前号で「男はつらいよ」の基本線が
【人間関係をうまく構築できない兄寅次郎と、日本が生んだ妹の最高傑作さくらの長大なラブストーリー】
だと主張したけれども、実は例外もある。わたしが学生時代に劇場で見た「寅次郎ハイビスカスの花」のなかで、寅次郎はリリー(浅丘ルリ子)に
「いっしょになるか」
と言っているし、この最新作でも彼女とだけは違った関係を保ったことが説明されている。彼女だけ特別だったのは、寅次郎とリリーが同じ種類の人間だったからにほかならず、だからこそ、老いた浅丘ルリ子の登場は必然だったし、すばらしいことだった。
歴代のマドンナたちがほぼノンクレジットで登場するが、わかいころの意外にお化粧が薄かった浅丘ルリ子の美しさは突出していた。あ、それからもうひとり、わたしがこのシリーズのベストだと思っている「寅次郎夕焼け小焼け」に登場した芸者ぼたん、太地喜和子のキュートさも。
後藤久美子の演技に批判もあるようだけれども、マドンナたち、倍賞千恵子に負けない、圧倒的な美女が必要だったわけだから、山田洋次が必死でリクエストしたのも理解できる。怖いくらいに綺麗になってましたね。
このシリーズの特徴は、当時からすでに消え失せていた古い日本を、さも現存するかのように描いたことだ。
おととし、帝釈天を訪れていることで、ここは一種のどこにもない場所(ユートピア)だと感じ入った。柴又駅前が何度も登場するけれども、まさか寅さんとさくらの像を映すわけにはいかなかったんだと可笑しい。
「分別」「フーテン」などの死語や、妻を亡くした父親をかいがいしく世話する女子高生など、ありえない存在だからこそ高齢者たちはうらやみ、そして安心する。実はね、わたしも悔しいけど何度も涙を流してしまったのでした。
お若い方々もぜひ映画館へ。わたしの若いころは、お盆と正月に、松竹の封切館で寅さんを見ることは日本人の常識だったんですよ。ああ言いたいことがもっといっぱいある。以下次号。
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