goo blog サービス終了のお知らせ 

事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「十二国記」シリーズ 小野不由美著

2007-10-10 | 本と雑誌

Photo  世に少女小説、というものがあることは勿論承知していた。そのほとんどがファンタジーか恋愛もの、そして派生した少年愛ものだとも。ちょっと偏見入っているけど。当然中年男には縁の無いジャンルだし、少なくとも挿絵がアニメ系な小説を読むことは一生あるまいとも思っていた。

 ところが数年前、購読している「本の雑誌」で、発行人である(もう隠居しましたが)目黒孝二が、とんでもない小説を見つけた、と小野不由美という馴染みの無い作家の「図南(となん)の翼」を誌上で激賞していた。これがいわゆる少女小説、講談社X文庫ホワイトハートから出ていたのである。ホ、ホワイトハート……白い心っすか?おまけにXって何?

 うーんどうすっかなぁ。紹介からすると私好みのような気もするが、あの棚に近づくのは勇気いるよなあ。女子中高生がルーズソックス(当時)をズルズルいわせて立ち読みしているコロンの芳香ただようエリアに、タバコ臭い中年が入っていってもいいかしら。

 蛮勇を奮い、「図南の翼」が第5作だという十二国記シリーズの一作目「月の影 影の海(上)」を手にする。関係ないジャンルの本と一緒にレジへ持っていく。エロ本を買うときとテクが一緒なのが情けない。

Tuki  アニメ画的な表紙におそれをなし、しばらく放っておいたのだが、確か妻の買い物を車で待っている時に読み出してたまげた。
 めちゃめちゃに面白いのである。一度読み出したらやめられないのだ。

 続きを早く読みたいと思っても、さすがにX文庫をどっと抱えてレジに持っていくのは恥ずかしいし、全シリーズそろっている保証も無い……あ、そうか。あのテがあったか!

「 みずほ八文字屋 佐藤○○様      △△中学校 堀 浩
 注文お願いします。講談社X文庫ホワイトハート(笑わないで下さい)
 小野不由美著
 「月の影 影の海(下)」←上巻は買いました
 「風の海 迷宮の岸
 「東の海神 西の滄海
 「風の万里 黎明の空(上・下)」
 「図南の翼」
 を至急お願いします。一作目を読んだら面白くてたまらん。苦しいよー 」

 こうして書店にFAXしてしまえばよかったのだ。見苦しい文面だが。
学校に勤務していて何が嬉しいといって、週に1回は必ず書店員が外販に来てくれることだ。おかげで西原理恵子のサイン入りテレカを貰えたりしたのは部報に書いたとおり。先週は西原のシールブックも貰えたし、日販速報なる、取次が書店むけに出している雑誌(新刊情報やベストセラーリストが載っている)も毎週わけてもらっている。学校事務職員になって本当によかったなあ。

そしてめでたく全巻そろい、それこそ一気読み。耽溺、とはこれだろう。至福のひとときを過ごすことができたのだった。いやしかしいる所にはいるものだ、すごい才能が。○○中の図書館にも早速入れてもらいました。こういうわがままも学校事務職員ならではだな。

この世界には暗いので、十二国記の世界が少女向けファンタジーの中でどのような位置を占めているのかはわからない。王道なのかもしれず、異端きわまりないのかもしれない。

 ストーリーはこうだ。一応各巻独立した読み物なのだが、世界観は共通している。現実とは虚海と呼ばれる海によって切り離された異界に、雁・慶・範……等と呼ばれる十二の国があり、それぞれが王をかついでいる。この世界は、麒麟、という半獣半人の存在が王を選び、その国の行く末を左右する。しかし王となるには妖魔の跋扈する黄海を超え、蓬山という天に近い山に昇らなければならない……

Tasogarenokishithumb  中国古代史を自由自在にひねった上に、蓬莱、と呼ばれる我々の現実世界と微妙に接点をもたせ、5年ぶり(!)の新作「黄昏の岸 暁の天(そら)」ではアンチPKOの概念まで導入して見せた。予想よりも主人公の少女たちの自意識過剰ぶりはほとんど感じられず、むしろ襲いくる災厄に冷静に立ち向かう姿勢は西洋の冒険小説に近い。結果としてこのシリーズ、X文庫から講談社文庫本体にムーブオーバーし、新作はそちらが先行して刊行されることになった。いかに少女たち以外の読者が多かったかの証左であろう。耽溺した中年の同胞は数多かったとみえる。よかったあ。ひょっとしたら司馬遼太郎あたりと平気で読者層はかぶっていたのかも。

このシリーズ以外にも小野は、「悪魔の棲む家」(X文庫)、十二国記と同世界観をもつ「魔性の子」(新潮文庫)、初の大人向け「東亰(とうけい)異聞」(同)、そして吸血鬼伝説を現代日本に見事に花開かせた「屍鬼」(新潮社)、横溝正史的土着本格(なんだそれ)「黒祗の島」(祥伝社)と傑作を連発している。

確かに読者を選ぶ作家かもしれない。最初にノレないとかなりきついとは思う。漢字も極端に多いし。組合で知り合った酒田○○高の司書のお姉さんは、「『屍鬼』は上巻を借りても下巻まで進む生徒が少なくて(笑)」と言っていたぐらいだ。

でも、少女小説で培われたそのリーダビリティは、少女向け、という枷を取り払った今、はるかに自由な題材を取り上げてもなお健在だし、少なくとも亭主の綾辻行人(霧越邸殺人事件)よりは小説としての完成度は高い。「図南の翼」から5年も待つような事態はこれっきりに、どんどん十二国記シリーズも書き進めてほしい。え?新作の短編集は今年(当時)の7月にもう出る?困ったな、ファイナルファンタジーの新作もその頃なんだが……体調だけは、今から整えておくか。少なくとも7月までは生きてゆく目標ができたってもんだし、それまで第一作から読み直しておけばいいやな。

あ、十二国記は同僚の息子(高2)に全部くれてやってしまっていたんだった。しまったなあ……まあいいか、講談社文庫版を買い直しておこう。それだけの価値は絶対にあるもんな。ああ夏が待ち遠しい…って少女じゃねーぞ俺は。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「おかしな男 渥美清」小林... | トップ | 「ルー=ガルー 忌避すべき... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
十二国記はもっしぇけ!説明は(^^)/▽☆▽\(^^)のと... (Nightcat)
2007-10-13 01:59:11
十二国記はもっしぇけ!説明は(^^)/▽☆▽\(^^)のときききます。いつのことやら(^ .^)y-~~~
返信する
何はともあれ読めるようになったんだからよかった... (hori hiroshi)
2007-10-13 09:59:27
何はともあれ読めるようになったんだからよかったよかった。
返信する

コメントを投稿

本と雑誌」カテゴリの最新記事