2017年12月9日(土)
久保なみよさんが九品仏のギャラリーで個展を開いておられるので、午後の暖かい時間に伺ってみた。通りに面した明るく快適な空間だが、オーナーは少し前に他界なさったのだという。遺志が生かされて開催に至ったことや、これまで使わなかった焦げ茶色を、これまたある人の遺した絶品の絵の具に出会って使ってみたことなど、宝物のような逸話をいろいろ聞かせてくださった。
入って左側に大作、右側の壁には大小の作品群が飾られている。
左のは、実際には幅1.5mぐらいある。布地かと思ったら、麻(あさ)で作られた紙だそうだ。右壁の作品群も、素麺の木箱の蓋に描かれたものや、もともと大きな紙に描かれたのを少々窮屈に枠に押し込んで画面が波打っているものなど、茶目っ気や思いつきがちりばめられて自由このうえもない。「阿蘇」がひとつのテーマになっているようで、たくましい稜線や火の国の激しさ、山焼きの黒の美しさなどが随所に描き混まれている。たとえばこれ、会場では90度横向きに掛けられていたが、実は阿蘇の風景なんだって。
僕は下掲のものがすごく気に入って「ブックカバーにしたい」と言ったら、「どうぞやってみて」と笑顔でおっしゃった。それ、凡人には簡単じゃないんですよ・・・
被災地やら海外やら東奔西走の間にいつ制作なさるのかと思うが、秘訣はここにあり。「今朝もちょっと描いて、乾くのを待つ間にここへね」と。本当に描くことがお好きで、暇さえあればいつも描いていらっしゃるのだ。時間は作るもので、人は本当にしたいことのためなら時間は作れるのである。ああ恥ずかしい。
「最後の最後に、空中で、彼女はいちばん大切なことがわかったんだ」ゾルバがつぶやいた。
「いちばん大切なこと?」
「飛ぶことができるのは、心の底からそうしたいと願った者が、全力で挑戦したときだけだ、ということ」ゾルバは答えた。
『カモメに飛ぶことを教えた猫』ルイス・セプルベダ/河野真理子(訳)白水社
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※ 写真掲載について制作者の許可あり、深謝します。