ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2022.2.2 「2」が5つも並んだ日の贈り物 目指すのは「いい状態での長生き」

2022-02-02 20:00:44 | 日記
 先月、患者会主催で高野利実先生の東京新春講演会があった。コロナ禍の中、久しぶりにオンラインではなくリアルの開催で、15名の参加者があったという。先生には講演会で何度かお目にかかったことがあり、本当は馳せ参じたかったのだけれど、何分治療後の土曜日、ほぼ廃人同様で寝込んでいるのに都心まで一人で往復することは現実論としてあり得なかったので、諦めた。
 名誉会長さんのレポートによると、とても有意義な会だったようだ。残念無念。次回があれば是非とも、と思う。

 その高野先生が書いておられる読売新聞yomiDr.の連載はこのブログで何度か紹介させて頂いている。Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」の最新記事(2022年2月2日)は、今後も出来るだけ長く治療を続けていくうえでの大きな指針となると思うので、以下、転載させて頂く。

※  ※  ※(転載開始)

「抗がん剤が効かなくなったので別の薬に変える」と言われました。とても不安です
遠隔転移のある進行がんでは、積極的治療の中心となるのは、抗がん剤などの薬物療法で、いろいろな薬が順番に使われます。患者さんを支える「緩和ケア」は、どんな状況でも常に継続して行いますが、がんをたたく「積極的治療」については、継続するか、お休みするか、変更するか、といった決断を迫られることがあります。薬物療法の場合、効果が得られていれば、副作用が問題ない限り継続することが多いですが、効果がなかったり、副作用が強くなったりした場合には、中止を検討します。薬物療法の選択肢はいろいろとありますので、一つの薬を中止した場合、別の薬に切り換えることが多いわけですが、そういう「治療変更」に不安を感じている患者さんが多いようです。

薬が変わるたびに別の副作用 永遠に闘っているようで…
 今回、治療変更について、質問をいただきました。

 今まで頑張って続けてきた薬が効かなくなったのもショックですが、次の薬に変わるのも恐怖です。これまでもずっと、副作用対策に心を削ってきたわけですが、次の薬でも別の副作用と向き合っていくと考えると、重くつらい気持ちになります。薬が変わるたびに、いろんな副作用が重なっていき、永遠に闘っているようで疲れます。つらければ休んでもいいと言われますが、それもこわくてできません。病気も進んで、薬も変わって、これからどんなことが起きるのかと、ネガティブなことばかり考えてしまいます。どんな心持ちでいればいいのでしょうか?

 私からのアドバイスは、こうです。

〈1〉治療を変更しても、休んでも、目標に向かって進むことに変わりはありません。
〈2〉プラスとマイナスのバランスを考え、医療者とよく話し合いましょう。
〈3〉治療よりも生き方を中心に考えましょう。

効果はがんの大きさより、「いい状態で長生き」につながること
 進行がんに薬物療法を行って、がんの大きさが明らかに縮小する確率(奏効率)は、がんの種類、病気の状況、薬の種類によっていろいろですが、10~50%程度のことが多いです。50%の奏効率というのは、医師からみると「よく効く薬」となるわけですが、効くのが半分にすぎないとなれば、「それだけ?」と思う方が多いかと思います。ただ、「がんが小さくなること」が本当の意味での「効果」というわけではなく、奏効率で判断するのはあまり適切ではありません。

 真の効果とは、患者さん一人ひとりの目標に近づくことであって、治療が「いい状態で長生き」につながるのであれば、がんの大きさがどうであれ、それは「効いている」ということになります。ただ、長生きにつながっているかどうかを評価するのは困難なため、評価の容易な「がんの大きさ」を見て、便宜的に効果判定しているわけです。CT(コンピューター断層撮影)などの画像検査を行って、がんが明らかに大きくなっている場合は、「効いていない」と判断し、治療を中止します。がんが小さくなるか、大きさが横ばいの場合は、治療を継続します。一つの薬物療法を継続する期間もいろいろで、開始早々に中止になる場合から、何年も継続する場合までありますが、平均すると半年くらいです。

薬が効かなくなっても、目標に向かって進むことに変わりはない
 誰もが「ずっと効き続けてほしい」と願うわけですが、薬物療法というのは、最初は効いたとしても、いつかは効かなくなるもので、そのたびに治療を切り換えていくことになります。半年くらいの想定だったのが1年続けられたとしたら、それは「よく効いた」ということになるわけですが、患者さん自身はなかなかそう思えず、どんなに効いたとしても、治療切り換えを残念に思ってしまいます。どういう心持ちでいるのがいいのかは難しいところですが、治療変更はこれからも繰り返しあることなので、あらかじめそれを想定しておきながら、常に目標を見据えて進んでいくのがよいと思っています。治療が変わっても、治療を休んでも、目標に向かって進むことに変わりはありません。

 治療効果だけでなく、副作用の評価と対策も重要です。副作用が起きないように予防し、起きた副作用に対するケアを行い、投与法も調整し、それでも副作用がきついようであれば治療の中止を考えます。副作用対策も進歩していますので、つらい症状は抱え込むことなく、必ず医療者に伝えて、早めにケアを受けることが重要です。

 治療すればするほどつらくなり、自分の考える目標に逆行していると感じるのであれば、その治療はやめた方がよいです。「治療は続けなければいけない」と思って、頑張ってしまう患者さんも多いのですが、治療を続けるべきなのは、副作用があったとしても、それを上回る「治療効果」が得られて、目標に近づけていると実感できている場合に限られます。どんな治療にもプラス(効果)とマイナス(副作用)があり、そのバランスで考えることが重要です。

 抗がん剤は、「つらくても耐えて頑張る」ものではなく、「楽に過ごせるようにうまく使う」ものです。そう思えていないのであれば、治療継続が適切なのか、担当医と話し合った方がよいでしょう。

 次の治療を考えるときも、プラスとマイナスのバランスをよく考えることが重要です。それぞれの選択肢について、期待される効果と起こりうる副作用を理解した上で、自分の考える目標に照らして、治療法を選択します。どんなに予測しても、やってみないとわからない部分が多いのが医療の難しいところですが、治療開始後もプラスとマイナスのバランスを評価しながら、治療を継続するか中止するかをよく話し合っていく必要があります。

 治療の選択肢がたくさんある中で、「積極的治療をお休みする」という選択肢も常に存在します。それが、「いい状態で長生きする」という目標に近づける最もよい選択肢となることもあります。「何か治療をしていないといけない」と思い込む必要はありません。積極的治療をお休みしたとしても、「緩和ケア」は積極的に行いますので、「何もしない」ということにはなりません。

「残されたカード」のことばかり考えないで
 残された薬物療法の選択肢をトランプのカードのように数えて、それが手元から減っていくようなイメージで過ごしている患者さんも多いのですが、「手元のカードのことばかり考えるのはやめてみましょう」というアドバイスをよくします。残されたカードが人生のすべてだと思って、それだけを見つめ、カードが1枚減ることを絶望的にとらえてしまいがちなのですが、治療というのは、あくまでも道具の一つであって、人生のすべてではありません。手元から視野を広げて、家族や身近な人たち、これまでの人生で大切にしてきたことを思い出し、これからどのように過ごしていきたいのかを考えてみるとよいと思います。治療よりも大事なことはいくらでもありますので、治療を中心に考えるのではなく、自分の生き方を中心に考えるのが得策です。

 どう生きていくかを考える中で、道具としての治療をうまく使っていくわけですが、道具はたくさんありますので、それがなくなることを心配する必要はなく、また、用意された道具をすべて使わなければいけないと思う必要もありません。もちろん、がんの症状や治療の副作用によって、つらい状況もあるでしょうが、つらさをやわらげ、自分らしく生きるのを支えるために、緩和ケアという道具をうまく使うことも重要です。道具の種類が変わるとしても、自分の生き方が変わるわけではありませんので、これからも道具をうまく活用しながら、自分らしく過ごしていただきたいと思います。(高野利実 がん研有明病院乳腺内科部長)

(転載終了)※  ※  ※

 まさに、そうである。しみじみと先生の言葉が身体に広がっていく感じだ。
 治療薬の変更は、長く治療を続けていても慣れるものではない。毎回のように不安が付きまとう。効くかどうかやってみないとわからない。自分の身体で人体実験をする、いわば博打である。それでもやらないという選択肢は今までの私にはなかったので、ここまで長く病と共存出来ているのだと思う。

 14年ほぼ休まずに化学療法を続けて来れば、色々な副作用が溜まりに溜まって、どの薬の影響でどの不調が出ているのか、もうわからない部分もある。それは主治医も同じ感想を持っておられるようだ。残されたカードは数少ない。けれどそれを考えても始まらないし、今までも医学の進歩で新しい薬に十分助けられてきた。
 今はとにかく標準治療以外のものに手を出さず、淡々とエンハーツを続けよう。カドサイラが30クール出来たから、出来ればエンハーツもそのくらい出来るかな、と当初思った。それを口に出したら、主治医からは(その副作用の状態で)それはちょっと難しいのでは、と言われたけれど、今24クール終わったところ、あと6クールも夢ではないかもしれない。

 昨年5月頃、エンハーツ治療を始めてもうすぐ1年だというタイミングで、そろそろ効きが悪くなってきたという判断もあった。けれど、それ以降段階的に減量をし、間隔も4週間に開けながらも10か月近く腫瘍が大きくならないでいてくれている。土俵際で頑張ってくれるエンハーツの力だ。
 ともあれ、今の影が全く消えてなくなる、ということは期待していないし、それはいくら欲張りな私でも望み過ぎ。今の大きさであれば、ひとまず普通の生活が十分に送れている。だから小さくならなくとも大きくならないで、現状維持できているとすれば万々歳である。

 そうはいっても、いくら無敵のエンハーツでも永遠に効くことはないだろう。その時はその時、一つの薬が効くのは平均して半年ということを考えれば、既に1年半、3倍も長い間効いている、ということになる。もしエンハーツの次の薬にチェンジするタイミングが来たら、静かに受け入れてやってみよう。
 その後、もし使える薬がなくなったとしたら、かつて使った薬に再チャレンジするという選択肢も視野に入れながらちょっとだけもがこう。
 それでも難しい状態になれば、ちゃんとその状況を受け入れよう。生まれてきたら人は必ず老いて死んでいく。それが病のおかげで少し早くなっただけ、ということを言い聞かせながら。
 けれど、今目指すべくは、少しでもいい状態で長生きすること、である。
コメント
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