心理学の知識の有無などとはまったく無関係に、デザインすることは可能である。そして多分、世の中に出回っているデザインのほとんどは、デザイナーの感性にもっぱら頼って制作されたものではないかと思う。それが問題となるのは、一つには、デザインが、受け手であるユーザの心理行動特性とのずれが発生してしまう場合である。
第8章「視覚障害とデザイン」が端的な例になる。視覚障害者の心理行動特性についての知識なくしての最適デザインはありえない。本書全体にわたって、こうした視点が貫かれている。
デザイナーの感性に依存した制作でもう一つ問題が発生するのは、芸術的な完成度の高さへ要求である。本来は、デザインにおけるユーアビリティ(ユーザビリティ?)と芸術性とは、車の両輪のようなものであるべきだが、ときおり、芸術性が優先されてしまうようなことが起こる。絵画や映像などの芸術性なら何も問題はないのだが、デザイン、とりわけ生活と密着したところでのデザインでは、芸術性優先は、使い勝手や安全の点で、問題を引き起こしがちである。