光沢のある緑色の葉が覗いています。
春先になると、低くて地味な樹形を挽回するように、すぐさまそれとわかる香りが、そこら中に広がりました。
ある日の午後、まだ明るい時間に私はその道を通っていました。
その日は部活が休みで、早く帰ることができたのです。
季節は早春、あちこちで沈丁花が咲き、あたり一面に良い香りが漂っていました。
日差しは暖かく木の芽は膨らみ、私はもうすぐやってくるであろう本格的な春を思い、ウキウキしながら歩いていました。
ふと、やや前方の道端で、うずくまって何かしている人が目に入りました。
ポンポンのついたグレーの帽子には、見覚えがあります。
「 おばあちゃーん!」
この道は祖母の散歩コースだったなぁ、と思いながら、私は声をかけました。
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