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世界初の中波長紫外線(UV-B)領域の半導体レーザを発明

2020-05-02 | 科学・技術
 名城大学の赤﨑勇終身教授の研究グループの岩谷素顕准教授らは、三重大学、旭化成株式会社の共同研究により世界初の中波長紫外線(UV-B波長領域)半導体レーザを発明した。本研究成果は、2020年2月17日(英国時間)に英国物理学会(The Institute of Physics)発行の科学誌「Applied Physics Express」で掲載。
 レーザ光はLEDや太陽光など自然界に存在する光とは異なり波長・位相が制御された究極的な光源であり、医療・工業・家電・情報通信・計測・フォトニクスなどさまざまな新しい産業・学問分野が創造されている。レーザ光を生み出す装置のうち、半導体レーザは小型・高効率・低消費電力など優れた性能を有していることから、レーザ光の社会実装に大きく貢献している。これまで赤外線・赤色・緑色・青色レーザが実用化され社会実装されており、より波長が短くエネルギーの大きな紫外線(UV)領域のレーザの実現が強く望まれていた。
 紫外線は長波長紫外線(UV-A:光の波長が380~320nm)、中波長紫外線(UV-B:320~280nm)、短波長紫外線(UV-C:280nm以下)の3種類に分類される。既に、名城大学や浜松ホトニクス㈱などのグループから長波長紫外線領域の半導体レーザが、旭化成㈱および名古屋大学のグループから短波長紫外線領域の半導体レーザの実現が報告されていた。本成果により、紫外線領域全域にわたって半導体レーザが実現できることが実証された。
 中波長紫外線領域の半導体レーザが実現できない理由はその領域の高品質な結晶が得られないことに起因していた。本グループでは、赤﨑勇終身教授が青色LEDの発明でノーベル賞を受賞した窒化物半導体を用いた。基板にはサファイア基板を用い、三重大学の三宅秀人教授が開発した高品質な窒化アルミニウム(AlN)テンプレート上に、赤﨑方式によって高品質かつ格子緩和した窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)を開発した。これは長波長紫外線や短波長紫外線領域のレーザとは異なる方法であり、本グループ独自の手法である。さらに絶縁体に相当する同材料の大電流密度動作を達成し、未踏領域の半導体レーザを発明した。
 紫外レーザは、医療・バイオサイエンス・化学・殺菌・工業用途など多くの分野での応用が期待できる。特に中波長紫外線は生体に対しての影響が大きいため、DNAシーケンサーや皮膚治療など他の波長域ではできないような新しい応用が期待できる。また、既存のガスレーザや固体レーザの紫外領域の市場が1,000億円/年以上あるとされていることから、優れた特性を持つ半導体レーザでそれが実現できることから従来の市場価値に加えてイノベーションの創出が期待できる。
 研究の内容
 中波長紫外線領域のレーザを実現するためにはバンドギャップエネルギーが3.8~4.4eVの半導体材料が必要であり、特に高品質な結晶が必要という課題がある。これまで青色よりも短波長な半導体レーザは、2014年にノーベル物理学賞を受賞した「青色LED」材料である窒化物半導体が用いられてきた。しかしながら、このバンドギャップエネルギーを用いた窒化物半導体は適切な基板がないため、高品質な結晶が得られないという課題があった。また、半導体レーザを実現するためには、数kA/㎝2(キロアンペア毎平方センチメートル)以上という大電流動作を実現させる必要がある。しかしながら、従来の電子物性工学ではバンドギャップエネルギーが3eVを超える材料は絶縁性が高く、大電流注入が極めて困難であるという課題があった。本グループでは、これらの課題に対して以下の2つのアプローチを適用することによって問題を解決した。
 まず三重大学の三宅秀人教授の研究グループが開発した手法であるサファイア基板上に、スパッタ法で作製したAlNテンプレート上に3次元成長を用いることによってバンドギャップが3.8~4.4eVの高品質AlGaNを実現した。この方法は、高輝度青色LEDの発明で用いられているサファイア基板上へのGaNの作製法を踏襲することによって得られた。AlNとこのバンドギャップエネルギーを持つAlGaNの間には1%以上の大きな格子不整合が存在する。従来の結晶工学では1%を超える格子不整合を持つと高品質な結晶が得られない。しかし青色LEDの発明時にそれを打ち破るために低温バッファ層を用いた手法(赤﨑方式)が発明された。その際に効果を発揮したのが3次元成長である。3次元成長させることによって、成長層上部に高品質なGaNを得ることができ、それが青色LEDの発明に直結した。本研究グループでは、スパッタ法で作製したAlN上にAlGaNを成長させることによって3次元成長させることが可能であり、それによって高品質なAlGaNを得ることが可能であることを見いだした。
 次に電流注入による手法においては、分極ドーピング法を適用した。従来の半導体では不純物を添加することによって自由電子と自由正孔を形成し、電流注入する方法が広く用いられてきた。しかしながら、ワイドギャップ半導体であるAlGaN材料では、この方法ではレーザ発振レベルの大電流注入は実現できなかった。これは、従来の電子物性工学ではバンドギャップエネルギーが3eVを超える材料は絶縁体(電流を流すことができない)とされていたが、紫外領域の半導体レーザを実現するためには、バンドギャップエネルギーは5eVを超える材料を用いることが必須であることに起因している。本グループでは、米国ノートルダム大のグループが提案した分極ドーピング法をAlGaN材料に適用することによってレーザ発振が可能なレベルの電流注入を実現した。ノートルダム大のグループは分極ドーピングを青色発光素子に適用したが、本グループでは紫外発光素子に対して有用であると考え研究を進めてきた。その結果、2019年5月にApplied Physics Letters(https://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.5095149)にレーザ発振レベルの大電流注入を実現できることを報告しました。
 これらの手法を適用することによって、298nm波長の電流注入による中波長紫外線領域のレーザを発明した。
 作製した試料の構造
 試料は上述のような方法で作製した高品質AlGaN上に一般的な半導体レーザで用いられている分離閉じ込めヘテロ構造によってデバイスを試作した。デバイスプロセスを行い室温パルス下で電流を注入することによって評価をおこなった。その結果、電流-光出力特性に明確な閾値が確認できたこと、自然放出スペクトルからレーザ発振特有の急峻な半値幅が極めて細いスペクトルが得られていること、明確な偏光特性が現れていることからレーザ発振に到達していることを確認し、本サンプルはレーザ発振に到達していると結論づけた。
 今後の展開
 紫外領域の光はさまざまな化学結合を切断したり融合したりすることが可能であることから、紫外線硬化および紫外線接着・乾燥(UV キュアリング)、アトピー治療などの医療分野、DNAシーケンスなど多くの応用分野がある。これまで、この波長域のレーザはガスレーザや固体レーザの高調波などが用いられてきており、応用分野の発展の足かせになっていた。半導体レーザは小型・高効率・長寿命など優れた特性があること、またAlGaNのAl組成を変えることによって中波長紫外線領域の全ての波長域のレーザ光を実現できることなどから、今後さまざまな光応用が広がることが期待される。これらによって、光科学分野のさらなる発展が期待され、この分野において日本がイニシアティブを取っていけることが期待できる。
 ◆用語解説
 〇波長・位相
 物理学で、波動などの周期運動の過程で、空間を伝わる波の周期的な長さを表すのが波長、どの点にあるかを示す変数を位相と表す。光は電磁波と呼ばれる波動で表されることが知られており、半導体レーザは波長だけでなく周期運動の過程でどの点にあるか示す変数も揃っていることが特長である。
 〇バンドギャップエネルギー
 バンド間遷移の際に吸収・放出されるエネルギーのことである。
 〇スパッタ法
 薄膜を生成する手法の1つで、アルゴンガス粒子をターゲット(薄膜にしたい物質)に衝突させ、その衝撃ではじき飛ばされたターゲット成分を基板上付着させて薄膜を作る方法のことである。
 〇分極ドーピング法
 一般的に半導体結晶は、原子を形成することによって中性な性質を有している。しかしながら窒化物半導体は対称性が低いことから大きな分極電荷を有している。この分極電荷を活用することによって電気伝導する電荷担体を発生させるという方法が分極ドーピング法であり、従来の半導体工学では用いられていない方法である。
 〇分離閉じ込めヘテロ構造
 半導体レーザにおいては、電荷担体と光を活性層内部で閉じ込める必要があるため、ヘテロ構造と呼ばれる異種材料を組み合わせる方法が用いられる。しかしながら電荷担体と光を閉じ込める最適な膜厚が異なることから、本構造を適用することによって高い光出力と光変換効率を実現できる。

 今日の天気は晴れ~曇り。風は穏やか。気温はいきなり高く、最高気温29℃・最低気温14℃とか。体調が変化について行けない?!。
 塀際に”シロヤマブキ”の花が咲いている。黒い実もまだ付いている。
 ”シロヤマブキ”は白花の”ヤマブキ”ではない、同科異属である。”シロヤマブキ”はバラ科シロヤマブキ属であり、”ヤマブキ(山吹)”はバラ科ヤマブキ属(本種のみの一属一種)である。”ヤマブキ”の花色は黄色(山吹色)で5弁花。”シロヤマブキ”は白色で4弁花。葉の付き方は、”シロヤマブキ”は対生、”ヤマブキ”は互生である。
 ”シロヤマブキ(白山吹)”の名は、花の様子が”ヤマブキ(山吹)”似の白花から付けられた。因みに、実がなるのは”ヤマブキ”も”シロヤマブキ”も花が一重(ひとえ)だけ。
 シロヤマブキ(白山吹)
 学名:Rhodotypos scandens
 バラ科シロヤマブキ属
 落葉低木
 開花時期は4月~5月
 花は花弁4枚(径3cm~5cm)で白色
 果実は痩果で、1花に光沢がある黒色の実が4個付く
 4個の実は熟すと黒色となる