著者は、長島・大野・常松法律事務所という現在日本で(多分)2番目に大きいローファームから独立すると共に弁護士のヘッドハンティング会社を起業した人です。
弁護士をめぐる就職・転職事情を、クライアント、大手ローファーム、ブティック系の中規模の事務所、一般民事の個人事務所、そしてヘッドハンターの立場から客観的に見ています。
「志」や「社会的使命」は当然大事にしても、やはり弁護士業も霞を喰らって生きていられるわけではなく、経済原則(需要と供給、事務所経営、依頼者の懐具合)からは逃れられない、ということをさまざまな角度から分析しているので、読む人によっては実もふたもない、と思うかもしれません。
ただ、部分部分については普段僕なども感じているところでもあり、それを体系的にまとめて「現実」として提示したところに本書の価値はあると思います。
司法試験合格者が年間3000人になる、というので弁護士会や法務大臣が見直しに動いていますが、単に人数が増えただけ収入が頭割りで減る、というわけではなく具体的にそれぞれの立場の弁護士にどういう影響が出るのかを考えるのにも役立ちそうです(そのためには「地方都市の弁護士」についての分析がほとんどないのがちょっと残念ですが。)
これから弁護士を目指そうという人には、一読をお勧めします。
そして、弁護士以外の転職や「キャリアアップ」を考えている人にも役に立つ視点が数多くあります。
一言で言えば「自分が何がしたいか、自分に何ができるかでなく、採用する側がどういう人を取りたいか、それはどうしてか」という視点での分析が大事、ビジネスの世界の物言いに変えれば人材についても「供給者の視点でなく顧客の視点が大事」ということです。
人間とかく「俺のスキルは・・・」から入ってしまいがちなものですから。
ところで雑誌「ビジネス法務」の2008年3月号に「法曹資格を持たないロースクール修了者の企業での採用を考える」という記事がありました。
これは、新司法試験の合格率が予想より低かった(ロースクールが予想より多かった、とも言われていますが)ために、ロースクールを出ても司法試験の3回の受験資格中に合格しなかった人の就職先をどうする、ということについて、企業法務、弁護士、ロースクールの人が行った座談会です。
このテーマについての結論は記事の末尾にある、牧野和夫大宮法科大学院大学教授の
ですから、純粋な法律の仕事ということでこだわってしまうと、逆にチャンスが狭くなってしまうと思うのです。純粋に法律の専門職ということになればそれは資格を取った方がよいという話になりますので
という発言に尽きていると思います。
企業で「法律の仕事」をするといっても、そもそも「法務部」がちゃんとあって二桁以上のスタッフがいる会社というのは商社とかメーカーのようなかなりの大企業に限定されていて、上場企業でも4,5人の法務担当がいれば御の字、というあたりが実情ではないでしょうか。
なので、上で紹介した本の流儀で言えば「小さい市場に絞って就職活動をするのは難易度が高くて当然」ということになると思います。
逆に法務の仕事にこだわらなければ有用な人材なら採用する、というのがそれこそ企業の経済原則です。
しかし経済原則を超えてこれが「べき」論になるとちょっと抵抗が出るのも事実です。
社会人経験があれば中途採用の要件にあてはまるのですが、大学卒でロースクールにはいると採用上は「大学院卒」として新卒採用になります。そうなると年齢制限とか、そもそも卒業時期が秋というのが採用のスケジュールとあわないという技術的な問題もあります。
大企業以外は採用にかけるコストにも制限があるので、このへんは送り出すロースクール側の工夫も必要だと思います。
でも、先日のエントリ(参照)に登場した工学部の教員をやっている友人に言わせれば、理系のポスドク問題(参照)とくらべると試験に落ちた人のことまで業界が心配してくれているだけずいぶんましだ、「社会的に有為な人材」というならきちんと研究をしてドクターをとった理系の人材の就職のほうを考えるべきではないか、ということにもなりそうですが・・・