ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2012.7.26 昨日の通院日に読んだ2冊

2012-07-26 19:28:59 | 読書
 昨日は2冊読めた。
 1冊目は安藤寿康さんの「遺伝子の不都合な真実―すべての能力は遺伝である」(ちくま新書)。
 表紙の裏には「勉強が出来るのは生まれつきなのか?仕事に成功するための適性や才能は遺伝のせいなのか?IQ、性格、学歴やお金を稼ぐ力まで、人の能力の遺伝を徹底分析。だれもがうすうす感じていながら、ことさらには認めづらい不都合な真実を、行動遺伝学の最前線から明らかにする。親から子への能力の遺伝の正体を解きながら、教育と人間の多様性を考える!」とある。

 著者からは、この本を補う3つのメッセージが挙げられている。1つめは「遺伝とは親のもっているものがそのまま子どもに伝わることだ」とか、「遺伝だと勉強や努力や教育をしても役に立たない」という考えは遺伝の法則から導き出されるものではないということに気づく。2つめは、心理学、教育学や人文社会科学全般が、遺伝学や広く生命科学に隷属するものではなく、両者を対等につきあわせることで、生命科学が逆に見落としがちなことに気づく。3つめは、私たちが求め続ける自由で平等な社会とは、遺伝子の制約を乗り越えることによって実現されるものではなく、むしろ遺伝子たちのふるまいをきちんとわきまえ、遺伝子たちと調和しようとする営みの中で実現されうるというもの。

 この本を手に取った時に、“「頭の良さは氏か育ちか。『遺伝vs環境』論争の真実を平明に開示する誠実な筆致に深い感銘を受けた」と福岡伸一さんが推薦!”という帯を見て、生物学者が書いた本なのだろうと思ったのだが、著者は自らを“バリバリの文系”と称する教育学博士である。
 あとがきで、本書は「遺伝マインドー遺伝子の織り成す行動と文化」の続編であり、編集者から依頼されたタイトル「~不都合な真実」が、いかにも新書らしい俗っぽい言い回しで抵抗感を抱いた、と書いておられる。
 が、こうしたタイトルの新書になったからこそ、私などの門外漢が手を取ることになったのだろうな、とも思える1冊だった。

 2冊目は黒川伊保子さんの「いい男は『や行』でねぎらう いい女は『は行』で癒す」(宝島社新書)。
 これまでにもこのブログでも紹介した記憶があるが、「夫婦脳~夫心と妻心は、なぜこうも相容れないのか」や「恋愛脳~男心と女心は、なぜこうもすれ違うのか」など、とても楽しませてもらっていたので、今回も手に取った。
 著者によると、ことばとかたちを関連付ける脳の力として注目すべきは、発音の体感だという。“日本語の音韻のうち、特に情感を漂わすものを選び、音韻の語感を一つ一つ明らかにして、それらが醸し出す日本語会話の情の文脈を紐解いてまいります。”と冒頭に書いておられる通り、語感辞書の作りになっていて、各節の最後には例文のかわりに書下ろしの「語感エッセイ―美人のくちびる-」が付いている。これが、恋愛エッセイというとおり、何とも艶っぽい内容なのだが、大切なひととの秘め事等の語り口に、いかにも黒川さんの甘え上手な可愛らしさが出ているなという印象だった。
 言葉とは魔法の呪文のように使える、という主張には頷ける(逆に失言でとんでもないことにもなりそうだが)。帯に紹介されている「あいうえお」によれば「ありがとう」は人間関係を築く上で肝心要の言葉、「いじわる」は恋を盛り上げる魅惑的かつセクシーな発音、「うれしい」は溢れる想いを伝える大切なことば、「あなたへ」のエ音は憧れを匂わすことば、「おはよう、おかえり、おやすみ」の“お”は変わらぬ安心感を脳に届ける音、だという。
 
 先日『私の履歴書』をご紹介した米沢富美子先生も物理学専攻だったが、この黒川さんも物理学科卒の理系女子。私などそれこそ“バリバリ”の文系で、物理と聞いただけで暗い過去を思い出すほど物理アレルギーが甚だしいので、それだけで眩しい。だが、こんなふうに脳科学を魅力的に面白く紐解いてしまうなんて、天は二物を与えるものよ、と思わず溜息が出てしまう。

 それにしても今日は暑かった。昼休みに散歩がてら外に出たら、日傘を差してはいても、照り返しでジリジリと焦げそうだった。まさに夏本番、である。

コメント (2)
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