対馬の白嶽、龍良山、御岳と立て続けに三つの山に登った。そのうち、南部にある龍良山は国内でも最大級の、縄文古来の照葉樹に覆われた極めて希少価値の高い原生林の山だが、それにまつわる話が面白い。
どこからか小舟でこの地に流されてきたシャーマンの女性が太陽光線によって受精し、産んだ子が天道法師で、その子の住処がこの山だったという。そこは誰も入ることが許されず、「オソロシドコロ」と呼ばれるイカツイ名の祭祀場所もあったりするゆえ、犯罪者が入りこんでも追跡できなかった。そういう森だったからこそ手付かずで残された。
一方北部にある御岳も聖なる山で、モミの木の原生林にはキタタキという50センチくらいになる固有のキツツキが生息していたが、この山は禁足地ではないゆえ、ジャンジャン人に荒らされ、キタタキは昭和初期に絶滅した。
天道法師とキタタキ、山の精という意味で通じてるように思う。前者は禁足地だったおかげで稀少な照葉樹の原生林として残されたが、そうではなかった後者の象徴キタタキは滅んでしまった。
これらの話からわかるのは、龍良山のオソロシドコロというのは、本当はそのイカツサとは真逆の、清らかなるもの、美しいもの、夢、ロマンディシズムなどのことであり、そういうものは得てしてすぐに踏みにじられ、壊されてしまうものなので、それを守るための鎧としてイカツイ命名にしたのだという気が、ぼくにはしてならなかった。