理化学研究所環境資源科学研究センター生体機能触媒研究チームの中村龍平チームリーダー、李亜梅研究員(研究当時)らの国際共同研究グループは、化学合成した酸素を含むモリブデン硫化物の触媒に、天然の硝酸還元酵素と類似した反応活性サイトがあることを見いだした。本研究は、科学雑誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版(4月1日付)に掲載、Very Important Paper (VIP)に採択された。
窒素肥料の大量消費により、環境汚染が深刻化している。特に、硝酸イオンは、水に溶けやすく、化学的に安定であるため、地下水や河川に蓄積し、飲料水を汚染したり、湖沼の富栄養化や赤潮を引き起こす。国際共同研究グループは、2017年、硝酸イオンを無害化するための触媒として、モリブデン硫化物が有望な候補であることを見いだした。今回、国際共同研究グループは、触媒作用の起源を明らかにするため、モリブデン硫化物の性質を電子スピン共鳴分光法などで評価した。その結果、酸素を含む5価のモリブデン(Mov=O、オキソモリブデン)が、反応を促進するための活性種であることを突き止めた。そして、この活性種が、天然の硝酸還元酵素と類似した構造を持つことを明らかにした。本研究成果は、水質汚染物質として規制されている硝酸イオン(NO3-)を無害化するための、新たな触媒開発につながると期待できる。酵素が持つ優れた特性を、人工の触媒を用いて再現するための大きな一歩になると考えられる。
背景
人口増加に伴う過度な窒素肥料の利用により、水質汚染が深刻化している。特に、窒素肥料に含まれる硝酸イオン(NO3-)は、環境に蓄積しやすく、飲料水の汚染、湖沼の富栄養化や赤潮発生の原因になる。そのため、硝酸イオンの環境への排出は、厳しく規制されている。
現在、硝酸イオンを無害化する方法として、微生物が持つ硝酸還元代謝を利用した排水処理技術が用いられている。しかし、硝酸が高濃度だと微生物が生育できず、廃液を処理できないという問題がある。また、化学的に硝酸を処理するためには、高価な貴金属触媒を使う必要がある。しかも、強酸性条件でないと反応が起きないなど、環境負荷の観点からも問題があった。
そのような中、国際共同研究グループは、微生物が持つ硝酸還元酵素の仕組みを取り入れた、人工触媒の開発を進めてきた。そして、モリブデン硫化物(MoSx)を触媒として用いることで、温和なpH環境(pH 7)で、選択的に硝酸イオンを還元できることを見いだした。
微生物が持つ硝酸還元酵素には、モリブデンが使われている。そのため、国際共同研究チームは「モリブデン硫化物触媒にも、酵素と似た活性サイトがあるのではないか?」と仮説を立てた。本研究では、その仮説を検証するため、触媒表面における化学種がどのように変化するかを、電子スピン共鳴分光法などを用いて追跡することを試みた。
研究手法と成果
本研究では、酸素を含む硫化モリブデン粒子を硝酸還元触媒として用いた。還元剤を加えた環境で、モリブデン硫化物表面における化学種(モリブデン原子中の電子数とスピンの状態、モリブデン酸素間の結合)がどのように変化するかを、電子スピン共鳴分光法などを用いて測定した。ここでは、亜ジチオン酸イオン(S2O42-)を還元剤として触媒を含む水溶液に添加することで、硝酸還元反応を駆動した。
電子スピン共鳴分光法でモリブデン原子中の電子数とスピンの状態を調べたところ、還元剤の添加により、酸素を配位子に持つ5価のモリブデン種(MoV=O)が生成するこが分かった。引き続き、触媒を含む溶液に、硝酸イオンを添加した。すると、5価のモリブデン種が消失し、硝酸イオンの還元生成物である亜硝酸(NO2-)とアンモニウムイオン(NH4+)が生成することを突き止めた。この結果より、酸素を含む5価のモリブデン(MoV=O)が活性種となり、硝酸イオンが還元されていることが分かった。
一方で比較として、酸素を含まない硫化モリブデン粒子を触媒として用いた場合には、硝酸還元反応は全く進行しなかった。また、電子スピン共鳴分光法を用いた計測においても、MoV=Oの生成は観測されなかった。つまり、活性種であるMoV=Oを効率的に触媒表面に作り出すには、モリブデンの配位子に酸素と硫黄の両方が必要であるということを突き止めた。
モリブデンを酸素と硫黄で配位した構造は、天然の硝酸還元酵素と共通している。天然酵素はモリブデンを活性中心に持ち、硫黄と酸素が配位したプテリン構造をとっている。そして、酵素反応においても、MoV=Oが生成し、硝酸イオンの活性化が進行することが分かっている。よって、本研究により、化学合成したモリブデン硫化物には、天然の酵素と類似した反応活性サイトがあることが明らかになった。
今後の期待
本成果は、貴金属に依存することなく、温和な環境で硝酸イオンの無害化が可能であることを示すものである。また、廃液からアンモニアを合成する新しい技術としての展開も期待できる。
本研究成果は、国際連合が設定した「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち、目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、そして目標14「海の豊かさを守ろう」に貢献する研究成果である。
◆補足説明
〇硝酸還元酵素
硝酸イオン(NO3-)を亜硝酸(NO2-)に還元するための酵素。生体内では、エネルギーを獲得するためや、生体分子の合成に必要な窒素原子を取り込むために使われる。
〇窒素肥料
植物の生育に欠かせない窒素を主成分とする肥料。塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素などを含む。
〇電子スピン共鳴分光法
物質を磁場の中に置いた状態で電磁波を当てると、共鳴現象により、ある特定の光を強く吸収することが知られている。この現象を利用して物質中の電子状態を特定する手法を電子スピン共鳴分光と呼ぶ。全ての分子の電子状態を観測できるわけではないが、観測できる分子については、極めて詳細な情報が得られる。
〇硝酸還元代謝
ヒトは、酸素の持つ酸化力で糖を分解し、エネルギーを獲得している。しかし、酸素ではなく、硝酸の酸化力で糖を分解し、エネルギーを獲得する微生物もいる。このような代謝の方法を硝酸還元代謝という。
〇還元剤
硝酸イオンは化学的に安定なため、それを還元するためにはエネルギーを加える必要がある。ここでは、還元剤がエネルギーを触媒に供給する役割を持つ。
〇プテリン構造
炭素と窒素からなる分子であり、二つの環がつながった形を持つ。酵素が触媒として機能することを補助する補因子としての役割を持つ。
〇持続可能な開発目標(SDGs)
2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のためのアジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール、169のターゲットから構成され、発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる(外務省ホームページから一部改変して転載)。
今日の天気は曇り。気温は低く、最高気温12℃・最低気温8℃。梅雨が始まった様な天気だ。
近所のお庭。大きな庭石がある。この大きな岩に白い花が見える。岩に張り付いた”セッコク(石斛)”の花、咲き出した。茎の先端の節から花茎を出し、1~3輪の花が咲く。花色は、白色とクリーム色だ。
ラン科デンドロビウム属(セッコク属)は熱帯アジアを中心として、オーストラリアまで1000種以上が知られている。その仲間のうちでも北限まで(日本の東北地方)生育する種が”セッコク”とある。日本では、、独自の品種や楽しみ方が江戸時代に確立され、それが脈々と受け継がれている古典植物で、江戸時代の園芸文化に欠かせない植物である、と言う。
セッコク(石斛)
別名:岩薬(いわぐすり)、少名彦薬根(すくなひこのくすね)、長生蘭(ちょうせいらん)
学名:Dendrobium moniliforme
ラン科セッコク属(デンドロビウム属)
多年草
岩・樹木に根を張付き、自生する着生ラン
水分は空気中からとる
茎は太く、内部に水分を蓄えられる
原産地:東北地方南部~琉球諸島、朝鮮半島、中国
開花時期:5月~6月
茎の先端の節から花茎を出し、1~3輪の花が咲く
花の大きさは3~4cm、芳香がある
花色は白色・クリーム色・淡い紅色
窒素肥料の大量消費により、環境汚染が深刻化している。特に、硝酸イオンは、水に溶けやすく、化学的に安定であるため、地下水や河川に蓄積し、飲料水を汚染したり、湖沼の富栄養化や赤潮を引き起こす。国際共同研究グループは、2017年、硝酸イオンを無害化するための触媒として、モリブデン硫化物が有望な候補であることを見いだした。今回、国際共同研究グループは、触媒作用の起源を明らかにするため、モリブデン硫化物の性質を電子スピン共鳴分光法などで評価した。その結果、酸素を含む5価のモリブデン(Mov=O、オキソモリブデン)が、反応を促進するための活性種であることを突き止めた。そして、この活性種が、天然の硝酸還元酵素と類似した構造を持つことを明らかにした。本研究成果は、水質汚染物質として規制されている硝酸イオン(NO3-)を無害化するための、新たな触媒開発につながると期待できる。酵素が持つ優れた特性を、人工の触媒を用いて再現するための大きな一歩になると考えられる。
背景
人口増加に伴う過度な窒素肥料の利用により、水質汚染が深刻化している。特に、窒素肥料に含まれる硝酸イオン(NO3-)は、環境に蓄積しやすく、飲料水の汚染、湖沼の富栄養化や赤潮発生の原因になる。そのため、硝酸イオンの環境への排出は、厳しく規制されている。
現在、硝酸イオンを無害化する方法として、微生物が持つ硝酸還元代謝を利用した排水処理技術が用いられている。しかし、硝酸が高濃度だと微生物が生育できず、廃液を処理できないという問題がある。また、化学的に硝酸を処理するためには、高価な貴金属触媒を使う必要がある。しかも、強酸性条件でないと反応が起きないなど、環境負荷の観点からも問題があった。
そのような中、国際共同研究グループは、微生物が持つ硝酸還元酵素の仕組みを取り入れた、人工触媒の開発を進めてきた。そして、モリブデン硫化物(MoSx)を触媒として用いることで、温和なpH環境(pH 7)で、選択的に硝酸イオンを還元できることを見いだした。
微生物が持つ硝酸還元酵素には、モリブデンが使われている。そのため、国際共同研究チームは「モリブデン硫化物触媒にも、酵素と似た活性サイトがあるのではないか?」と仮説を立てた。本研究では、その仮説を検証するため、触媒表面における化学種がどのように変化するかを、電子スピン共鳴分光法などを用いて追跡することを試みた。
研究手法と成果
本研究では、酸素を含む硫化モリブデン粒子を硝酸還元触媒として用いた。還元剤を加えた環境で、モリブデン硫化物表面における化学種(モリブデン原子中の電子数とスピンの状態、モリブデン酸素間の結合)がどのように変化するかを、電子スピン共鳴分光法などを用いて測定した。ここでは、亜ジチオン酸イオン(S2O42-)を還元剤として触媒を含む水溶液に添加することで、硝酸還元反応を駆動した。
電子スピン共鳴分光法でモリブデン原子中の電子数とスピンの状態を調べたところ、還元剤の添加により、酸素を配位子に持つ5価のモリブデン種(MoV=O)が生成するこが分かった。引き続き、触媒を含む溶液に、硝酸イオンを添加した。すると、5価のモリブデン種が消失し、硝酸イオンの還元生成物である亜硝酸(NO2-)とアンモニウムイオン(NH4+)が生成することを突き止めた。この結果より、酸素を含む5価のモリブデン(MoV=O)が活性種となり、硝酸イオンが還元されていることが分かった。
一方で比較として、酸素を含まない硫化モリブデン粒子を触媒として用いた場合には、硝酸還元反応は全く進行しなかった。また、電子スピン共鳴分光法を用いた計測においても、MoV=Oの生成は観測されなかった。つまり、活性種であるMoV=Oを効率的に触媒表面に作り出すには、モリブデンの配位子に酸素と硫黄の両方が必要であるということを突き止めた。
モリブデンを酸素と硫黄で配位した構造は、天然の硝酸還元酵素と共通している。天然酵素はモリブデンを活性中心に持ち、硫黄と酸素が配位したプテリン構造をとっている。そして、酵素反応においても、MoV=Oが生成し、硝酸イオンの活性化が進行することが分かっている。よって、本研究により、化学合成したモリブデン硫化物には、天然の酵素と類似した反応活性サイトがあることが明らかになった。
今後の期待
本成果は、貴金属に依存することなく、温和な環境で硝酸イオンの無害化が可能であることを示すものである。また、廃液からアンモニアを合成する新しい技術としての展開も期待できる。
本研究成果は、国際連合が設定した「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち、目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、そして目標14「海の豊かさを守ろう」に貢献する研究成果である。
◆補足説明
〇硝酸還元酵素
硝酸イオン(NO3-)を亜硝酸(NO2-)に還元するための酵素。生体内では、エネルギーを獲得するためや、生体分子の合成に必要な窒素原子を取り込むために使われる。
〇窒素肥料
植物の生育に欠かせない窒素を主成分とする肥料。塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素などを含む。
〇電子スピン共鳴分光法
物質を磁場の中に置いた状態で電磁波を当てると、共鳴現象により、ある特定の光を強く吸収することが知られている。この現象を利用して物質中の電子状態を特定する手法を電子スピン共鳴分光と呼ぶ。全ての分子の電子状態を観測できるわけではないが、観測できる分子については、極めて詳細な情報が得られる。
〇硝酸還元代謝
ヒトは、酸素の持つ酸化力で糖を分解し、エネルギーを獲得している。しかし、酸素ではなく、硝酸の酸化力で糖を分解し、エネルギーを獲得する微生物もいる。このような代謝の方法を硝酸還元代謝という。
〇還元剤
硝酸イオンは化学的に安定なため、それを還元するためにはエネルギーを加える必要がある。ここでは、還元剤がエネルギーを触媒に供給する役割を持つ。
〇プテリン構造
炭素と窒素からなる分子であり、二つの環がつながった形を持つ。酵素が触媒として機能することを補助する補因子としての役割を持つ。
〇持続可能な開発目標(SDGs)
2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のためのアジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール、169のターゲットから構成され、発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる(外務省ホームページから一部改変して転載)。
今日の天気は曇り。気温は低く、最高気温12℃・最低気温8℃。梅雨が始まった様な天気だ。
近所のお庭。大きな庭石がある。この大きな岩に白い花が見える。岩に張り付いた”セッコク(石斛)”の花、咲き出した。茎の先端の節から花茎を出し、1~3輪の花が咲く。花色は、白色とクリーム色だ。
ラン科デンドロビウム属(セッコク属)は熱帯アジアを中心として、オーストラリアまで1000種以上が知られている。その仲間のうちでも北限まで(日本の東北地方)生育する種が”セッコク”とある。日本では、、独自の品種や楽しみ方が江戸時代に確立され、それが脈々と受け継がれている古典植物で、江戸時代の園芸文化に欠かせない植物である、と言う。
セッコク(石斛)
別名:岩薬(いわぐすり)、少名彦薬根(すくなひこのくすね)、長生蘭(ちょうせいらん)
学名:Dendrobium moniliforme
ラン科セッコク属(デンドロビウム属)
多年草
岩・樹木に根を張付き、自生する着生ラン
水分は空気中からとる
茎は太く、内部に水分を蓄えられる
原産地:東北地方南部~琉球諸島、朝鮮半島、中国
開花時期:5月~6月
茎の先端の節から花茎を出し、1~3輪の花が咲く
花の大きさは3~4cm、芳香がある
花色は白色・クリーム色・淡い紅色