日々の恐怖 12月20日 新入り(2)
そんな新入りだったが、半年ほどで塾を去ることになった。
なんでも夫の転勤で引っ越すのだという。
おおっぴらには言わないが、友人を含めた全職員が、ほっと胸をなでおろした。
「 短い間でしたがお世話になりました。」
新入りはそう言って、職員一人ひとりに別れの品をくれた。
それは定番のハンカチだったが、包装紙の中には小さなメッセージカードも入っていた。
仕事終わりに、同僚と二人で何気なくそのメッセージカードを開こうとした時だった。
「 ひっ!」
同僚が小さな悲鳴をあげ、メッセージカードを取り落とした。
友人は自分の足元に落ちたカードを拾おうとして、目を疑った。
『 彼とのデート、〇〇モールはやめたほうがいいですよ。
保護者もたくさん来てるんだから。』
そう、カードには書かれていた。
ありがちな話だが、同僚は生徒の保護者と浮気をしていた。
友人はそのことを本人から相談されて知っていたが、他は誰も浮気のことは知らないはずだった。
秘密のデートを、新入りはこっそりどこかで見かけていたのだろうか。
友人は恐る恐る、自分の分のメッセージカードを見た。
そして、先ほどの同僚と同じような悲鳴をあげたという。
「 カードには、職場ではもちろん、家族にも話したことのない秘密について、アドバイスめいたことが書いてあったの。
ゾッとしたわ。」
友人はその時のことを思い出し、恐怖と嫌悪感からか眉をひそめた。
「 なんでその新入りさんは、秘密を知ってたのかな?」
「 知らないわよ。
でも、他の職員のカードにも、同じようなことが書かれてたみたい。
そのあとは、もう大変。
みんな疑心暗鬼でギスギスして、結局、半年後には職員が総入れ替えになってたわ。」
それもそうだろう。
私は頷いた。
「 ところで、書かれてた秘密って?」
「 言うわけないでしょ。」
私の問いかけを一蹴した後、
「 でも・・・・。」
と友人は続けた。
「 あの時書かれてたアドバイス、あれだけは的確だったわ。
後になって、正直助かった。
仕事できなかったくせに、そういうところが余計気持ち悪いんだけどね。」
友人は身震いをしてそう言った。
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