お盆が近づいてきました
お盆で、御詠歌をあげるという経験は、読者の皆さまのほとんどがなされていることと思います。
今回は御詠歌の歌詞についてです。ここでは、西国三十三箇所御詠歌を扱うことにします。
何気なく歌っている御詠歌。五七五七七の三十一文字に魂を込める工夫を見て生きたいと思います。
やっと着いた系
●深山路(みやまじ)や 檜原(ひばら)松原 わけゆけば 槇尾寺(まきのおでら)に 駒ぞいさめる
(4番 槇尾寺)
深山路の檜、松の原を書き分けて、やっと槇の尾にたどり着くといったように、寺の名前と対語となる語を使っています。
●野をもすぎ 里をもゆきて 中山の 寺へ参るは 後(のち)の世のため
(28番 中山寺)
これも、野、里と中山と、寺の名前と対語になる歌になっています。
逆説系
●後の世を 願うこころは かろくとも ほとけの誓い おもき石山
(13番 石山寺)
人々の来世のことを思う信仰心は軽くても、そのような人々をも救おうとする仏さまの誓いは石(山)のように重いと、寺の名前をかけつつ、逆説表現を用いています。
●いくたびも 参る心は はつせ寺 山もちかいも 深き谷川
(8番 長谷寺)
何回も参っているけど、心は「初」せ=長谷寺と、寺の名前をかけつつ、逆説表現を用いています。
月を見る系
●夜もすがら 月を三室戸 わけゆけば 宇治の川瀬に 立つは白波
(10番 三室戸寺)
月を「見む(意思)」と三室戸をかけています。
●いで入るや 波間の月を 三井寺の 鐘のひびきに あくるみずうみ
(13番 三井寺)
波間に入る(いる)月を見入(みい)ると、三井寺をかけています。波間とみずうみは琵琶湖のことです。
三井寺の鐘は近江八系に入れられるなど美しい音色で知られています。
六系
●重くとも 五つの罪は よもあらじ 六波羅堂へ 参る身なれば
(17番 六波羅蜜寺)
五つの罪は消えるということと、六波羅の六をかけています。六波羅蜜寺はあの世との入り口の井戸があると言われています。
●わが思う 心のうちは六(む)つの角(かど) ただ円(まろ)かれと 祈るなりけり
(18番 六角堂)
円と六角を対比させています。ちなみに、もともとは六角堂で、祇園祭の山鉾の籤取り式を行われていたそうです。
京都市六角堂 分かりにくいですが、上から見ると六角形です。
法(のり)系
●重くとも 罪には法(のり)の 勝尾寺 ほとけを頼む 身こそ安けれ
(23番 勝尾寺)
重い罪を犯しても、仏法はそれに勝つので、仏に全てをゆだねれば安らかだと言ってくれています。
●春は花 夏は橘 秋は菊 いつも妙(たへ)なる 法(のり)の華山
(26番 一乗寺)
一乗寺の山号(普通日本のお寺は、寺の名前の前に○○山とつきます。)は法華山、つまり法(のり)の華山です。また、妙は、妙法の妙。山号の元となった「法華経」は「『妙』法蓮華経」のこと。鎌倉時代の「元享釈書」によると「法華山、其山八朶、故為号也」と書かれています。八朶(はちだ)とは芙蓉八朶(ふようはちだ)の略称で、八葉の蓮華のことです。つまり、上から見ると、蓮華の形になっているからついた名前だそうです。
技有り 思ってほしくない2つのこと
●かかる世に 生まれあう身の あな憂(う)やと 思わで頼め 十声(とこえ)一声
(21番 穴太・あのう、あなお)
「あな憂」や(ああ憂鬱だ)と、「穴太」とかけているだけではありません。実は、穴太という地名は、寺のある京都府亀岡市だけではなく、滋賀県大津市にも石積み細工で有名な集落が比叡山麓にあります。ということは、「あう身」と「近江」もかかっています。
つまり「思わで頼(思ってほしくない)」むのは、「(生まれ)あう身のあな憂」と、「(亀岡の穴太寺ではなく)近江の穴太)」となります。
まとめ
短い言葉で、魂を込めるには、ための工夫がたくさん見られました。
一つの言葉で二つを意味してみたり、複数の言葉をつかって一つの言葉の意味を強めたりすることで、味わい深い歌が生まれてきたのではないでしょうか。
編集後記
大幅に遅れての7月号に続いて即の突貫工事発行です。
まだ、紹介しきれていないので、随時記事を増やそうと思います。
今回は、御詠歌の「技」にオンブにダッコ状態でした。
前回の編集後記でも述べましたが、祭も「技」なくしては存続しえません。
それは、屋台を作る職人だけではなく、我々運営者にも「技」は必要です。
この「技」で祭が成り立っていることに気づくことができなければ、その祭は衰退を免れません。
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