依然厳しいコロナ禍に加えて、日中の酷暑や寝苦しい熱帯夜が続き、今年の夏はいつもより疲れがち。この猛暑を元気に乗り切るには、「休養」の意識改革が不可欠だ。「休養」のエキスパートが、正しい休養法をレクチャーする。【全4回の第4回。第1回から読む】
【図解】生理的、心理的、社会的休養… “活力”を上げる7タイプの休養モデルと実例
「日本リカバリー協会」代表理事で、「休養学」の第一人者である片野秀樹さんが5年ほど暮らしたというドイツを例に、海外と日本の働き方・休み方の違いを見ていこう。
「ドイツ(及びEU諸国)では、法律で、前の労働と次の労働の間に最低11時間の連続休息を取ることが義務づけられています。もし深夜0時まで働いた場合、翌日は午前11時以降でないと出社できないんです。彼らは、家族との夕食や団らん、入浴、趣味など、その11時間をどう使うかを計算して働いています。
リモートワークで減ったとはいえ、日本だと、前夜どんなに遅くても始業時刻が決められている企業がまだ多いですよね。そこで何を削るかというと、睡眠です。日本の平均睡眠時間が世界最低レベルに短い原因の1つは働き方にあると思います」(片野さん・以下同)
日本の残念な環境で、消耗しない働き方はあるのか。
「土日休みの場合を例に取ると、平日に疲弊して“活力”がマイナスとなり、土日にゼロに戻そうと考えるかたが多いですよね。ですが、土日を“週の頭”と捉え、ここでプラスにして月~金でゼロになるよう計画する『週内休養』を、日本リカバリー協会は提唱しています。次の1週間の予定がある程度想定できるなら、金曜日の終わりに活力をゼロにするように設計してみてください。『木曜は忙しいから水曜に少し充電しよう』など、週内で休養する日や時間を設けておくと、マイナスではなくゼロで金曜を終え、土日でプラスにまで回復できる、という考え方です」
欧州はバカンスが長いが、その間、仕事の生産性が落ちることはないのか?
「企業により違いはありますが、ドイツでは、1月のスタート期にスタッフが集まり、新年のカレンダーを広げて『誰がいつバカンスを取るか』を決める会議をするんです(笑い)。約1か月のバカンスをまとめて取るか、1週間×4回か。各自が休む日を決め、お互いの不在期間を助け合いながらどう働くかを話し合います。
彼らは、休みを取るために、いかに生産性を高めながら働くかを工夫します。つまり、休みがあるからいい仕事ができるという発想です。その点、日本は生産性が少し弱いかなと感じています。とはいえ、欧州は誰もが休みに寛容なので、『担当者は1か月いません』と言われてクレームを言う人はいないというのも日本とは違いますね」
どうして欧州は休みやすい環境にあるのだろうか。
「おそらく、宗教がベースにあるのでしょう。キリスト教では仕事自体が『苦役』なので、苦役は効率よく短時間で済ませ、それ以外の時間を楽しむという考えなのだと思います。感じるのは、誰もが楽しそうに生きているということ。バカンス前日は浮き足立って大変ですが(笑い)、誰もが快く送り出します。オフの大切さを理解しているのです。
日本だと『みんな仕事をしているのに休むなんて申し訳ありません』と罪悪感を持ちながら休む人もいて、100%リフレッシュしたという感じにはなりにくい。もちろん長短はありますが、日本でも、欧州のように考える環境ができてくると、もっと人生が楽しくなりそうですよね」
私たちは、まずはそれぞれの生活スタイルに合った「休養モデル」の実践から取り組んでみようではないか。
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
片野秀樹さん/日本リカバリー協会代表理事、理化学研究所客員研究員。「攻めの休養」の重要性について啓発・教育活動を実践。編著に『休養学基礎 疲労を防ぐ!健康指導に活かす』(メディカ出版)がある。
取材・文/佐藤有栄
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