散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
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あえて些事を記すこと

2019-07-19 08:50:19 | 日記

2019年7月18日(木)

 よりによってこの日この時に。

 今週は『君の名は』を録画で見る機会があり、隕石 ~ 彗星の片割れの衝突で村が消滅するという宇宙的なカタストロフまでも自在にしなやかに取り込むアニメの力に、一驚も二驚も喫したところだった。内に向かっても外に向かっても、言葉というものの発しようがない。祈りにもならない祈りめいたものを不明瞭につぶやくのが精一杯である。

 こんな時だからこそ。
 警察 ~ 京都府警捜査一課は逮捕状請求前に容疑者名を公表し、これについて「事態の重大性を鑑みた」と説明した由。これは説明になっていないように僕には思われる。容疑者が逃亡し、身柄確保のため広く協力が必要といった「緊急性」が理由になるならさておき、事態が重大であるならばなおのこと、容疑者名の公表には慎重なはずのものではないか。
 「早く正体を知りたい」という一般の空気に忖度したというほうが分かりやすく、そうだとしたら警察という最強の権力装置の心得としては、逆ではないかと思う。容疑者のプロファイルのごくわずかしか知られていない段階で、「何らかの精神疾患があった」云々という情報が断片的に伝えられることには、さらに嫌な予感が伴う。

 警察といえば、ここ数日気になることが伝えられており、それがこの大事件に皆の注意が行く中で立ち消えになるならば憂わしい。

 7月15日、札幌:
 「安倍首相はJR札幌駅前で7月15日午後4時40分ごろ、選挙カーに登壇。自民党公認候補の応援演説を始めた直後、道路を隔てて約20メートル離れた位置にいた聴衆の男性1人が『安倍やめろ、帰れ』などと連呼し始めた。
 これに対し、警備していた制服・私服の警官5、6人が男性を取り囲み、服や体をつかんで数十メートル後方へ移動させた。また年金問題にふれた首相に対して『増税反対』と叫んだ女性1人も、警官5、6人に取り囲まれ、腕をつかまれて後方へ移動させられた。
 いずれのヤジでも、演説が中断することはなかったとされている。」
https://webronza.asahi.com/national/articles/2019071700003.html 

 7月18日、大津:
 「参院選の自民党公認候補の応援演説をしている安倍晋三首相(自民党総裁)にヤジを飛ばす男性を、警備の警察官らが会場後方で囲んで動けなくする場面があった。 」
https://www.asahi.com/articles/ASM7L661GM7LULFA03Z.html 

 国会の壮絶愚劣なヤジ合戦に辟易している国民に対して、これはまた随分と行儀の良さを強いるものだ。私的には選挙演説をヤジることが賢明とも生産的とも思わないし、ロンドン・ハイドパークのスピーカーズコーナーを思い出して憂鬱な気もちも浮かんでくるが、警察が身体的な介入を行うとなれば話は全く別である。
 精神医療の現場では、もうだいぶ前から警察が何もしてくれないことが悩みの種になっている。たとえば具合の悪い患者さんが家庭で不穏をきたし、家族は病院に連れていきたいが、とても手に負えないといった状況。こういったときに110番すると、警官はすぐ駆けつけてくれるがすぐまた帰ってしまう。昔のように病院へ連れていってくれはしないというのである。
 これは理由のあることで、人権侵害を避けるために身体的な介入を手控え、「民事不介入」の原則を守ることは警察の方向性として正しい。こうした事態を一般の民事紛争と同一視してよいかどうかは検討の余地があるが、警察を頼むよりも精神科救急制度を整備する方向を目ざすのが、制度設計としては本筋だし建設的でもあろう。
 ただ、こうした「民事」に関して介入を控える一方、「政治」に関して介入を強化するのでは、どうにも筋が通らない。たいせつな根本のバランスをあまりにも欠くのではないか。香港やウイグルを連想することが、決して飛躍ではないと思われる瞬間である。

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 金曜日は診療、土曜日は博士課程指導。自分の持ち場を守りながら、心に移りゆくよしなし事をそこはかとなく書きつくるほか、手向ける葉も花ももちあわせないもどかしさ。

合掌