プリミティヴクール

シーカヤック海洋冒険家で、アイランドストリーム代表である、平田 毅(ひらた つよし)のブログ。海、自然、旅の話満載。

潮流の世界への旅

2015-12-14 17:24:44 | 日記

 しばらくブログをさぼっていました。

 先日、瀬戸内カヤック横断隊から帰ってきました。
 山口県・祝島からシーカヤックを漕ぎ、途中様々な島でキャンプしながら香川県・小豆島を目指す、7日間、約280キロの海旅。ツアーではなく、有志のシーカヤッカーが自由に集まってチームを組むのですが、面白いのは誰が来るのか、何人参加するのか、集合場所に行くまで分からないところです。カヤックのハッチに積み込む7日間無補給分の食料、水、キャンプ道具はもちろん、現地までの艇の運搬から終了後の回収まで、誰がお膳立てするわけでもなく、全て自分自身で完結させることが前提になっています。なのでやる気のない人はもちろん来ないのですが、参加したければ下手だろうが上手かろうが、老若男女どこの国の人間だろうとOKというように、限りなくオープンに門戸が開かれている。
 そういうところが海文化特有のノリなわけですね。
 いずれにせよシーカヤックって海岸線散策、釣り、冒険、キャンプ、シュノーケリングなどなど、いろんな遊びに派生させていくことができるアウトドアの王様的存在なのですが、こういう最低限の衣食住をパッキングして移動していく海旅にこそ、エッセンス、真髄が集約されています。

 今回は19人の参加でした。
 今年は毎日のように向かい潮、向かい風に翻弄され、結局小豆島にはたどり着けず、岡山県・笠岡諸島の白石島で終了となりました。・・・というと、「完漕できなかったのか・・」となりがちですが、あくまで目標地点として小豆島があり、「そこに行けなければ失敗」とかそういうものでもないんですよね。最善を尽くしてコース取りを考え、ナヴィゲーションを行いながら進んでゆき、結果として白石島で終了したというだけの話です。一番大事なのは全力を尽くしつつ、無事に帰ってくること。距離は漕げれば漕げたに越したことはないけれど、距離は目的ではなく、手段。本当の目的は7日間の海旅を通して自分が何を思い、感じ、考え、そして何を得たかというところなんですよね。冒険的要素は多々あるけれど、別に冒険ってわけではない。レースでもない。思い出づくり、記念碑的イベントでもない。まあハタから見る分には、「ゴールしたか否か」という形しか見えないもんだから、漕破とかそういう観点で横断隊の意義を見がちだけれど、実際は参加者にしかわからない実感、海から何を得たか、どんな気づきがあったのか、という内面的なところに本質があるわけです。

 まあその辺のところは改めてレポートを書くことになっているのでここでは突っ込んだことは書きませんが、今回は特に瀬戸内の潮流の複雑さ、不可思議さについて思い知らされましたね。海図とか潮汐表とか色々を駆使して、だいたいの予想を立てながら進むのですが、追い潮のはずなのに全然潮に乗らなかったり、思わぬところで激潮が走っていたり、去年流れていた場所が全然流れていなかったりと、頭で考える領域を超えているのはもちろん、しばし科学的な方程式も当てはまらないことがあったりするのが海という世界。
 ほんとに難しい世界だなと思いましたね。
 一朝一夕でわかる世界ではない。
 潮流って月の引力によっておこるもので、その流れが地形や風や波や様々な要素が加わることによって千変万化する。その微細さ、ダイナミックさは人智を越えているなと実感するわけですが、そんな海の鼓動を如実に感じることができる乗り物って、こんにち、シーカヤックくらいしかないわけですね。裸一貫で、自分の命で真剣に対峙することによって感じることのできる、本当の息吹、鼓動。
 簡単にわかる世界ではないけれど、わからないということが分かる。
 世の中にはまだまだ人智を越えた世界がある、自然とは本当に複雑に、精巧にできているということが身をもってわかる。
 そういうのって、本当にリッチなことだと思いますね。

 まあ、ニブい人にはわからないだろうけれど、わかる人もだんだん増えてきている。 


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