日々の恐怖 12月25日 不動産の営業
不動産の営業をしていたときのことだ。
中古住宅の買取、という仕事をしていると、時折事故物件にも出くわす。
そのころ自分がいた会社は大手の会社で、事故物件はあまり積極的には扱わない会社でもあった。
当時自分の後輩だった彼は、この事故物件がなぜかやたらと集まるヤツだった。
事故物件を買い取って、販売まできちんとこなす、というのは非常にハードルが高い。
それをこなした彼のことを、もしかしたら周りの不動産業者さんが評価をしていたからかもしれないが、買う物件の殆どが事故物件だったし、会社全体で取り扱うそういった物件の殆どは、
彼が買取りを行った物だったから、ある種全国会議などで話題になるほどだった。
ところで、彼はアメフトだったかラグビーだったかをずっとやっていたらしく、入社当時は明らかにでかい体をしていたし、性格も豪気なヤツでエリア内でも相応の人気者だったのだが、入社後半年もすると、だんだん元気もなくなり、どんどんやつれていった。
自分も出来る限りのサポートをしていたが、営業として求められるノルマはなかなか厳しく、プレッシャーも強い。
くじけそうなのかもしれないと、心配をしていたある日の事、彼から急に飲みに行こうと誘われた。
自分の行きつけのバーに行って話を聞いていたのだが、しばらくすると彼は、
「 家に一人でいると、声や物音がする。
リビングにいると、自室で布を摩る音が聞こえる。」
と震えながら話した。
金縛りにあったり、ふと人の気配を感じたりすることもあったらしく、落ち着いて眠ることも出来なくなっていたらしい。
しばらく休暇を取るのと、事故物件が原因かはわからないけれど取扱いのを避けたらどうだ、と話すと、彼は笑顔なんだか泣き顔なんだかよくわからない顔をしてこう言った。
「 でも、物件が呼んでるんです、なんとかしてくれって。
耳元で囁くんですよ。」
彼は半年後に体調を崩して、退社してしまい、その後は行方知れずじまいだ。
彼がいなくなってからは、会社が事故物件を取り扱う機会は再び減ってしまった。
怪談は幽霊を寄せ付ける、なんて話もあるが、彼は事故物件を自分に寄せ集めてしまっていたんだろう。
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