末井昭のことは、彼の作品のどれと最初に出会ったかによってだいぶ印象が違うと思う。
・白夜書房において「ウィークエンド・スーパー」や「写真時代」で過激な編集方針を貫き、荒木経惟という天才を世に送り出した名編集者。
・パチンコ雑誌という誰にも思いつかなかった存在でその白夜書房を大もうけさせた経営者。
・ギャンブルや先物取引にのめりこみ、膨大な借金を抱えた女装癖のある性格破綻者。
・坪内祐三の前妻とダブル不倫の末に結婚したドラマチックな男。
西原理恵子のマンガに登場する能天気なキャラからは想像もつかないほど多面的で重層的かつ危ない人物なのがおわかりいただけるかと。
わたしが初めて彼を意識したのは、80年代に角川文庫から出たエッセイ「素敵なダイナマイトスキャンダル」によってだ。このタイトルは、彼の母親が、隣家の若者とダイナマイトで心中したことによる。
わたしは観ていないけれども先年に映画化されたときは母親を尾野真千子が演じたという。そんな強烈なトラウマをかかえながら、しかし彼の文章は一貫してユーモアにあふれていた。母親の件を業界の先輩に告白したら
「ふーん、きみはそれが“売り”なんだね」
と返されたなど、冷静な書でもありました。今はちくま文庫から出ているみたい。ぜひ読んでみて。
さて、そんな末井は近ごろ自殺について考察していて、3年程前に出した「自殺」によって講談社エッセイ賞を受賞している。つづいて出たのがこの「自殺会議」だ。
これも名著でしょうや。子を失った映画監督、統合失調症の相方とコンビを組む漫才師(松本ハウス)、母親が自殺した筋ジストロフィー症の画家などとの対話がまとめられていて、とにかくすばらしい。
わたしも自殺遺族(こんな言葉があるなんて知らなかった)ではあるけれど、そうでない人でも、自殺してしまった人、かろうじて踏みとどまっている人たちのことが、読み終えると少なからず好きになれるのではないだろうか。
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