好みではないと言いながら、またまたおもしろい時代小説を見つけてしまった。
そして、浅田次郎の小説ではこれが一番好きかもしれない。
主人公は十九歳にして、不慮の死を遂げた父の跡を継いで御供頭となり、
参勤行列の差配をしなくてはならなくなる。もとより急死であったため、
父からはなにひとつお役目の引継ぎを受けておらず、しかたなく家伝の
行軍録だけを頼りに、はじめての参勤行列を仕切ることになる。
だがそれは200年以上前の江戸時代初期に書かれたもので、
十四代将軍の世では、すでに時代遅れもはなはだしい内容。
巡りあわせの悪いことには、助けとなるはずの供頭添役もまた父の急死に遭って
お役目を引き継いだばかりの十七歳で、まったく頼りにならないのだった。
(このあまりにも都合のよすぎる偶然はあとで納得できる理由が明らかになる)
この小説の魅力は、主人公を取りまく多彩なキャラクターだろう。
お殿様から下士、加賀のお姫様から他藩の大名、宿場の役人から町人、
ついでに馬までが、やる気はあるもののお役目の知識はないに等しい供頭を
さまざまな形で助けることになる。なかでも菩提寺の住職の活躍は八面六臂。
話はしかし単に慣れないお役目をうまくやりおおせるかどうかにとどまらず、
裏に大きな陰謀があることがわかって、ハラハラドキドキの展開となる。
とはいうものの、ユーモアたっぷりの語り口に、あちこちで大笑いせずにはいられない。
中山道はうちの近くも通っていて、西美濃を出発点とするこの参勤行列は
当市の本陣に宿泊したりもするので、なんだか親近感がわく。
それにしても、昔の旅は大変だったのだなあとつくづく思う。
数年前に馬籠から妻籠まで歩いたことがあるが、最後のほうでは足ががくがく。
でも、道中にはそれよりけわしい峠がいくつもあるのだから。
これはおまけみたいなものだが、表紙のイラストがまた楽しい。
読む前には意味不明な科白が、読んだあとで見直すとここでもまた大笑いできる。