本日は芸森→近美の2か所。札幌もいまだ少雪とは言え、そこそこ積もって見えるようになった。
■札幌芸術の森美術館「みんなのミュシャ」。
ミュシャ「ミュシャ自画像、ミュンヘンのアトリエにて」:伝統的な近代西洋画。
ミュシャ「新聞売りの少年のスケッチ」:少年が振り上げた手と足の所に大きく円が描かれ、動きを表しているらしい。アニメ的であるようにも思うが、「ウィトルウィウス的人体図」を思い起こさせる。
ミュシャ「自分の腕に頭を乗せて寄りかかる少女の習作」:アニメ原画の習作といっても違和感がない。
ミュシャ「ゲーテとシラー:『ドイツの歴史の諸場面とエピソード』の挿絵の習作」:上手い。安定の職人挿絵家という感じで、仕事をしてもらいたくなる。
ミュシャ「サロメ:『レスタンプ・モデルヌ』誌」:古典的な画風とサロメのちょいエロな感じが上手い。
ミュシャ「ジスモンダ」:等身大よりちょっと小さいのか。サラ・ベルナールの下に邪鬼のような男が配置されているのが面白い。
ミュシャ「「遠国の姫君」に扮するサラ・ベルナール:「ルフェーヴル=ユティル」ビスケット社のため」:これはサラも喜んだだろう、お姫様ティックなポスター。背景をぼかして人物を引き立てている。
ミュシャ「ベネディクティン」:リキュールのポスターなのだが、これがバーに貼ってあったら、とりあえず飲むよね。
ミュシャ「『鏡によって無限に変化する装飾モティーフ』図6」:実に多様なデザインパターンを集めたもの。
ミュシャ「三つの季節:春、夏、冬」:なぜ「秋」が無いのか不思議に思った。まさか「秋無い=商い」の洒落ではあるまい(←日本じゃない)。
ミュシャ「チェコの音楽界のパンテオン:ポスター/カレンダー」:さまざまな人物が立体的に配置される「群像方式」もミュシャが嚆矢なのか?
ミュシャ「闘志(ヤン・ジシュカ):市長ホールのペンダンティブ画のための大型習作」:等身大以上に人物を描き、象徴主義の香りもする。スラブ叙事詩の気配を感じるな。
1963年にロンドンでミュシャの回顧展が開催され、再発見されたミュシャブームが到来する。そして当時の様々なカルチャーでミュシャ的な表現が見られるようになるのだ。
ロジャー・ディーン「イエスソングス」:ディーンはもう直系の弟子と言っても良いくらいだよね。
ハプシャシュ&ザ・カラード・コート「ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス・コンサート」:このポスターはミュシャの人物像よりも幾何学的モチーフが取り込まれている。
トム・ウィルクス「フラワーズ」:私の感覚では、ストーンズとミュシャは結び付かないなあ。
この他ロック関係では、キング・クリムゾン、ホークウインド、グレイトフル・デッド、シン・リジィ、ピンク・フロイド、ドアーズ、キャンド・ヒート、ジェファーソン・エアプレインなどのレコードジャケット、ポスターが展示されていた。
アレー・ガルザ『デジャー・ソリス&火星の白い猿』:SF界からはデジャー・ソリスが登場。なるほど、イメージがあるね。
この後、1900年代初頭の日本の文芸誌、1970年以降の少女マンガへとつながるのだが、残念ながらあまり詳しくないため書くことが無い。今回、ミュシャの作品で「これは!」というものは少なかったが、彼の確かな技術とプロの仕事、それに対するロマンティックな雰囲気が見て取れ、人気があるのが頷ける。単純に人気というより、プロがあこがれる画家という感じだな。
■北海道立近代美術館「北海道151年のヴンダーカンマー」。これはすごい!
田本研造「五稜郭伐氷図」:ボストンから氷を輸入していたのが、その代わりに函館で作られるようになったことを記録する写真。
歌川広重三代「大日本物産図絵 北海道函館氷輸出之図」:そしてそれが浮世絵にも残っている。
武林盛一「札幌麦酒醸造所開業式」:いまもサッポロビール園に残る(作り直しているのかもしれないが)、樽に字を書いたものが写っている。
歌川広重三代「現如上人北海道開拓錦絵」:「ゼニバコ紅魚の奇異」などと説明があり、アカエイが描かれている。
室蘭・小林「白老駅でのアイヌ(旧北炭所蔵写真)」:線路を中心に輪をくまされ、儀式を行うアイヌの人々。強要の香りがする。
「小樽高嶋鰊漁の図」:作者名が残っていないが、魚の一つ一つまで細かく描いたなかなかの作品。
蝦夷試製「アイヌ熊祭煎茶器セット」:小ぶりのちゃんとした器だ。九谷焼との関連性があるらしいが、謎が多く、100点以下しか現在残っていないらしい。
伝・高橋由一「鮭」:北大植物園・博物館蔵だそうだ。「鮭」を3点ともみている私だが、うーん、どうだろう。由一作であることを否定できないが、ちょっと表現が違うように思えるところもある(←ど素人なので良く分かってない)。
吉田初三郎「北海道鳥瞰図」:北海道博物館所蔵作品で、博物館の2階入口でパネル展示されているものか。
松島正幸「小樽港の築港」:こんなに大きな作品がなぜ知られていないのか?
亀井鑑太郎「日本重要水産動物図」:魚が右向き左向きと混在しているのは不思議だ。1枚の図にあざらし、鯨、ウミガメ、リクガメが混在しているものもあり、この辺も拘りはなかったのか。
続いて北海道の科学にまつわる展示があり、北大博物館の収蔵品も展示されている。昔の機械で、ミクロトーム、ゴニオメーター、AEROTOPOGRAPHなど、何だか分からないようなものが展示されている。また、「皮膚病変の立体模型(ムラージュ)」も北大博物館外で展示されるのは、珍しいだろう。
そんな中に現代作家である小宮伸二の作品が展示されており、何が本当か嘘か分からなくなりそうなところが面白い。
この後、炭鉱の歴史コーナーでは石炭で作られた熊の置物(木彫りの例の奴にそっくり)、鉄道コーナーでは駅名版「幌内」「三笠」「幾春別」、行先表示板「三笠-幌内」「札幌行」などが展示されている。また「札幌鉄道局管内路線図」(1927)を見ると、富良野駅はないし(当時は上富良野の次は下富良野だった模様)、手稲が無くて「軽川」駅があるし、千歳線は無いし、うーん、違うもんだなあ。
最後はオリンピックコーナーで、ニッカの「HiHi NIKKA」(マグナムボトル)、「SUNTORY GOLD」(マグナムボトル)など珍しい展示があった。
ここまで北海道の見たこともない展示で、北海道人ならば胸が熱くなること必至なのだが、北海道の負の歴史は一部を除いてスルーされているように思えた。しかし、最後にそれを考えさせるような展示があった。
row&row(張小船&小林耕二郎)「さようなら、オリンピック」:氷の上を花の形をしたマグネットのようなものがくるくる回転するフィギュアスケートに見立てた映像や、丸い口のゴミ箱で五輪マークを作る展示である。花はハマナス(固有種)、オオハンゴンソウ(帰化植物)、レブンアツモリソウ(絶滅危惧種)、ラベンダー(交雑種)があることが表示され、花と言っても一筋縄では行かないことが分かる。
「ハマナス and オオハンゴンソウ 万国食べよう」:そうは言っても単純に帰化植物は禁止で済むものではない。この映像作品では、食卓に上る食材の伝来ルートが表示され、世界のありとあらゆるところから食用植物がやってきたことが再認識させられる。そしてハマナスとオオハンゴンソウが人間の形を取って鍋料理を食べるのだが、ある時は食が進まず、ある時はオオハンゴンソウが鍋の中身を自分だけで食べようとする。またその次のシーンではオオハンゴンソウがハマナスの皿に料理を持ってやり、色々な関係性がありうることを示しているようだ。
最後に少し考えさせられることになったが、アイヌ人との関係、開拓の悲惨さ、炭鉱災害・政策による廃坑、鉄道もどんどん失われていく北海道。展示がすごい、素晴らしいだけでは済まないものがあると思った。
それはそうとして、少なくとも北海道出身の人は必見! だと思う。
今日は大物展覧会2つで疲れた。そろそろ帰りますか(珍しく本屋に行くのを忘れた)。