散日拾遺

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より大きな危険(続) ~ クマ号事件の事実関係と判決

2015-07-16 07:57:19 | 日記

2015年7月16日(木)

 毎日毎度のことだが、たとえば先週の金曜日、荻窪駅前。

 横断歩道を渡ろうとすると、右手からワゴン車がやってきた。こちらを認めて減速し、横断歩道の前で停止する。その横からあらわれた自転車、20代後半ぐらいの女性が悠然とワゴン車の前に出て、ちらりと一瞥をくれるがむろん止まる様子もなく、当然のように横断歩道を横切って通り過ぎる。歩行者である僕と、停止したワゴン車が、それをなすすべもなく見送っている。自転車の女性がイヤホンで耳をふさいでいたかどうか、そこは記憶がハッキリしない。

 自転車ってスペードのエースなのね。他の誰よりも強く、信号無視も歩行者の権利侵害も、すべて許されちゃうのだ。

***

 いずれ項を改めて書くんですが、文科一類に入学したけれど法律の勉強がどうにも性に合わず、それで結局、進路を変更することになった・・・という言明は、とりあえず僕自身のことである。ところがどうやら、全く同じことが次男に起きたらしいのである。ただし、そこから医学部へ行き直したというのが僕のフザケたところで、次男は法学部ではなく専門課程の教養学科に進むという正道を選んだ。彼の方がマジメであり、逃げないのである。

 とはいえ僕には僕の弁明がある。法学部では落ちこぼれに近い不良学生だったけれど、そこで学んだいくつかのことは今日まで使える生きた財産になった。サミュエルソンの教科書を使った経済学入門で、「地獄へ至る道は善意で敷きつめられている」と学んだこと、つまり、個別の善意の総和は必ずしも社会全体の向上をもたらすとは限らず、だからこそ道徳論や教育論では足りなくて、社会科学が必要になると知ったことなどは、それだけのために一つ所に4年通ったとしても無駄ではなかったと思っている。

 法学についても似たことがあった。ただ、「クマ丸」についての資料が意外にもネットからは出てこないので、次男の管理する別室の本棚から掘り出してもらった。

 米倉明『法学入門』(東京大学出版会)、これですよ、ありました。「クマ丸」じゃなくて「クマ号」だったんだね、失礼。

***

{判例1] 損害賠償請求事件(クマ号事件) ~ 豊島簡裁昭和43年3月29日判決

< 事実 >

① 事実関係の大要は下図の通り。以下、補足する。

② クマがX方の庭に侵入し、当時つながれていたマルに咬みつき負傷させた。

③ Yはクマをつなぐのを怠ることが多く、事故当時も怠っていた。

④ マルの受けた傷の程度は、家畜病院に入院して手術を要する全治約20日間の傷であった。

⑤ Xはマルを大竹家畜病院へ入院させ、手術その他の治療費として34,500円を支払った。

⑥ X(原告)よりY(被告)を相手に訴を提起。

1 請求の趣旨:

 被告は原告に対し8万円およびこれに対する昭和42年3月1日から支払済まで年5分の利率による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求める。

2 請求の原因:

(1) 昭和42年2月5日午前5時頃、Yの飼育する雑種日本犬クマがX方庭内に垣根をくぐって侵入し、Xの所有飼育する雑種芝犬(ママ・・・米倉先生、誤植がありましたよ!)マルの咽頭部その他を咬み、治療に約一ヶ月を要する重傷を与えた。

(2) Xは当時マルをX方庭につないでいた。右事故は、犬の飼育占有者としてクマをつないで他人に害を与えぬよう保管すべき義務があるのに、これを怠ったYの過失にもとづくものである。

(3) Xはマルを直ちに杉並区の大竹家畜病院に入院させたが、その治療費に34,500円を要した。また、Xの妻Aは愛犬マルの受傷のショックにより、高血圧、心筋障害にかかり、下石神井の関口医院に通院加療し、治療費6,370円、通院に要する雑費9,130円、合計15,500円を要した。X自身も愛犬マルの受傷により精神的打撃を受けたが、その慰藉料は3万円に相当する。

(4) Yは、Xの前記不法行為によってXの受けた物的損害5万円および精神的損害3万円、合計8万円をXに賠償として支払うべき義務があるのに、これを履行しない。

(5) よってXはYに対し損害賠償として8万円およびこれに対する昭和42年3月1日から支払済まで年5分の利率による延滞損害金の支払いを求める。

3 立証(省略)

⑦ Yの主張

1 請求の趣旨に対する答弁 ー Xの請求を棄却する、訴訟費用はXの負担とする、との判決を求める。

2 請求の原因に対する答弁 ー X主張の請求原因中、Yが雑種犬クマを飼育してこれを占有していることは認めるが、その余の事実を否認する。

3 立証(省略)

 

< 判決 >

[主文]

 被告は原告に対し、金39,500円および右金員に対する昭和42年3月1日から支払済まで年5分の利率による金員を支払え。

 原告のその余の請求はこれを棄却する。

 訴訟費用は三等分し、その一を原告の負担とし、その二を被告の負担とする。

(以下省略)

***

 さていかがでしょう?

 ここから僕が何を学ぶことになったかは、帰宅後に続ける。

 

 


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