散日拾遺

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点描① モンゴル便り

2018-08-19 10:44:17 | 日記

2018年8月19日(日)

 あっという間に一週間経過した。いろんなことが起きるほど書くことにあてられる時間は少ないから、過ごした時間が豊かであればあるほど記載は薄少になる理屈である。人生の基本的なジレンマと言いたいようなもので、比べては申し訳ないがマルクス・アウレリウスをはじめ多忙の中で多くを書き残した人々の、才能と意志と体力には驚くばかりである。

 及びも何もつかないが、せめていくつか点描しておこう。

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 知人の中に、最近頻繁にモンゴルへ往復している人がある。観光ではない研究が目的・・・には違いないが、その頻度と熱意が尋常ではない。彼の地で調査や講演などしているうちに、向こうの人々からすっかり気に入られたというのが実情らしく、明敏な知性と共感性が国境に限定されないことを示している。求婚されることなどもあったらしいが、これは丁重に謝絶したとのことであった。

 この人が今年何度目かの訪蒙から帰り、こんなメールを送ってくれた。読んだのが8月15日の未明、終/敗戦と特段の関連もないようでいて、そうは言い切れないものを何かどこかに感じている。許可を得て転載。

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 モンゴル出張から戻りました。モンゴルでは気が張っていましたが、戻ったとたんに体調を崩しました。激しい頭痛とめまいで寝込んでいました。

 おかげさまでだいぶ復活したようです。返信が遅くなり失礼しました。

 今回は(も)携帯の電波も入らないようなところで、ゲルで寝泊まりする等、かなりハードなフィールドワークでした。洪水被災地の調査のほか、バグ長(自治会長のようなものです)達と防災推進についての意見交換もでき、とても有意義な出張となりました。

 ゲル泊では、トイレなし、水道なし、洗面なし、風呂なし、プライバシーなし、清潔感なし、乳搾りあり、羊解体あり、昼間からウォッカ飲みあり、といった日本ではありえないことが日常です。

 夜は周りに明かりも人工物も一切なく、標高がたかいため、地平線まで無数の星が煌めいていました。あんなにリッチな天の川をみたのは生まれて初めてです。星に手が届きそうな、星をこの手ですくい取れそうな、それくらいの星空でした。あまりの美しさに日本人が大いに感動していると、それを現地のひとは不思議がるのです。

 太陽が上ると、真っ青な、どこまでも真っ青な空!その下にやはりどこまでも続く緑の草原には、ゆったりと草を食む羊や山羊たち。

 便利さとひきかえに失ったものはあまりにも大きいと、つくづく思いました。

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 空の青さ、海の青さの分、郷里の山野はほんの少しモンゴルに近い。松山市内から訪ねて来た人が、わずか20kmで空気がこれほど清澄になるかと驚くほどである。慣れるにつれ、つい上下水道の不備をはじめとする不便の方を意識しがちになるが、それを抜本的に変えようとすれば必ず別のものを失うことになる。我に返る思いがした。

 不便さと引き換えに与えられているものに感謝して、魂を養うようこころがけます、と返信。2018年8月15日の感慨。

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