カタカナ書きのタイトルから最初に頭に浮かんだ漢字は「派遣アニメ」だった。
読んでみると、それは「覇権アニメ」だとわかる。そのクールで一番のアニメに
与えられる称号。業界側からすれば、パッケージの売り上げ1位の作品だが、
ファンの見方では、一番印象に残った作品を指す。
ものさしはひとつではない。それが最後になって生きてくる。
ひとことで言うと、この小説は出色のおしごと小説だと思う。
舞台はアニメ業界。最初のパートでは、プロデューサー有科香屋子が主人公。
制作途中でとつぜん行方をくらましたイケメンで天才肌の王子監督に振り回されながら
魔法少女もののアニメ『リデルライト』を完成させるまでのおはなし。
2番目のパートは監督の斎藤瞳。スタッフやアイドル声優との軋轢に悩まされながらも
ロボットものアニメ『サウンドバック(通称サバク)』を覇権アニメにするべく
奮闘する。
3番目のパートはアニメーター並澤和奈。新潟の田舎町「選永市」の
地域密着型アニメ会社で仕事している。男子ともオシャレとも縁のない
非リア充女子ながら、アニメファンからは《神》原画の描き手として
注目されている。彼女は『リデルライト』にも『サバク』にも関わっている。
この3人のアニメを愛する女性たちがひたむきにがんばる姿がとてもいい。
さらに、『サバク』の舞台が選永市をモデルにしていることから、人気に乗じて
ファンの「聖地巡礼」で町おこししようと、市役所観光課の熱血公務員・宗森周平が
登場すると、ここからはまるで『ナポレオンの村』みたいになってくる。
頭の固い市役所や商工会に対して、300年の伝統がある河永祭りの舟下りに
『サバク』の舟が参加することをどうやって認めさせるか、どこからも出ない
舟の制作費用をどうやってまかなうか、次々に問題が立ちはだかるのだ。
王子監督が選永市出身というのはできすぎな気がしないでもないが、
別々に語られた3つのパートの登場人物たち全員が選永市のお祭りに
集結するラストの盛り上がりは半端ない。
読後、すがすがしい気持ちになれることうけあい。
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