「真に恐るべきは、目に見える敵国・外患ではない。国難を国難として気づかず、漫然と太平楽を歌っている国民的神経衰弱こそ、もっとも恐るべき国難である」。後藤新平の『国難来』の一節である。大正11年9月1日に関東大震災が起きているが、その半年後の大正12年3月5日に後藤が東北帝国大学で講演したものを、翌月私家版の小冊子として世に出した。この小冊子の現代語訳が鈴木一策編解説として一昨年8月に出版されており、誰でも読むことができる▼関東大震災について後藤は「この大国難を通して厳粛な天の啓示だと受け取り、劫火の洗礼によって、ただれた心身を鍛え直すならば、この国難は国家復興の機縁となり、いわゆるわざわい転じて福となす」と国民に奮起を呼びかけた▼後藤はロシア革命にも言及しているが、一大実験場として注目していたのであり、どのような結末を辿ったかは周知の事実である。世の中が大変動期であった時代に、「赤化」を恐れることなく、後藤は「わが国体の精華を明確に認識せよ」と述べた。それは「わが大家族主義の文明」に立脚することであった▼後藤の弁は今の日本にこそあてはまる。新型コロナウイルスの感染拡大や尖閣諸島への中共の侵略の危機に直面して、私たちは今国難に対処することを迫られている。「国民的神経衰弱」から脱却して、国家として身構えなければならないのである。
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