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散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
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傷つかない力/衝動買い

2013-08-04 07:43:22 | 日記
2013年8月4日(日)

朝のラジオで、芥川賞受賞作家へのインタビューあり。
藤野可織『爪と目』、書店に山積み、サイン会の広告も出ていたっけ。

中で主人公が亡母の綴っていたブログに出会う場面があり、「ブログは時間を編集する」という表現が用いられているんだそうだ。

なるほどなあ・・・

洗練度の高い「作品」としての提示もできるし、そういうブログも多いのだろう。そちらが本線かな。
良いものがずいぶんあるんだろう。
当ブログは取り散らかしの雑記帳で、恥ずかしいことである。
恥ずかしくはあるが、なるべく未編集で素材を書き留めておこう。

この作品で何を描きたかったかと、定番の無茶な質問も想定内と見えて、
「傷つかない力」を中心にきれいに答えをまとめた。

なるほど・・・
この作家のスタンスは分からないが、ある確かな社会の流れを直感的に(?)つかんでいるようにも想像される。いかに傷ついたかという話なら、飽きるほど聞かされてきた。

朝刊一面には、世界で初めて原爆症と診断された女性のこと。
広島で被爆の後、東京の実家に急帰したが8月24日に亡くなった。
その幻のカルテの一部が発見されたとある。
トラウマだって?
原爆を知ってから口にしようや。

今、はやっている小説を読めないのは、昔からのクセみたいなものだが、たまには読んでみようかな。

*****

何時の頃からか、頼みもしないのにタダで送られてくるようになった「H社の本棚」
そこに小池昌代という作家が『山姥(やまんば)の辞書』なるエッセイを連載している。
最新のものを、転記させていただく。

この著者も大した人だが、佐野洋子さんの逸話もすごい。
女性たち、すごいな。

*****

十 「咲く」

 梅雨に入ったのだろうか。灰色の雲が重たい日。駅前の花屋を通りかかると「芍薬祭」をやっていた。五本で千円。花を買うことなど、普段、めったにないが、ハンサムなお兄さんに、「白、ピンク、濃い桃色」と気分よく指図して、三種とりまぜ、衝動買い。
「蕾は混ぜますか?」
「混ぜてください」。
 衝動買いは楽しい。身銭というが、それを切るとき、本当に刃物で薄く傷付けられた気がする。人にごちそうしてもらったり、タダで何かを見たり味わったりしても、こういうふうには傷つかない。傷を負わないのは、もちろんありがたいが、身銭を切るときの痛い感じ、あれこそは生きる実感である。
 身を張って仕事をし、それで得た金をぱっと使う。プラスマイナスゼロになるという感覚は、日常における爆発であり、それは小さな「死」に似ている。
 佐野洋子さんは、癌とわかって余命を知らされたとき、ジャガーを衝動買いしたそうだ。ジャガーと芍薬。スケールが違いすぎる。が、わたしには、佐野さんの心が分かる気がする。芍薬を買うとき、わたしは日常の「崖」を、ひょいと飛び降りるような気分だった。
 花を買う。何の理由もなく花を買う。買ったとき混ぜてもらった蕾は、なんと、一夜にして、すべて開いた。あきれるほど、華やかな花。その鮮やかさが心に映り、わたしの心が咲ききったかのようだ。
 芍薬を、これほど美しいと思ったことはない。わたしは驚いていた。自分の飢餓感に。「まことの花」とはこのように、心に照り映えた花のことか。若くない今だからこそ、芍薬の魂そのものに同化できるのだろう。
 二十年くらい前、わたしは祖母が最後に入院していた病院へ、芍薬の花をどっさり持っていった。紫紅色ばかり。二十本ほどもあっただろうか。祖母は花を見て、「わあ」と驚きの声をあげた。
 日頃、宝飾品を身につけるようなこともない、とても質素な祖母だったが、化粧を落とした、その末期の横顔は、鼻筋高く、額は秀で、わたしの目には麗人に見えた。
 お医者様のなかに、お気に入りの男性がいて、診てもらうとき、ドキドキすると言っていたらしい。老女にすぎない祖母の心臓にも、芍薬のような魂が咲いていたのだ。
 黒っぽい、地味な洋服ばかり着るわたしに、お願いだから、ぱーっと華やかなものを着なさい、お金あげるから、おしゃれをしなさい、と言った。
 わたしも今、同じことをよく、人に思う。だけど、本当に、色物を着こなせるのは、むしろ白髪が生えてきてからじゃないか。
 若い頃、わたしはピンク色が大嫌いだったが、いよいよ、これからだ、この色を着るのは。いつか、銀髪にショッキングピンクのシャツを着て、街を歩いてみたいのである。
 ああ、芍薬の花。百本欲しい。


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1 コメント

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ゾンビ革命 (勝沼)
2013-08-05 23:16:48
 藤野可織さんは「受賞を聞いた時に何をしてましたか?」という問いに「ゾンビ革命という映画を見ていました」と答えて私達ゾンビ映画ファンを喜ばせたのですが、この「ゾンビ革命」という映画のテーマをよく考えてみるとこの”傷つかない力”という言葉がピッタリ来るのです。無職のダメ男の中年がゾンビ騒動を機にハッスルするストーリーなのですが、その根底にあるのはゾンビ発生も今までの国内のゴタゴタと同じようなもんだというキューバ人のものすごいオプティミズムなのです。キューバでこんな映画がつくられるとは!と驚きます。
 そこまで考えてコメントしてたのだとしたらすごい人です。
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