さらに、こんな引用はどうでしょうか。
「―――画家たちが仕事に没頭しきっていることでした。文字通り、周りのすべてを忘れているように見えました。---略---絵筆を握っている手は疲れを知らないように思えました。いくら長い時間仕事を続けようと、彼らは少しも気にかけていませんでした。(チクセントミハイ)(サイヴァートら著「幸せ時間ですべてうまくいく!」飛鳥新社より)
●熱中するとは、
天才の熱中体験から話を始めてしまったので、そんな熱中、自分とは無関係と思われてしまったかもしれません。
実は、最後に引用したチクセントミハイ(心理学者)の言っていることは、熱中よりもさらに高度な状態であるフロー(flow)体験なのです。これは、いわば、天才たちの体験の話なのです。
天才ですから、その結果として、社会的に価値のある発明・発見をすることにつながっています。そして、神がかり的な心の世界(至高体験)にまで浸りこみます。
凡人である自分にはどうも、そこまでは無理、という感想は、当然です。
しかし、フロー体験まではいかないまでも、それに類似した、それよりちょぴりかわいい(笑)熱中体験は、誰にもそれなりにあるはずです。
熱中体験かどうかを知る目安の一つは、時間を忘れてしまうほど、何かをしたかどうかです。
これならいくらでもありますね。
・ゲームをしていて、つい夜更かし
・友達とだべっていて、門限が過ぎてしまった
・難しい問題を考え抜いていたら夜が明けた
・電車で小説を読んでいって、乗り過ごしてしまった
さらに、熱中体験かどうかを知るもう一つの目安は、ほかにやらなければならないことをすっぽかしてしまう(忘我)ほど、何かをしたかどうかです。
上の4つの場面に合わせるなら、
・ゲームをしていて、宿題を忘れた
・友達とだべっていて、約束の時間に電話するのを忘れた
・難しい問題を解いていたら、約束を忘れてしまった
・電車で小説をよんでいたら、棚の上に乗せておいたカバンを盗まれた
どうでしょうか。これに類した体験ならいくらでもありますね。
熱中とは、このように、時間を忘れ、他の事を忘れてしまうくらいに一つのことだけにかかわってしまうような状態です。
至高 フロー 使命感
忘我 熱中 個人的嗜好
挑戦心
注意集中
個人
図 注意集中から熱中、フローまで
● 良い熱中に誘うもの
熱中には、悪い熱中もあります。
ビデオゲーム中毒、携帯電話中毒がその典型です。
悪い熱中の多くは、外側に、熱中させる仕掛けがあります。たとえば、
・大音響やけばけばしい色彩
・頻繁な場面転換
・魅力的な登場人物
・奇想天外なトリック
・感情を揺さぶるシーン
・ただちに反応することを要求
こうした仕掛けを見せられれば、誰もが熱中してしまいます。
こうした熱中は、いわば、みずからする熱中ではなく、外から強いられる熱中です。いわば、受動的熱中ですね。
こういう熱中、すべてがただちに悪い熱中というわけではありません。
・日常のつらさを忘れたい
・ストレスを発散したい
・気持ちを高めたい
といったときには、実に有効です。だからこそ、これほど人々を引き付けることにもなります。
しかし、こうした受動的熱中が、四六時中続いたらどうでしょうか。
・頭をだめにしますし、気持ちを貧弱にします
・心身の健康を害することにもなります
IT社会は、こうした悪い熱中への誘惑に満ち満ちています。テクノストレスという言葉がかつてよく使われたことがあります。
十分に気をつけてください。
●良い熱中に誘うもの
これに対して、良い集中は頭を元気にします。
良い熱中にいざなう決め手になるのは、個人的嗜好と使命感と挑戦心です。
熱中するためには、熱中するものが、あなたにとってそうしたいもの、さらに好きなものであること、そこまでいかないまでも、ポジティブな感情を持ちながらできることです。これを個人的嗜好と言っておきます。
命じられた仕事をいやいやするなら30分も集中すると飽きてしまいます。熱中にはほど遠い状態がすぐにやってきます。
でも、あなたがそうしたい、あるいは、好きで好きでしょうがない、楽しくてたのしくてしょうがない気持ちで取組める仕事ならどうでしょうか。あっという間に1時間、一日がたってしまいます。
2つ目は仕事に使命感をもって取り組めることです。
使命感というとややおおげさになりますが、こういうことです。
どんな仕事にも、それなりの意味、意義があります。
大きくは、社会全体、会社全体、組織の中でのその仕事の位置づけ、小さいところでは、自分にとってのその仕事をすることの意義などなど、要するに、その仕事をとりまくもろもろを考えてみることです。
・ どうして自分はその仕事をしているのか
・ なぜ、その仕事は存在するのか
・ 仕事を自分がしないとなどういうことになるのか
などなど。
その中に自分で心の底から納得できるものがあれば、それが使命感になります。
余談になりますが、何とかオタクと呼ばれる人がいますね。
彼らもある特定のことに熱中していますが、そこには、ここでいう、使命感が希薄です。「井の中の蛙、大海を知らず」です。
向かうところが、まったく個人的な興味・関心に限定されています。その点で、彼らの熱中を、ここで良い熱中として推奨するのには、やや躊躇してしまうところがあります。悪い熱中ではないことも確かですが。
だからこその使命感なのです。使命感は、仕事に熱中させる「神の力」です。
これがあれば、たとえ、周囲に多少の抵抗があっても平気。自分の思うがままに目標に向かって仕事に熱中できます。
熱中に導くもう一つは、挑戦心です。
なんとしてもやり遂げる気持ちです。
当然、いついつまでにどこまでというはっきりとした目標が必要です。
さらに、ここが大事なのですが、自分の力でできるという強い確信も必要です。自分の力に自信のない人、あるいは、自分の力を見極めることのできない人には、挑戦は無縁です。あるいは、無謀ということになります。
あなたがそうしたいもの、そうする必然性があるもの、そして、頑張ればできそうな仕事。
それがあれば黙っていても熱中できます。
それは、必ずしも、会社の仕事である必要はありません。
地域のボランティ活動でもよいのです。
一つでも2つでも、そんな熱中できるものを持っていれば、元気人生を歩めます。