一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

NHKスペシャル「高速ツアーバス 格安競争の裏で」

2007-05-01 | あきなひ
「バブル経済から・・・」の番組を途中で終えてブログをupしたあと、ERⅩⅡ(もうローマ数字がJISにないw)までの間、NHKスペシャルを観ました。

番組は長距離のツアーバス(定期路線でないのでそう言うのでしょうか)の話。

規制緩和でバス会社の設立が自由になって以降、過当競争になり、一方で過当競争のバス会社を参加に収めて低料金でツアーバスを提供する会社が急成長している、という業界の構造にスポットをあてていました。

ツアー会社はバス会社から安く仕入れて、乗車率を高くすれば儲かる一方で、バス会社はバスの維持費(と、番組では取り上げられてませんでしたがバスを購入したときの借入金の返済)のために、安くても仕事を請けざるを得ない、という構造にあります。
法律では最低運賃が定められているのですが、それは違反したバス業者にペナルティを課すもので、安い価格を提示するツアー会社を罰することはできないそうです(ツアー会社全体の中でのもシェアは小さいと独禁法上の問題にもならないのでしょうかね)。

さらにバス会社ではそのしわ寄せは運転手に行き、運転手は観光バス会社のときに比べ給料は2/3で家に帰れるのはつきに3日という過酷な状況にあります。

運転手対バス会社を見ると、生産手段を持っている資本家と労働者、というマルクス的な構図なのですが、バス会社対ツアー会社を見ると、過去の過剰な固定資産投資の結果にあえぐ企業と新興のアウトソーシング型の企業という構図が見えてきます。

しかしここ数年、コスト圧縮のひずみが安全面に出てきて、事故が増えてきました。
番組では運転手の過労による事故が取り上げられていましたが、事故には至らないまでもバス会社では車両の稼働率を上げるために点検で補修が必要なときも、簡単な部品は手製で作っているところが取り上げられていました。

ツアー会社も安全の確保に力を入れ始め(とはいえ顧客へのアピールと差別化が狙いのようですが)、その結果皮肉にも取材先のバス会社はツアー会社の直接契約でなく旅行会社経由の孫請けであるために仕事を切られてしまいました。

番組は「バス会社をいじめて設けるツアー会社」という切り口だけでなく、比較的公平に両者を取り扱っています。

特に見ていて印象に残ったのが、何でそうまでしてバス会社を続けるのか、または規制緩和したからといって過当競争が予想される業界に参入したのか、という部分。しかし取材ではそこには切り込んでいきませんでした。
バス会社は装置産業なので、教科書どおりにいけば設備投資のコストを減らせばうまくいく可能性はあるのでしょうが、番組で取り上げられた企業のように経営規模が小さいと民事再生より破産でバスを中古で売却して債権回収したほうが得、と銀行(債権者)も考えるので、逆に赤字でも経営者は自転車操業をせざるを得ない、ということなのかもしれません(または社長が個人保証をしているからかもしれませんね)。

ツアー会社はさらに自らバス会社を立ち上げてローコスト+安全を両立した経営を実践しようとしています。
今後は直接契約のバス会社と自前の子会社を中心にしていくようですが、アウトソーシング型の企業がより収益をあげるために自社生産に取り組み、結果として製造工程の問題点を抱え込んでしまうのと同様の陥穽にはまることなくできるのでしょうか。

ツアー会社の子会社はバスを韓国から輸入してコストダウンを図っています。しかしバス自身は自動車メーカーが作るものなので(=誰でも韓国製のバスを買える)、コスト競争はバスの更新期に生き残った会社や新規参入組との競争になるでしょうから、バス会社自身で差別化できるビジネスモデルを作り上げるのは素人目には難しそうに思えます。

もし業界を川上から川下まで含めた全体の中で収益構造に無理があるとするなら、そのしわ寄せをどこに押し付けるかが勝負なわけで、そうするとツアー会社の方向はひとつの賭けといえるかもしれません。


あ、もうひとつ、規模を拡大して株式を上場してしまい、ツケを株主に回す(=配当をゼロまたは低く抑え資金調達コストを安くする)という方法がありますね。
これは株価が上がっているうちは株主も文句は言わないでしょうから、結局株主から株主へのツケの回し合いということになるわけですが・・・

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする