一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

挑発するのも言論の自由?

2006-02-02 | よしなしごと
今朝の「BS世界のニュース」で報道され、気になった話です。

デンマークの新聞がイスラムの預言者ムハンマドを侮辱する風刺画を掲載したことで、イスラム圏ではデンマーク製品の不買運動にまで発展している中で、今度はフランスの新聞も同様の風刺画を掲載し波紋が広がっているとのことです。

アル・ジャジーラの今日の記事はこちら"More papers join cartoon furore"、デンマークの記事への波紋はこちら"Fury grows over Denmark cartoons"

最初に掲載したのはデンマークのユランズ・ポステン(Jyllands-Posten)紙。このサイトによると、デンマーク三大紙の一つで右派系とのこと(余談ですが三大紙のもうひとつの左派系の新聞と編集の独立性を保ちながら経営統合をしているそうです)
フランスの新聞はFrance-Soir紙、こちらはこのサイトによれば、「発行部数712,491部とフランス最大の夕刊大衆紙。政治的傾向はまった くないといってよく、西独や英国の大衆新聞に似た体裁で、見出しは大き く記事はセンセーショナルで写真もふんだんに入れ、紙面は読み易い」新聞とのこと。


上のアル・ジャジーラの記事やBBC NEWSの記事によると、France-Soir紙の記事は

一面に「私たちには神を風刺する権利がある」の下に、仏陀・ユダヤ教・キリスト教の神、預言者ムハンマドが並んで雲の上に浮かんでいる絵が描かれていて、キリスト教の神が「ムハンマド、ここにいる全員がネタにされているんだから文句言うなよ」と言っている。
そして、内側の紙面にはムハンマドがテロリストとして描かれたJyllands-Posten紙の風刺画がそのまま転載されている。

というもののようです。

最初のJyllands-Posten紙の記事に対しては、パレスチナのガザ地区では数千人規模のデモでデンマーク国旗が燃やされ、サウジ・アラビアはデンマーク大使を本国に帰国させ、アラブ諸国ではデンマーク製品の不買運動が起きています。

また、同紙は今週月曜に(報道の自由は留保した上で)イスラム教徒を侮辱したことについて謝罪し、デンマークの首相もこの謝罪を評価したものの、火曜には新聞社への爆破予告があり、全員避難するという事態になっています。

一方France-Soir紙は「政教分離の国ではいかなる宗教的ドグマも強要されない」ことを示そうとした、とコメントしています。
フランス外務省は、この記事はFrance-Soir紙の判断と責任によって掲載されたものであるとし、当局としても報道の自由は支持するとしながらも、その自由はさまざまな思想や宗教に対する寛容と尊敬の念を持って行使されるべきだ、とコメントしています。
また、フランスの5百万人のイスラム教徒を代表する"the French Council of the Muslim Faith" (CFCM)はコメントを発表せず、事態を静観しています。

アル・ジャジーラの記事は、France-Soir紙の編集者の「西洋では神を冒涜する権利があるんだ」「この記事のどこにも人種差別や特定のコミュニティをバカニする意図はない。面白いと思う人もいればそうでない人もいる、それだけじゃないか」という発言を引用しながら、今回の記事は経営難のFrance Soir紙の部数拡大を目的とした悪質な行為であるしています。


ググってみたところpolimediaukさんが「小林恭子の英国メディア・ウオッチ」でこの話題を背景まで含めてフォローされていて、
こちらによるとFrance Soir紙の編集長はBBCラジオのインタビューに対し、「公的利益のためにやったのではない。表現の自由のためだ」と答えているそうです。
こちらの記事の要約の方が上の私の要約より表現がこなれていてずっと読みやすいですね(汗)



個人的には「言論の自由・表現の自由」を笠に着てなんでもあり、というのは発言者のありかたとしてはどうなのかな、と思います。
それを徹底すると、「不快感の表明の仕方も自由だ」ということになり、対立が際限なくエスカレートすることになってしまいます(テロ攻撃を予告するのも言論の自由で、それに対して「予防的先制攻撃」をかけるのは言論の抑圧になる?)

神を風刺する権利があること(または神(または神々)を信じる権利、預言者を通じて神を信じる権利、無神論者である権利)などは、新聞に言われなくてもデンマーク人やフランス人はわかっていると思うのですが・・・


今回の風刺画がどのような問題提起をしているのかはわかりませんが、本来真剣に議論すべき対立点があるのであれば、真摯に議論すべきですし、もし対立を惹起することのみを目的とするような挑発じみた表現だとすれば、報道機関として見識を欠く行動だと思います。

言論の自由はあるにしても、メディアとしての影響力を前提にしたうえの見識は当然問われるべきです。

なので、もし単純な話題作りが動機だった(または違う問題提起があったとしても挑発としか取れない程度の表現力の稚拙さがあった)とすれば十分批判されてしかるべきだと思いますし(権力が介入はできないでしょうが権力や他のメディアも批判はできるはずです)、国論ではない、ということを十分説明してアラブ諸国にも冷静な対応を呼びかける、ということが必要なのではないでしょうか


って、きわめて日本人的な発想かなぁ・・・


でも、日本でもこのように物議をかもすことだけを目的にした議論がときどき見られます。もっとも自由な社会としては排除はできないので、われわれもそれらにきちんと対応するメディア・リテラシーを持つ必要はありますね。

また、先般の中国の反日デモのときのように日本が批判される側に回る事もあるわけでどのような対応をすべきかを問われる事もあります。
コメント (4)
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「ブレア時代のイギリス」

2006-02-02 | 乱読日記
行政学の山口二郎北海道大学教授(新聞・雑誌などでの投稿でもおなじみです)が昨年春にイギリスの大学に滞在し研究を行っていたときの経験をもとに、ブレア政権の活動を軸にイギリス政治の今をまとめたものです。

サッチャー政権以降18年間「万年野党」の座にあった労働党が、いかにして党を改革し、政権獲得に成功したか、そしてブレア政権の政治手法の特徴(政党の中央集権化、プロフェッショナルの支配、政治の人格化)、(サッチャリズムと従来の福祉国家との中間的な)社会政策、イラク参戦に代表される外交政策などをわかりやすく概観しています。

個人的にはイギリスには縁がないので、EU統合などの陰に隠れて関心の外にあったのですが、現在の日本の政治状況を考えるにあたって(不勉強な私にとっては)示唆に富む本でした。

著者も小泉政権とブレア政権の比較、日本における「小さい政府」議論や昨年の衆院選の総括や二大政党制の課題、マスコミの権力に対するチェック機能の日英の違いなどをあとがきにまとめています。


印象に残った箇所で言うと、労働党は政権獲得にむけての「ビッグ・テント」つまりさまざまな種類の有権者を大きなテントの下に糾合しようという戦略。
これに基づき、伝統的な労働党支持者は何があっても労働党に投票するはずと考え、ブレア労働党は浮動層を取り込むために右よりの路線を選択しました。

具体的には80年代に労働党を見放し保守党に鞍替えした有権者に対しては「保守党との同質化」つまり政権交代が起こっても悪いことは起こらないというメッセージと、「保守党との差異化」、つまり政権交代が起こることによってこのような良い事が起こるというメッセージを有権者に伝えて、広範な支持を獲得する事に成功しました。


ひるがえって日本を見ると、民主党も同じような戦略を取っているように思います(イギリスの労働党を意識してなのか、誰でも考えつくところは似ているのかはわかりませんが)

ただ、前原代表の「右寄り」発言はいきなり踏み込んでしまっていて、「自民党支持者にも議論があるであろう安全保障議論で同質化をアピールする一方経済政策で説得力のある差異化に成功していない」というように思えてしまうのですが・・・






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