2018年8月21日(火)
中央学院(千葉)5-4 (109)
星稜(石川)13-11 (184)
高知商(高知)3-1 (121)
報徳学園(兵庫)3-2 (57)・・・先発池内
大阪桐蔭(大阪)2-5 (136)
望外の大活躍、被災地含め愛媛全県が喝采しているに違いない。本当によくやった。星稜・竹谷、高知商・北代、報徳の小園や木村など、相手チームの選手らの顔も思い浮かべ拍手を送る。
済美のエース山口直哉は準々決勝で池内の先発をあおいだ他は予選から全イニングをひとりで投げ抜き、甲子園での投球が計607球に及んだ。カッコ内が各試合の投球数で、星稜戦後には「投球過多」が問題になった。2013年のセンバツで先輩の安樂智大が772球を投げて準優勝に貢献したものの、その後に故障したことが引き合いに出されている。確かにあの年、決勝で大敗を喫した安樂はおよそ本来の出来ではなかった。
愛媛野球の根性論なども話題になったが、1969年(51回大会)松山商 vs 三沢高校の延長18回再試合では、三沢が太田幸司の連投だったのに対して松商は第二エースの中村が投げており、別段愛媛野球の伝統の問題ではない。あたら好投手を故障に追い込みたくはなくファンとしては工夫を望みたいが、山口直哉はたぶん故障しない。投げ方は柔軟、精神が強靭なのである。淡路島出身だそうだが実に大した球児である。
大阪桐蔭戦では明らかに限界に達しながら粘り強く投げ、連打を許さず失点を5で食い止めた。超・強打の大阪桐蔭相手に5点なら御の字で、勝てなかったのは攻撃側の問題である。1番矢野、6番山口、9番政吉と脇役が活躍するものの主砲に快音が聞かれず、監督采配も珍しくちぐはぐだった。前半のチャンスで強攻失敗を繰り返し、8回に3点のビハインドで4番が送りバントでは何をやってるのか分からない。
・・・などと、エアコンかけて気楽に眺めてる方は何とでも言える。ほんとによく頑張った、ありがとう。嘗て松山商は、地方予選では頼りないのに甲子園に出ると負けないと言われた。済美がその後を継いだかのようで、出れば必ず何かしら話題を作ってくれる。proud of YOU!
(写真は https://n2-ch.com/sports/yamaguchinaoya/ より拝借)
済美が決勝進出を逸して、実は安堵している自分がある。決勝の相手は金足農業、「東北悲願の大旗」「秋田県勢、第一回大会以来103年ぶりの決勝進出」で、済美は完全なアウェイ状況に置かれることになっただろう。春夏連覇を逸した2004年86回大会決勝の再現である。あの時、エース福井(現・広島カープ)、主砲鵜久森(現・ヤクルトスワローズ)ら済美のナインは、強力な駒大苫小牧打線に加え、後押しする5万観衆を相手につらい戦いを強いられた。東北を飛び越え北海道に初の優勝をと、にわかファンが無責任な肩入れできわめて不公平な状況を作り出していた。10対13、史上に残る打撃戦の公然たる裏事情である。今度はあの時よりもさらにひどいことになっただろう。
秋田県人や東北の人々を難ずるのではない。この人々が金足農業を応援するのは、僕が済美に声援を送るのと同様に当然のことである。問題はどちらにも属さない「中立」な立場で、かつ球場まで足を運ぶ人々だ。この人々には実は重要な役割があり、両チームの選手に等しく声援を送ることによって、愛媛県人や秋田県人の一方的な思い入れを希釈緩和し、球場に和やかな見守りの空気を作り出すことが求められている。今回のように強いセンチメントが働く時こそ「中立」者の役割は重い。
そのように「中立」なはずの観客が一方に肩入れしたらどうなるか。相手チームの一挙手一投足に温かい歓声が沸くいっぽう、自分たちのそれには小さな拍手と沈黙しか与えられないことが、球児らをどれだけ意気阻喪させ傷つけることか。判官贔屓などと言えばきれいに聞こえるが、実態は願望を無反省に投影した集団エゴイズムに他ならない。コロセウムで殺戮劇に熱狂した古代ローマの「市民」らと基本的に変わらぬ図式で、郷土の球児らがそんな場に立つのは二度と見たくない。
「大阪桐蔭ならいいのか」と言われそうだが、こちらは地元関西のファンもあり、「史上初、二度目の春夏連覇」への期待もありで、さほど極端に傾くこともないはずだ。球場が両派に二分される危険はあるだろうけれど。
もうひとつ、仮に決勝が「済美 vs 金足農業」ならば接戦は必至、それこそ決定的な場面で「9対5万」の構図が出現した公算大である。吉田は超・好投手だが、済美の山口、高知商の北代と並んで予選からただ一人で投げ抜き、疲れていないはずがない。大阪桐蔭相手では2013年センバツの安樂同様、思いがけず差が開く可能性もあり、その場合は集団エゴイズムも発散の機会を失うだろう。
まもなくプレイボール、甲子園に平安あれ。
Ω