その6「東京ブラックアウト」はこちら。
久しぶりにお仕事小説を。題材は家庭裁判所調査官。わたしは寡聞にして知らなかった……って伊坂幸太郎の「チルドレン」の陣内がそうでした。あの減らず口な男をこの職業のパブリックイメージにすると彼らもしんどいでしょう(笑)。
家庭裁判所において、少年保護事件や離婚などの状況を調査する仕事……あまりにもざっくりした説明だけれども、主人公がこの職業を選択したのは
「近所に住んでいた家裁調査官のおばさんがいい感じだった」
というシンプルなもの。でもそんなものだよねたいがい。ただしこの職業は、心理学系・法学系・社会学系の三系統から選抜されてくるあたりが特色だろうか。派閥とかあるのかな。お互いが補完し合っていると考えればいいんだろうか。
未成年や離婚を扱うことから、どちらが正義かを簡単に判断することができないためにこの職業はあるのだろう。だからこそこの職を選んだ主人公は
「自分はこの仕事に向いていないのではないか」
と最後まで迷っている。でもそんなものだよねたいがい。
経験が必要な職業なので、二年間は家裁調査官補、通称カンポとして過ごすことになり、だから主人公はカンポちゃんと呼ばれる。このあたり、新野剛志が空港勤務の旅行会社職員を描いた「あぽやん」に似ていて笑えます。
連作の体裁をとっているものだから、ほんのわずかな調査で意外な真相に“行き着いてしまう”あたりが少ししんどい。掲載誌の都合で仕方なかったのかなとは思うけれど、長篇に多くの事案をつめこむ方が説得力はあったと思います。
にしても、肌合いは佐方検察官シリーズに近く、この調子で柚月裕子には真保裕一につづいて小役人シリーズを引き受けてほしいものだ。
その8「ツアコン」篇につづく。
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