今回は出張が金曜日だったので、自費で宿泊し土曜日に美術館を巡ろうと思っていた。しかし、芸術の秋直前というか、それほど猛烈に見たい展覧会がない。
根津美術館「コレクション展 曼荼羅展」→興味あったが、途中で失速し挫折
国立信美術館「アメリカンポップアート展」→それほど興味がなあ…
東京都美術館「ルーヴル美術館展」→彫刻が多いみたいだし…
東京国立博物館「和様の書」→国宝多数出品だが、「書」に興味が薄いんだよね。混雑しそうだし。
三菱一号館美術館「浮世絵 珠玉の斎藤コレクション」→目が痛くなりそう
と、どうにも淡白な気持ちなのである。
結局、行ったのはまず、東京都美術館「福田美蘭展」。これは実に面白い展覧会だった。パネルにアクリル絵の具で描いた作品が多かったので、最初はパネルによる写真展示なのかと思ってがっかりしたが、段々作品に引き込まれる。
「湖畔」:作品の左下は黒田清輝の「湖畔」のコピー。そこから右上に風景を想像してつなげて描いた作品。
「水墨山水」:眠る白雪姫と泣く小人たち。解説には「富士山が再生のイメージ」とあったが、何となく釈迦涅槃図にも見える。
「落書き(渋谷駅南口)」:掛軸に下の方には都市の風景。中空に街角によくある記号のようなスプレー文字を真似たものが描かれている。
「鑑賞石・山水画」:手前の台に10cmほどの岩。山水画はそれを岩山のように拡大して描いたもの。前立ちの仏像か。
「象牙(スプーン)」:ファストフードショップの紙カップと共に、例のちゃちなスプーンをわざわざ象牙で作成。
「安井曾太郎と孫」:「大原美術館展」で札幌にも来たもの。作品そっくりの不細工(失礼)な孫がすごい。
「扇面流図」:屏風に扇子を描くように、コマーシャル入りの現代の団扇を描いた作品。
「ポケットティシュー」:誰にでも手に取りやすいようにポケットティシューに絵画作品を印刷したもの。それが「王女マルガリータ」の別の角度から描いたバージョンなのだから、分かりやすいのか分かりにくいのか。
「メトロカード」:地下鉄乗車用のカードにサリン事件の報道写真を載せたもの。これも考え込んでしまうね。
「道頓堀」:上下に折りたためるパネルに道頓堀のネオンサインを描き、半折にしてネオンの絵具を下に写し、水面の風景に見立てたもの。
「ブッシュ大統領に話しかけるキリスト」:2001年あたりのブッシュ大統領を理性的にするには、キリストに頼むしかないという作品。
「噴火後の富士」:日本人の心のよりどころ(私はそうでもないが)、富士山の爆発後の姿をあえて描いた作品。手前には浮世絵調にぐっと桜が割りこんできている。
「絵画の洗浄」:ルーベンスの三美神の絵画を洗浄して見たら、下からディズニーの「不思議の国のアリス」が出てきてしまったという、笑える作品。
「聖家族」:キリストが双子だったという作品。マリアはもちろん微笑んでいるが、天使は困惑気味だ。キリスト教国ではちょっと描きづらい作品だろうと思う。
「ポーズの途中に休憩するモデル」:何たることか、モナリザが椅子に横になってダラッと休憩。
「床に置く絵」:あえて上を歩いて見て頂戴という作品。特に日本人には心理的抵抗感があるのではないか(土足への禁忌が強い)。
「リンゴとオレンジ」:セザンヌの有名な絵画を美術学校の通信教育風に添削したという体の作品。「不安定なモチーフです」「リンゴかオレンジか分かりません」等の突っ込みが入り、「総評:視点がバラバラです、評価B+」(そりゃそうだ)という、実に笑える評が書いてある。
「レンブラント-パレットを持つ自画像」:レンブラントの自画像に描かれている謎の円は、その上にいる巨大なドラえもんの手だったというバカバカしい作品。レンブラントタッチがまたおかしい。
「秋-悲母観音」:東日本大震災をテーマに四季を描いた4連作の内、私が一番気に入った作品。悲母観音が子供を優しく抱いている所にホッとするが、足下では家や船がなすすべなく流されている。観音よ、何とかしてやれよ!
ほとんどの作品に作成意図などを書いた小さなパネルがついていて、普段そういうものをさらっとしか読まない私もしっかり読みこんでしまった。惜しいのは作品に込められたテーマが気になりすぎててしまうことだが、実は相当絵の上手い人だし、楽しめる展覧会であった。
だって、「ルーブル美術館展」は大混雑だし(下写真)。「福田美蘭展」は観覧者が10人いなかったもんね。
→こちらも後で行列は解消していた。
ところで東京都美術館は改装後、初めての訪問となった。かなり古びた施設だったが、フロアを行き来するエスカレータはホテルのような雰囲気に改装。
かなりダメだったトイレも最新式にすっかり綺麗になっていた。時間がなかったが、1階の美術資料コーナーもなかなか良さそう。それから、地下の展覧会場へのエスカレータも途中曲線部がある、面白い形になっていた。
続いては、つい足を運んでしまう東京国立博物館の常設展。迷ったものの「特集陳列 運慶・快慶周辺とその後の彫刻」というのをやっていたのでは、見るしかあるまい。
こちらも別項で東京国立博物館美術品選の記事をアップしたいが、とりあえずここでは見た国宝を自分のためにあげておこう。
「法華経巻第六(色紙)」:ものすごく端正な文字。
「月輪牡丹蒔絵経箱」:西大寺所有の黒っぽい渋い経箱。
「宝相華螺鈿平塵燈台」:岩手大長壽院蔵。
「和歌体十種、和歌体十種断簡」
「金銅製沓」
「十六羅漢像(第二尊者)」
「太刀 福岡一文字助真」
「黒漆打刀」
「浄瑠璃寺 広目天立像」
「片輪車螺鈿手箱」
「太刀 綾小路定利」
「刀 相州正宗」
いやあ、もう、段々どうでも良くなってくるくらい、見るものが沢山ある。ここで美術鑑賞は一旦終了。