北宋(960~1127)の画家郭熙の「山水訓」に、「春山淡冶にして笑ふがごとく、夏山は蒼翠にして滴るが如し。秋山は明浄にして粧ふが如く、冬山は惨淡として眠るが如し」というのがある。この故事から、俳句では、
春は「山笑う」夏は「山滴る」秋は「山装う」冬は「山眠る」という季語が生まれた。
この句、箱根の摩崖仏と思いきや、作者によると大分県国東半島のそれだそうである。大分には、90か所に400体の摩崖仏があり、特に平安時代末期の作と言われている「大日如来(6.7m)」と「不動明王(8m)」が、国宝に指定されて、国内最古にして最大級の磨崖仏だそうである。
さて、梅雨時の長雨で凝灰岩から掘り出した摩崖仏が、濡れたために黒く輝いている。摩崖仏を巡る旅に出れば誰でも、神道と仏教、最澄と空海など、様々な歴史や人間の生死に思いを馳せることだろう。私も五十年前に放浪の旅の途中に立ち寄った、摩崖仏の御姿がかすかな記憶として残っている。
ショウブ(菖蒲)